竜王襲来 四
ガタガタガタ。
馬車の荷台に揺られながら、俺は異世界の風景を楽しんでいた。
空は快晴で、周りは草原。遠くの方には大きな山々が連なっていて、時折甲高い鳴き声と共に真っ黄色な鳥の群れが頭上を通る。
馬車の中には俺を合わせて五人が乗っており、外には剣や斧、杖などを背負った集団が俺たちを守るように囲んでいる。
「風景だけ見ると、ここが異世界だなんて思えないな」
俺はフードを取り、荷台の窓から風を感じていた。
「前方からシャドウウルフの群れ! お前ら構えろ!」
穏やかな旅路を邪魔するように、30代後半くらいの男が武装した集団に大声で呼びかけた。
どうやら、魔物が襲ってきたらしい。それと同時に、俺が乗っている馬車の動きが止まった。
俺は窓から大きく頭を出して、彼らの姿を追った。
魔物は、どう見てもただの狼だった。
「いいか! 護衛対象には指一本に触れさせるな! 俺たちの信用に関わるんだからな!」
彼らは全員馬……のような動物に騎乗していた。
しかし今は降りて、各々が武器を構えている。
「シャドウウルフなんかに遅れを取るなよ! 行け!」
男の声に合わせ、彼らが攻撃を始める。
ある者は手に持った剣で斬りつけ、ある者は火球を出し、ある者は弓を撃っていた。
総員7名の彼らに対し、狼の数はざっと20程度。
数では圧倒的に不利。だが、戦いは彼らが押していた。
「凄い……」
俺がこの世界で始めて見た戦闘は、圧倒的勝利によって終わった。
「そろそろいい時間だ。ここらで昼を食わないか? 依頼人さん」
◇ ◇ ◇ ◇
馬車を道から少し逸れた所に止め、各々が昼を食べ始める。
俺はその集団から少し離れ、ガスターから買った銀色のリボルバーを空へ向けていた。
「魔力を弾に……」
目を閉じて、自分の中にある魔力を感じようとする。
ファニーから貰った魔導銃は持つと勝手に魔力を吸って弾を装填していたが、この銃は自分で装填しないとダメなようだ。
「魔力、魔力……」
魔力を感じる。感じる。感じ──無理だ。
「ああくそ、魔力ってなんだよ……」
地面に大の字に倒れる。
魔力の無い世界で16年生きてきて、いきなりこっちで魔力を感じるってのも無理な話なのかもしれない。
俺はそのままの姿勢で街で買っておいたパンを齧る。
硬いな……。
「でも、あの時は魔法が使えそうだったから鎖が発動したんだよな」
ファニーの巣で、ファニーの言葉を信じなかった俺が炎を出そうとして鎖に締め付けられた時。
あの時と、今。違いはなんだ?
「……ちょっとやってみるか」
両手でリボルバーを持ち、空へ向ける。
──魔力が感じられないなら、最初から魔力を感じなければいい。
炎を出そうとしたら勝手に魔力が消費されたように。
弾を込めるイメージをすれば、魔力がそれについて来るんじゃないか?
幸いこれはリボルバー型。
シリンダーに、ある筈のない弾を込める動作を繰り返す。
一発一発と装填すると、動きに合わせて体の中から魔力が無くなっていくのが分かる。
そして──
ズドンッッ!!!
「──成功だ」
重い射撃音と共に、弾が発射された。
丁度近くを飛んでいた黄色の鳥を撃ち落とす。
「でも、なんで音が鳴るんだ?」
そもそも、どうやって発射してるのかも分からない。
俺はただ弾を込めて引き金を引いただけだ。
「……まあ、考えても仕方ないか」
ここは異世界。
頭が2つあるウサギとか、ドラゴンとか、魔法がある世界だ。
気にしても仕方ない。
「どうした? 魔物が出たか?」
ふと、後方から声を掛けられる。
そこには、武装集団を指揮していたあの男が居た。
「いや、試し撃ちをしてただけですよ。騒がせちゃってすいません」
「そうか、なら良かった。それにしても、エルフが魔導銃とは珍しいな」
彼は俺の隣に座った。
「珍しいんですか?」
そう言えば、武器屋の人もマイナーな武器って言ってた気がする。
「そりゃな。撃つだけで魔力の大半を使うから燃費の悪いし、そもそも一般人は撃てすらしねえ」
そう、なのか?
俺はまだまだこいつを撃てる気がするんだが。
「ちょっと貸してくれねえか?」
男がリボルバーを持つ。
「う〜ん……無理だな。この俺が一発分の魔力すら込めれねえ。こいつ相当大食いだな。
それを撃ってピンピンしてるなんて、流石エルフってとこか。
でも、それなら尚更魔法を使ったほうが早いと思うんだがな」
やはり、この世界のエルフは魔法に長けているのか。
だから魔力が多くて、俺はそのおかげでこれが撃てる。
「色々あるんですよ。色々」
「ま、深くは突っ込まねえよ。冒険者の中にも訳ありなんはゴロゴロ居るしな。
そろそろ休憩が終わる。あんたも戻れよ」
男が戻っていく。
(俺だって、咎人の鎖が無かったら銃なんて持たなかったよ)
服の袖を捲くると、黒い鎖が巻き付いているのが見える。
ただの入れ墨にしか見えないけど、これは呪いだ。
俺が犯した罪の証。これは、一生消えないだろう。




