約束の杯 五
「咎人の、鎖……?」
俺は、俺の肩から掌まで巻き付く真っ黒な鎖の入れ墨を見る。
それは両脚にもあり、鎖を辿っていくと脚の鎖と腕の鎖は背中で合流しているのが分かった。
「……おい、嘘吐くなよ。こんな物のせいで、俺は魔法が使えない? ──俺はこの世界の事を何も知らないが、そんな事ある訳ない!」
『おうおう、怖い怖い。ならば使ってみよ、エルフは魔法だけが取り柄なのだからな』
ああ、やってやる。俺が魔法を使えるって事を証明して、この異世界から家族の元へ帰る。
そして、妹の病気を治す。
魔法をどうやって使うのか、俺は知らない。
でも、俺をサーカスのピエロを見るかのような目で見下すコイツに、一泡吹かせてやりたい。
「魔法、魔法、魔法……」
……イメージする。
マンガやアニメには、沢山居たじゃないか。
手から火球を出し、風を吹かせ、水で敵を呑み込んでいくキャラ達が──!
「炎よ──!」
俺がイメージしたのは、全てをを燃やし尽くす極熱の炎。
あの神を名乗った黒い塊も、妹を苛むくそったれな病も、今の俺の状況も。全部全部燃やし尽くして、平和な日々を取り戻す!
そんな、ここには無い何かを燃やす炎。それを、手のひらの上に出すイメージ!!
俺の中の何かが、少し、ほんのちょっぴり消費されたように感じる。
それでも、俺の手の上には何も起こらなくて──
ギチギチギチギチ!!
ボキボキボギ!!!!
「っっああああああ!!!!!」
体中を、締め付けられるような激痛が襲った。
『くく、あははははっ! 本当にやりおった! あはははは!!!』
ファフニールの愉しそうな声が聞こえる。
「なんだこれえええ!! っつあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!」
『察するにお主は異世界人であろう? ならばこの見世物に免じて教えてやろう。
この世界ではなぁ、神が咎人と認定した者には咎人の証が浮かぶのじゃ。咎人の証には種類があるが、それは咎人の鎖といってのぉ、魔法により罪を犯した者に浮かび、その者を魔法を使えなくするのじゃ。
無理に使おうとすると、そうなる』
「あああああ!!! たずげっっあああ!!!!」
なんで、こんなごどにっ……おれは妹をたすげたいだげなのに……
「はあっ、く……はぁっ、はぁっはぁ……」
『自分の立場が良く分かったか? 異世界人? 鎖に締め付けられたくないなら、もう魔法を使おうとしないことだ』
「そん、なっことで……諦め、られるかっ……」
魔法。それなら、妹の病気が治せるかもしれないんだっ。
『お主は治癒魔法が使いたいらしいのぉ、異世界人。大方、恋人や家族の病や怪我を、治したいのだろう?』
「……そう、だよっ」
『久しぶりに面白い物を見せて貰ったからのぉ、我が治してやろう』
「! ほんとう、かっ!」
『──と、言えたらよかったのだが、我は治癒は専門外での。それに、巣から離れるつもりも無い』
「──ちっ。期待させるような事言うなよ、トカゲ野郎!」
『ほう? そんなこと言ってよいのかのぉ? 我は見世物の礼に、情報と我の宝をくれてやろうと思っておったのにのぉ』
「──!! すいませんでした! ファフニールさん!」
『ファニー』
「ファニーさん!」
『うむ、この程度の狼藉を許せない程、我は心が狭くないからの』
いつの間にか、痛みは無くなっていた。