約束の杯 四
──兄ちゃん、俺さ! 彼女が出来たんだ! あと全国大会にも出ることになった!
流石俺の弟だ。あと、彼女の方が優先度高いのな。俺? 俺は恋なんかに現を抜かしてる暇はないのさっ。
──○○、あんた根を詰めすぎよ。高校生なんだから、たまには遊びなさい。折角私らイイ顔で生まれてきたんだから、楽しまなきゃ損よ?
姉さん、いつも言ってるだろ? 俺は妹を助けるまで恋はしないって。断じてモテないからじゃないからな。
──○○。たまには父さんと釣りにでも行かないか? ボーリングでもいいぞ。
んー、そうだな。たまにはボウリングにでも行こっかな。
──お兄ちゃん。私、いつか皆で景色が綺麗な山に登ってみたいな。
ああ、いつかきっと、お兄ちゃんが病気を治して、絶対に連れてってやる
『殺せ』
『家族を助けたいんだろう?』
『ならば、殺せ』
『その銃で、その力で』
ズドンッ
『そして、私を楽しませろ。──くくくっ』
◇ ◇ ◇ ◇
「──っはぁ、はぁ、はぁ、はぁ」
開いた瞳に入ってくるのは、一面の岩肌。
背に感じるのは冷たさと、少しの痛み。
どこだ、ここは。
心臓がばくばくと鼓動を立て、俺の思考を邪魔する。
何か、悪い夢を見ていた気がする。
『おお、起きたか』
頭上から、脳に直接響くような声が聞こえる。
それを確認しようと起き上がる。
──待て、俺は今、両手を使ったのか……?
『それには我も驚いたのじゃ』
右手が、ある。
それを確かめながら、俺は声の主を確かめようと後ろを見た。
『おはよう、ダークエルフ。我の名は──』
そこには、漆黒の鱗を持った大きなドラゴンがいた。
『我の名はファフニール。ファニーと呼ぶがよいぞ』
◇ ◇ ◇ ◇
「ドラ……ゴン?」
『そうだ。我こそは生物の頂点、龍。その中でも我は最強の龍なのだ』
縦に割れた黄金の瞳は俺より大きく、その龍の全長は計り知れない。
「なんで、ドラゴンが……そもそも、ここは──」
『ここは我の巣だ。安心せい、取って食おうとはせぬ。久々に外へ出たら、面白そうな物が落ちていたからな。気まぐれで拾ったのじゃ』
気を失う前、何かの声が聞こえた。
幻聴だと思ってたんだが、まさかこいつだったとは……。
恐らく、ここはどこかの洞窟なのだろう。
ゴツゴツとした壁や床は途轍もなく広く、天井は見えない。
灯りは壁から生えている水晶のような物と、ファフニールの後ろから見えるキラキラと光る何かだけ。
『おっと、我の宝を盗む気なら殺すぞ?』
「……盗んだとして、どうやって運ぶんだよ……」
ぐいっと、ファフニールが顔を近づけてくる。
何というか、獣臭い。
『それもそうか。他の者なら魔法でなんとかするが、お主に関してはその心配も要らなそうじゃしの』
ん?
今、魔法って言ったか?
「魔法……」
『ああ、そうだ魔法じゃ。お主の腕は何故治ったのかのぉ。治癒魔法の類いではないし──』
「治癒魔法!? そんな物があるのか!?」
二つ頭のウサギ。ダークエルフ。そしてドラゴン。
ここまで来れば信じよう。ここは異世界だ。
そして、このドラゴンは魔法と言った。それは、この世界に魔法があるということ。
治癒魔法なんて物があるなら、妹の病気も治せるかもしれない!
「俺に! 俺に使い方を教えてくれ! 頼──」
『無理じゃよ』
「……え?」
『何を呆けておる。理由はお主が一番よく分かっておるだろう』
「な──! 意味分かんねえよ! 頼む、教えてください!!」
『ふむ……ここまで話が食い違うと、少し面白いな』
「何でだ! 何で教えてくれない!? 俺にやれる事なら何でもする、だから──」
『お主……自分の腕が見えぬのか? ほれ、見よ。鎖が巻き付いておる』
「だからなんだ! この意味分かんねえ入れ墨に、何の意味が──」
『それは咎人の鎖と言っての。巻き付いた者に、魔法を使えなくさせる呪いなのじゃ』
……は?