表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/2

後編

「時刻表部?」

 わら半紙に刷られた一枚のビラを見ながら、詰襟の胸元に「西村」という名札を付けた男子生徒が首を傾げながら言うと、女子生徒は「ジェーアール時刻表」と書かれた冊子を両手に持ち、表紙を男子生徒に見せびらかしながら、堂々と言う。

「そう! このビー五版の冊子には、計り知れない情報が詰まっているのです。私と一緒に、その情報の海を探検しませんか?」

「あぁ、ちょっと整理させてくれ。……放課後に付き合ってほしいっていうのは、その部活に入ってくれってことなんだな?」

 顔に近づけられた時刻表を片手で押し返しながら、戸惑いを隠せない様子で男子生徒が言葉を選んで発言すると、女子生徒は、満面の笑みで肯定する。

「ザッツライ! 今なら、もれなく副部長になれるわよ?」

「そうか。副部長か。なるほど、なるほど。……そのポジションは、美味しいな」

 男子生徒が顎に指を置き、俯き加減でボソッと呟くと、女子生徒は、猛烈な勢いで売り込みにかかる。

「時刻表を知れば、路線図で地理に明るくなり、歴史に詳しくなり、ダイヤの読みかたから数学的思考も鍛えられるわ。どこに何という車両が走ってるかを把握すれば、列車や沿線風景を見る目も変わってくるから、旅行の楽しみも増えること間違いなしよ。あんまり知られてないけど、駅弁や特産品の情報なんかも載ってるんだから。あと、鉄道ミステリーを推理するときにも、大きく役立つわ。途中で通過待ちに三十分近く停車する駅があったり、上りと下りでホームが違う駅があったりすることを知れば、アリバイを崩したも同然よ。どう? 興味が湧いてこないかしら?」

 女子生徒が詰め寄ると、男子生徒は赤面した顔を背け、斜に構えた調子で非常口のピクトグラムを見ながら言う。

「そうだな。面白そうだ」

「良かった。それじゃあ、入部してくれるわね?」

「あぁ、入ってやる」

「ヤッタ―! バンザ~イ」

 興奮した女子生徒が万歳三唱していると、そこへ教師がやってくる。

「廊下で騒ぐな、松本」

「あっ、鮎川先生」

「あぁ、先生。なんだかんだ言って、気になって様子を見に来てくれたんですね?」

「校内の迷惑行為を注意するのは、担任教諭としての務めだからな。それから、ほら」 

 教師は、女子生徒に半ピラのコピー用紙を渡す。そこには、顧問の欄に「鮎川」という名が書かれ、その左には迷路のようなウネウネと入り組んだ線の印鑑が捺されてあり、その下には社会科資料室という文字も並んでいる。

「これは?」

「顧問を引き受けてくださるんですね? しかも、部室まで」

 事態を飲み込めない様子の男子生徒を置いてきぼりにしたまま、期待を込めた目で女子生徒が見つめると、教師は面倒臭そうに言う。

「勝手な真似をされては困るからな。社会科の教師として、監視の目が行き届く場所に置いておきたいと思っただけだ。本来は、同好会に部室を与えることは出来ないんだから、ありがたく思いなさい」

 教師がそう言うと、女子生徒は嬉しそうにその場をキャッキャとはしゃぎ回り、男子生徒の手を取って宣言する。

「よ~し。それじゃあ、手始めに時刻表検定の取得を目指して、頑張ろう! エイエイ、オー! さぁ、西村くんもご一緒に」

「おっ、オー!」

 拳を挙げる二人を見て、かたわらで教師は、やれやれといった調子で片手で顔を覆った。窓の外では、桜が満開の花を咲かせている。

  *

――成長期の松本さんは、時刻表が好きだ。そして、同じく成長期の俺、西村は、そんな時刻表好きな松本さんが大好きだ。

※参考図書:「旅と鉄道」編集部『時刻表探検』山と渓谷社、2017

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ