孤独
初投稿です。
興味を持っていただければ幸いです。
日が昇る。
重い体を起こして、階段を降りる。
身支度をして、家を出る。
向かう先は、学校。
家から歩いて15分前後の、そう遠くない場所にある平凡な高校だ。
ここは余り栄えてはいないが、特に不自由は感じない。
しかし、日々は退屈だ。
正門をくぐり、靴を履き替え、教室に向かい、席に着く。
チャイムと同時に、担任の教師が教卓に手のひらをつけ、号令の合図を出す。
教室に響き渡る号令の音。
今日も、一日が始まる。
目的もなくただ呆然としていると、間もなく一時限目が始まる。
俺のクラスはとても騒がしい。
その中でも静かな奴がいれば、残量電池の少ないスマートフォンを弄っている奴もいる。
オレンジ色の筆箱を物珍しそうに眺めている奴もいれば、トマトジュースを吹っかけて遊ぶ奴もいる。
そのたびに教師が音を上げる。
落ち着きのないクラスだと思う。
それを不快に思うことはないが、自分も騒ごう
とは思わない。
そんな中、隣の席の友人と駄弁っていた。
そう、唯一の友人だ。
退屈な授業を友人との無駄口で凌ぎ、放課後まで生き延びた俺は、今朝と真逆の方向に歩みだす。
友人に別れを告げ、手を振った。
願わくは共に帰宅したい、しかし友人は部活動がある。
そもそも学校からの最寄り駅が、俺の家と反対方向である。
学校に近いのは利点だが、こういった足枷が鬱陶しさを感じさせる。
最近になって、そう思うことが増えた。
教室以外ではひとりぼっちだ。
「また明日」
この言葉を明日への希望に、足を運ぶ。
夕日が少し目障りだ。
辺りは無音。
いつも通りの風景だが、異常な静けさからだろうか、どことなく不安を煽る。
どこか別の世界に飛ばされたような、そんな不気味さと興奮を覚えた。
歩み続けて15分
一向に家に着かない。
まさか本当に異世界に飛ばされてしまったのだろうか。
冗談半分に、まだ気が早いだろうと、再び進み続ける。
夕日が少し目障りだ。
辺りは無音。
歩み続けて30分
一向に家につかない。
まさか本当に異世界に飛ばされてしまったのだろうか。
手に持った残量電池の少ないスマートフォンで、母親に電話を掛けてみた。
繋がらない。
寝ているのか、気付いていないのか。
いずれにしろ、この不安が消えることはない。
冗談抜きに、早く帰らなければと、先を急ぐ。
夕日が少し目障りだ。
辺りは無音。
歩み続けて1時間
もう家にはもう着けないのだろうか。
元にいた世界には戻れないのだろうか。
冗談半分に、諦めをほのめかして、歩みを止める。
そして手当たり次第に、赤の他人の住居へ声を発する。
ドアを叩く。
何一つ反応はない。
冗談抜きに、諦め始める。
夕日が少し目障りだ。
辺りは無音。
異変が起きてから約2時間
それでもめげずに、歩み続ける。
そして、手に持ったスマートフォンがシャットダウンした。
予備電源を持ち合わせてない俺を恨む。
夕日が少し目障りだ。
辺りは無音。
異変開始から約3時間
歩き続けて溜まった疲労が、ついに悲鳴を上げた。
道のど真ん中で胡坐をかき、暫しの間オレンジ色の空を眺めていた。
夕日が眩しい。
後方、遠くから微かな足音がする。
「え?」
思わず振り向く。
数秒間凝視する。
何者かが、こちらへ歩み寄ってくるのが見えた。
「は?」
人型。
全身赤色。
身長は2メートル以上。
体はとても細い。
人間とは思えない風貌に恐怖した。
両腕は上半身に密着させ、頭から胴体にかけて高速に、大きく左右に振動。
顔は捉えられない。
足は不安定な上半身の軸の振動を、一切許さず微動だにしない。
ゆっくりと一歩ずつ、確実に迫ってきている。
一目見ればわかる、アレは人間じゃない。
冷静さを失った頃、ゆっくりと踏み出していたはずのその足は、異常にまで回転数が上がっていた。
息が止まる。
思考がシャットダウンする。
考える前に走り出していた。
奇声が微かに聞こえた。
心臓の鼓動が明白に伝わってくる。
17年間の人生で、最も心臓にストレスをかけたであろうと断言できる。
素早く、多量の血液を体中に循環させる。
腰は高く、地面への設置から踏み込みまでの流れを瞬発的に行い、骨盤は前傾させ、胸を張る。
腕と足を連動させ、一瞬で大きな力を生み出す。
しかし、見える景色は変わらず。
少しずつ、異変を感じるようになる。
足が重い、動きが鈍くなっていく。
両足に乳酸が溜まるのを感じる。
肺に負担がかかる。
苦しい。
脳が酸欠を起こす。
頭が痛い。
上半身は後傾し、腕はもう振れない。
力んでいるのに、踏み込めなくなる。
腰が落ち、膝が崩れる。
ついに、地面に這ってしまった。
意識が朦朧とする中、土瀝青に拘束された俺は、怪異を待つことしか出来なかった。
目を閉じて、呼吸をする。
それはとても早く、浅い。
しかしそれは次第に深く、ゆっくりとした呼吸になる。
頭痛は依然として消えない。
意識を取り戻していく。
全身に力が入らなくなる。
無理に動かそうとすれば、こむら返りが顔を出す。
満身創痍。
この言葉が、この短い人生で最も似合う瞬間であった。
もうどうしようもない。
諦めを覚え、脳裏に過った感覚は、死であった。
ゆっくりと、目を閉じる。
思えば、俺はいつも一人で友達なんていなかった。
教室にいても馴染めなくて、佇んでいただけの毎日。
帰宅後も憂鬱が消えることはなく、無気力な毎日を送っていた。
もし強くあれたのならと、何時も想像していた。
そんな時、思い付きで筋トレを始めた。
それが嵌ったのか、飽きることなく続けた。
最初は腕立て伏せ5回が限界だった。
めげずに続けてみる。
すると、10回までこなせる様になった。
次第に種目を増やし、より多くの回数を重ねることが可能になった。
微々たるものだが、自分の自信につなげることが出来た。
クラスで馴染むことが出来るかもしれない、と思っていた。
結果的に友人は、一人しか出来なかったが。
だがその一人が、俺の人生を大きく変えてくれた。
筋トレ開始から約三ヵ月が経過した頃、明確な変化が体に起きていた。
腹が割れ、肩は広がり腕は太く、足は大きく、そして頑丈になっていた。
しかし、クラスにうまく馴染めない。
筋トレを開始してから約半年が経過した頃、俺は進級し高校二年生となった。
クラスが一変し、ここで、初めて友人と出会うことになる。
まだ少し肌寒いこの季節。
新しい環境に不慣れな自分。
しかし、不安なのは自分だけではない。
去年のクラスメートと同じクラスの人間は、誰もいないようだ。
全員同じ舞台だ
と思い込み、心を落ち着かせる。
その様子は、1年前と変わらない。
決められた席に着き、担任の教師を待つ。
暫しの沈黙の後、担任と思われる人物が姿を現す。
教卓に手のひらをつき、号令の合図をだす。
教室に響き渡る号令の音。
今年度の授業予定表の配布や、担任の自己紹介を済ませた後、教室から消えた。
クラスメートとの親睦を深めろということなのだろうか。
しかし、何をすれば良いのかがわからない。
筋トレの自信なんてくそくらえ、何もできないじゃないか。
そう思った。
俺は机に向かって、沸き上がる焦りを抑え、ただ呆然としていることしかできなかった。
そんな時、隣の席から後に友人となる人物が、こちらに顔を向けた。
そして第一声
「ねぇ、君名前なんて言うの?」
驚きを隠せない表情で、彼女を見つめる。
人見知りが発症する。
「連です」
戸惑い気味に答える。
彼女に敬語について突っ込まれたので、出来る限り砕けた表現を使うようにした。
それは当たり前のことであるが、俺には難しすぎた。
彼女の名前は唯。
肩くらいまでの長さの黒髪で、滅茶苦茶足が速い。
陸上部に所属しているらしいが、その事実を加味しても納得がいかない速さだ。
時間の力は素晴らしく、戸惑いながらも俺は、次第に彼女を友人と呼べる関係になれた。
少なくとも俺の中では。
彼女が友人になってから陸上部に勧誘されたこともあったが、足に自信はないし、何より人間関係が怖い。
丁重にお断りさせて頂いた。
彼女は少し不満げな顔を浮かべたが、代替案を承知したためすぐに機嫌を取り戻した。
代替案とは、陸上部には入らないが彼女の自主練習に付き合えとの事。
場所は俺の家の近所の坂道。
練習場所を話し合ってる最中に、近所に坂があるとの一言で、向こうから提案された。
どうやら坂で走れることが、彼女にとって都合が良いらしい。
練習場所が、平面ですらない事に驚きを隠せない。
時間や曜日は全て彼女が決める。
週に2回の、部活動の休みの日にわざわざ俺の所に寄ってくれるとの事。
水曜日に1回、日曜日に1回だ。
勿論大会等の例外もあるが、基本的にはこの2日間だ。
貴重なはずの休みを俺に捧げてしまって良いのか。
とても気になるが、腰抜けの俺に問いただす勇気はない。
彼女の練習はかなりハードだ。
例の坂で、何回も走らされる事になった。
それに加え、走り方の指導を受ける羽目になった。
あとアスファルトが、膝に悪い。
腕の振り方が汚いだの、足の設置が下手だの散々だったが、彼女の指導もあり少しずつ改善することが出来た。
そしてある日
「ごうかーく!!」
唐突に彼女からの合格通知が届いた。
いったい何の合格だろうか、なんてとぼけるのも馬鹿馬鹿しい。
「何が?」
しかしとぼけてしまった。
「あなたは私の過程を全てクリアしました!もう一人前だよ!」
意味が分からない。
過程とはどういうことだ、この練習の事だろうか。
何故若干上から目線なのか。
色々と突っ込みどころはあるが、自分の練習といいながら俺のために、時間を割いてくれたことは感謝しなければならない。
「ありがとう」
と一言。
少し照れてしまった、恥ずかしい。
それを彼女が笑う。
滅茶苦茶恥ずかしい。
照れ隠しに顔を背けたが、もはやそれは無意味であった。
彼女は稀に突拍子もないことを言い出すが、そのおかげで毎日に刺激が入る。
全て彼女のおかげだ。
本当に感謝している。
ゆっくりと目を開ける。
体が動くのを感じる。
暗い、もう日はすっかり落ちてしまったようだ。
道のど真ん中で寝ている事に違和感を覚えるが、元に戻れたのかと少しの期待が沸き上がる。
しかし、それはすぐに踏みつぶされることになる。
辺りは無音。
後ろを振り向く。
まぁ、予想通りだ。
真っ赤な顔に大きな目が二つ。
小さな口を開けたまま、俺を見下ろすように、そこに佇んでいた。
音もなく、微動だにしない。
体は細く、周りをよく見る。
そのくせ何も発言できない。
周りが動いている時は、何一つ行動なんて出来ない。
静かになったその瞬間だけ、息をすることが出来る。
この物体は自分の劣等感の塊のような、そんな気がした。
でも今は違う、孤独なんかじゃない。
俺はまだ残っているこの劣等感を、潰さなければならないような気がする。
まだ合格などしていない。
手を握る。
そして、その赤い物体の鳩尾を目掛けてぶん殴った。
劣等感も、孤独も、そして自分を。
全てを吐き出せ、潰せ。
力一杯に、全てを吐き出した。
鳩尾に拳を当てたまま、奴の体は微動だにしない。
しかし、顔が小刻みに震える。
腕を引き、拳を解いて振り返り歩き出す。
合格したのだ。
彼女に、そして自分に。
後ろから奇声が耳に入ったが、気にすることはなかった。
明日のことだけを考えていた。
そして、気付けば家の目の前にいた。
俺は彼女に会いたいなんて、そんな暢気なことを考えていた。
―怪異―
【孤独鬼】
―概要―
人間の孤独を媒体として
現れる怪異
姿形は人によって変わるが、負の記憶やイメージに影響されやすい
怪異の対象となる人物が動けば【孤独鬼】は停止する
時間や空間も停止する
対象となる人物が停止すれば
怪異 時間 空間
共に動き出す
―原因―
孤独
―対処方法―
原因の消滅、克服
お読みいただきありがとうございました。
下手くそな文章ですが、これから頑張っていきたいと思います。
本当にありがとうございました。