竜王襲来 三
「お、おいおい騎士サマかよ。違うぜ? こいつと俺は知り合いだ。今のはほんの戯れだよ。な? ……おい、銃が欲しいんだろ。なら話合わせろ、終わったらくれてやる」
現れた二人を見ながらガスターが小声で告げてくる。
俺は──
◇ ◇ ◇ ◇
「助けていただいてありがとうございます」
ハラリと、フードの中から長い銀髪が零れる。
俺は兵士たちの詰め所にて、二人に頭を下げていた。
「礼には及ばないわ。私はただ不快なゴミを掃除しただけよ」
「今日は俺たちが近くに居たからいいが、君もスラムの近くにはもう行かないようにな」
俺は二人に助けを求めた。
「初めて会った人です! 助けてください!」という感じで。
そしたら、金髪の騎士がまるで瞬間移動みたいな早さでガスターを押さえ込んでた。
騎士の体が白いオーラを纏ってガスターに疾走したのは見えたけど、反応は出来なかった。振り向いたら、ガスターが地面に押さえつけられていたんだ。
そしてもう一人の、桃髪に豪奢な真っ赤なドレス、左が紅で右が金のオッドアイの少女は、自分は何もしてないのに無駄に偉そうな態度でふんぞり返ってる。
……無い胸を張りながら。
「ちょっと貴女、今失礼な事を考えていたでしょ?」
グイッと顔を近づけられて問い詰められる。
俺より背が低いからこの子が見上げる形になるけど、謎のプレッシャーと共に香水か何かのいい香りが漂ってくる。
そして何故か、この少女には敬語を使ってしまう。
「え? 違いますよ? 綺麗な目だなーと思って」
苦し紛れの言い訳だけど、これは本心だ。
ファニーの血のように紅い左目と何かの紋様が浮かんでる金の右目はとても綺麗で、いつまでも見ていられる。
「そ、そうかしら? あ、貴女も私の素晴らしさが分かってるようね! いい心掛けよ、うん!」
途端に顔を真っ赤にする少女。
それがなんだか微笑ましいと思っていると、後ろの騎士も彼女を見て笑っていた。
「そ、それより、貴女もフードを取ってくれないかしら? 見せれない理由でもあるの?」
こほん、と前置きをしながら少女が言った。
俺がフードで顔を隠している理由は単純で、水面とかに反射した自分の顔を見たくないからだ。
俺の体はダークエルフの少女のものに変わってしまったけど、心は男だ。
だから認めたくなくて、フードを深く被っている。
「見せられない理由とかは特に無いですよ」
そう言って、フードを下ろす。
咎人の鎖は顔までは伸びてきていないし、手はグローブで隠しているから見られる心配は無い。流石に咎人の証を見られると面倒そうだ。
「ダークエルフか……」
「やっぱりね」
「やっぱり?」
少女が予想通りだというように頷くのを見て、自然と声が出た。
「私たちはこの街に入ってきた大きな魔力を追ってたのよ。そしたら貴女があの変態に襲われてた現場に着いたって訳」
そうなのか。
それも探知魔法的な何かなんだろうか。
咎人の鎖さえ無ければ俺も使えたのに……。
「っと、そろそろ暗くなりますね。それじゃあ、俺はこの辺で。助けてくれてありがとうございます」
「ええ、困った事があったらここに来なさい。明日まで私たちはこの街に居るわ。
そういえば、貴女の名前は?」
俺はファニーに付けてもらった名を名乗る。
「俺の事は──」
かつてファニーの主だった人の名前から取ったらしいそれを、俺はかなり気に入っている。
「カナリア、と。そう呼んでください」
カナリア。
それが、この世界での俺の名前だった。
◇ ◇ ◇ ◇
「すいません、王都行きの馬車ってここであってますか?」
「ん? ああそうだよ。次の街まで銀貨五枚だ」
翌日。
なんとか宿屋を発見した俺は朝早くに起床し、街の門の近くにある乗り合い馬車がある所に来ていた。
俺が選別としてファニーから渡された金貨は十枚。
街に入った時に半銀貨五枚を金貨で支払ったところ、帰ってきたのは銀貨九枚と小さな銀貨五枚。
恐らく、十枚で一つ上の貨幣になるって事だろう。
他にも色々買い物したから今の所持金は金貨八枚と銀貨二枚だ。
支払いで金貨を要求された事はないので、恐らく俺はかなりの大金を持ってると思われる。つくづくファニーには感謝だ。
あの竜には色々なものを貰った。金、名前、血、俺が目的を達成するに近づける情報や、英雄たちが残した宝。
寿命が近いと言っていたが、多分あいつは宝を全て捌くまで死なないんじゃないだろうか。
ファニーの巣にあった宝。
今思えばかなりの量があった。
その全てが俺が受け取った魔導銃のような威力を持っていたら。
それを、あのガスターのような人が受け取っていたら……。
「ファニーを信じるしかないか」
「おーい、そろそろ出るぞー!」
その声で、意識が現実に戻される。
異世界に転生したという現実に。
街の外には、俺が襲われたようなモンスターがいる。
昨日分かった通り、俺は物凄く非力だ。
この世界で生き残り、目的を達成するには、今自分が持つ全てを使い生き残るしかない。
「待ってろ、彩香。お兄ちゃんが異世界の薬でお前の病気を治してやるからな」
咎人というハンデはあるけれど、俺は諦めない。
いつか必ずあの世界に帰る。大切な家族が待ってるから。
右手に持った銀色のリボルバーのような魔導銃を握り、俺はそう誓った。
書き溜めはここで終わっている。
二ヶ月も掛け3話しか書けず、頭が上がりません。他の事が忙しかったんです許してください。
これからは書き終え次第不定期に投稿していきます。