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咎人ダークエルフ  作者: 猫崎
約束の杯
3/10

約束の杯 三

 無数のウサギが俺に向かって体当たりをしてくる。

 それはドーム状に広がったバリアーのような物で防がれていた。

 飛び込んで、弾かれて、飛び込んで。

 狂ったように繰り返される光景。

 血まみれになりながら血走った目を見開き、憎悪が満ちる表情で俺を見つめる二つ頭のウサギたち。


 そんな光景が、どのくらい続いていただろうか。

 一匹二匹とウサギが倒れる。段々と衝撃の勢いが徐々に衰えていき──やがて音が消えた。


「はぁ……はぁ……はぁ……」


 最初にウサギが飛び込んできた時から、俺はその場から動けずにいた。

 目の前の非現実的な光景に呆然とし、恐怖した。

 気づけば座り込んでいて、下腹部から温かい感触がした。


「何が……どうなって……」


 まさかここは、地球じゃないのか?

 最悪の考えが、俺の脳裏を過ぎった。



  ◇  ◇  ◇  ◇



 小さな湖で体を洗った後、俺は切り株に座り呆然としていた。

 視界の先には血塗れになった沢山のウサギの死体がある。

 ……いや、あれはウサギと言っていいのか? 普通のウサギはあんな大きくないし、緑色でもない。ましてや頭が二つある事もない。


「やっぱりここは……地球じゃない」


 その考えが確信に変わったのは、体を洗っている時だった。

 水面に映る自分の顔を見たんだ。

 美少女だった。途轍もない美少女だった。

 100人居れば100人が美少女だという程の美少女がそこにいた。


 それはいい。体が女になったんだ、顔が美少女なくらいじゃもう驚かない。

 でも……その美少女の耳が尖っていたら、誰だって驚くだろう。




 エルフ。


 それは、ファンタジーなゲームや漫画、小説等に出てくる種族。

 曰く、長寿である。

 曰く、森に住み、魔法の扱いに長けている。

 曰く、エルフは為べからず美男美女であり、その耳は人間より尖っている。




 まあこれは俺の持ってる知識でしかないから詳しくは知らないが、一つだけ断言できるのは、エルフは空想上の産物だという事だ。

 ドラゴンや宇宙人、ネッ◯ーや魔法と同じ類いのもの。

 皆想像で語るしかなく、誰も実物を見た事がない。  

 それは存在しない事と同意義であり──まあ、地球にエルフは居ないという事だ。

 つまりここは地球じゃない事になる。

 と言うかそもそもあのウサギからおかしかった。

 

「ここは地球じゃない。つまり、別の惑星……いや、異世界か?」


 異世界転生と言う単語が脳裏を過ぎる。


「これじゃあ、家族に会いに行けないじゃないか……いや、そもそも──」


 この森から、出られるのか?



 ◇  ◇  ◇  ◇



 エルフには種類がある。

 肌が褐色なエルフを、確かダークエルフと言う。

 自分がダークエルフだということは一旦棚に置いて、おれは周囲の探索を始めた。


「これは……杭?」


 先ほどのウサギたちの襲撃。それは、ドーム状に張られたバリアーのような物で防がれていた。

 あれが無かったら、俺は今頃どうなっていたか……。


 バリアーに近づくにつれ、薄らとバリアーが見えた。と同時に、血まみれになったウサギの群れが近くなり、吐きそうになる。

 そしてバリアーの元に着くと、銀色の、何か変な文字が掘られている杭があった。

 確認すると、それは等間隔にバリアーの下に刺さっている。


「これがバリアーの元なのか……?」


 ゆっくりと、ゆ~~っくりとバリアーに手を伸ばしていき、バリアーに手が触れると──そのまま通過した。


「なんだこれ……」


 感触は無い。

 よく目を凝らさないと見えない程度のそれに、俺は助けられたんだ。


「なんなんだよ本当に……」


 本当にバリアーがあるのを確かめたくて、腕や足を出し入れする。

 もしあのウサギがもう一度襲ってきたら、またこいつに守ってもらわなくては困る。


「このウサギも、頭が二つってなんなんだよ……」


 バリアーの近くに倒れているウサギに手を伸ばし──


「シャッ──」


 何かの鳴き声がして、伸ばした腕が空を切る。

 ……いや、違う。腕が……無い?


「──ッッッああああ!!!!!! 腕がああああああ!!!!!」


 腕が無い! 痛い痛い痛い!


「うぐあぁぁぁぁ!!! 痛い! いたいぃぃぃぃぃ!!!」


 何で、何で、何で!

 激痛に転げ回る。背中に石が当たって痛い。

 肘の少し上から感覚が無い。痛い

 髪が地面と体に挟まって痛い。


 痛い痛い痛い痛い痛い痛い──!!!



 どのくらい、そうしていただろうか。

 まだ痛みは収まらない。どくどくと流れていた血はもう流れなくなり、意識が朦朧としてきた。


 バサッ! バサッ! バサッ! 

 バキバキバキバキ!!!!


 大きな羽音と木を踏み潰す音が聞こえ、一帯に大きな影が掛かる。


『何やら神の力を感じて来てみれば、死にかけのダークエルフが一人、と』


 耳ではなく、脳に直接響くような女の声。


『これは……結界か、下らん』


 バキンッ! と何かが割れた音がした。


『ほう……咎人か。それに、何か力を感じるな。おい、聞こえておるか?』


 ドシン。と、大きな何かが降りてきた。


『このままではお主、死ぬぞ? まあ、我が結界を壊したから延命しても死ぬがな。それに“鎖”とは……運がないのぉ』


 楽しそうな声音だ。こっちはもう、死ぬかもしれないのに……。


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