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獣耳男子と恋人契約  作者: 花宵
第10章 悲しき邂逅
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1、調理実習

 十月に入り、少しだけ肌寒い季節になってきた。今は二限目の調理実習。食育の授業で、野菜を美味しく食べようというテーマのもと、野菜のカップケーキを作っている。


 使う野菜は、人参、玉ねぎ、さつまいも、かぼちゃの四種類。

 ランダムで振り分けられた私の班は、美香、笹山さん、カナちゃん、如月君の五人だ。


 まずは野菜の準備を、私と美香とカナちゃんで担当し、生地作りを笹山さんと如月君で手分けしてやることに。

 作り方を見ると、人参は細かくすりおろし、玉ねぎは薄くスライスしてバターで炒める。さつまいもとかぼちゃは一センチ角に切って下茹でして柔らかくしておくと書かれている。


「かぼちゃとか硬いやろうから野菜の下処理は俺に任せとき」

「それなら、私は茹でる用の鍋の準備をしておくわ」

「じゃあ私は玉ねぎを炒めるね」

「俺はお前が作ったのを試食する係だ」


 役割分担して調理を開始したのはいいが、一人部外者が紛れ込んでいる。


「何でシロがうちの班に居るの?」

「俺の班はお前が居る所だ」

「はいはい、試食係さんはあっちの席でお待ち下さい」


 カナちゃんはシロを一番遠くの試食席へと連行して、動きを封じて戻ってきた。


 気を取り直して調理に取りかかる。

 フライパンとバターの準備をして、カナちゃんの方を見ると──物凄く手慣れた感じで野菜を切っている。


「カナちゃん料理出来るんだ」

「俺、今独り暮らしで家では自炊してんし、これくらいは朝飯前やで」


 そう言ってカナちゃんは話しながらさつまいもの皮を向き、一センチ角に切ると水を張ったボウルに手早くいれた。

 プリントにのってない野菜のアク抜きまで普通にやってのける。なんて女子力の高さだ。


「見た目に反して西園寺君って意外と家庭的なのね」

「俺、そんなチャラそうに見える?」


 鍋に火をかけながら感心している美香に、カナちゃんは玉ねぎを薄くスライスしながら尋ねる。


「否定はできないわね」

「まぁ、昔はそんな時期もあってんけど……今は違うで。何なら今度、うちでたこ焼きパーティーでもする? 美味いのご馳走したんで」

「だそうよ、桜」

「懐かしい、昔よくやってたよね」


 受け取った玉ねぎを、熱く熱したフライパンにバターを溶かして弱火で炒める。


「脚下」


 その時、カナちゃんの陰陽術を解いてシロが不機嫌そうに戻ってきた。

 かぼちゃを切る手を止めて、カナちゃんは顔を上げると


「ええやん、文化祭終わったら皆でやろうや。コハッ君とシロも一緒に、な? 楽しい事考えたとったが、色々頑張れるやろ?」


 そう言って、ニカッと無邪気に笑った。

『コハクも一緒に』──その言葉が胸にじんわりと響いてきた。


「そうだね、皆でやろう!」

「楽しい祝勝会になるといいわね」

「……フン、いいだろう。その代わり不味いの作ったら許さんからな」

「へいへい、本場の味をご馳走したるわ。てかシロ、そこおるならこの人参すりおろしてや」


 人参の皮を手際よく向いてカナちゃんがそれ渡すと「何で俺が……」と納得いかなそうにシロは呟いた。


「働かざるもの食うべからずって言うやろ、桜の作ったもん食いたかったらお前も手ぇ動かしや。そこにある奴使ってええから」

「チッ、しゃあねぇな」


 渋々、シロは人参をすりおろし始める。人の気持ちを理解したい。それを実行に移し始めて、シロは前よりトゲが無くなった。


「ええやん。やれば出来る子やってんな、シロ。その調子でこっちもよろしゅうな」

「いいだろう。そこに置いておけ」


 こうやって見てるとカナちゃんは、反抗期の弟を上手くおだてて誘導するお兄ちゃんみたいに見えてくる。


「ほら、出来たぞ」

「綺麗に出来上がってんな。すごいわ、シロ。お前にすりおろし職人の称号を捧げよう」

「なんだそれは」

「何でも綺麗にすりおろす事が出来る者だけが手に出来る、名誉ある称号やで」

「そうか。仕方ない、もらってやろう」


 口では偉そうだけど、その顔は嬉しそうだ。シロに尻尾があったら今、ブンブンとはち切れんばかりに振っているに違いない。


 シロって褒められると伸びるタイプなんだよな。カナちゃんもそれが分かってきたようで、扱い方がどんどん上手くなってるし。


「生地できたよ」

「野菜の下茹でも終わったわ」

「玉ねぎもオッケーだよ」

「ほんなら、型に流し込むで!」


 それから生地に野菜を混ぜ入れて、カップに小分けしてオーブンで焼けるのを待った。その間に洗い物を綺麗に済ませ、テーブルをセッティングする。


 焼き菓子特有の甘い香りが漂ってきて、いよいよ実食の時間だ!


 席について皆で美味しく頂こうとしたものの──


「あ、シロ! 独り占めはあかんて、俺にもそれわけてや」

「桜が作ったのは全て俺の物だ」


 シロは私が炒めた玉ねぎのカップケーキを、一人で食べてしまおうとしていた。最後の一個を片手に、不敵な笑みをカナちゃんに向けている。


「シロ、こういうのは皆で分けて食べた方がもっと美味しいんだよ」

「そうなのか……」


 こっちの世界で生活を円滑にするアドバイスを送ると、シロはカップケーキを眉間にシワを寄せじっと見つめる。数秒後、半分に割って片割れをカナちゃんに渡した。

 シロの行動に驚きを隠せなかったようで、カナちゃんは目を丸くしながらそれを受け取っていた。

 お茶を注いであげると、飲み干して一息ついた後、シロは満足そうに笑っていた。


「行動がまるで小学生ね」

「でも、私もそんな一途に愛されてみたいな」

「ここまで重症なのは止めたがいいわ」


 その様子を、美香は呆れたように、笹山さんは憧れたように眺めていた。


「笹山さん、せやったら桔梗君とかどや? こう見えて結構一途でええ男やで」

「ちょ、か、奏! 急に何言い出すの!」

「如月君……確かに、優しくていい人だよね」

「さ、笹山さん……!」

「でもそんな風に見たこと一度もなかった」

「だ、だよね……」


 この前テレビで、『いい人』の状態で告白しても恋愛に発展するのは難しいという内容の番組を見た。


 恋愛関係は友人関係の延長線上にあるものではない。

 ただ優しくするだけでは、友人関係のベクトル上を突き進むだけで、親友にこそなれたとしても恋人にはなれない。

 その交わらないベクトルを交錯させるのに必要なのは、友達としての優しさではなく、異性を感じさせる少し強引な優しさだと。


 如月君に春が来るかどうかは、これからの彼次第ということだろう。

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