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咎人ダークエルフ  作者: 猫崎
約束の杯
1/10

約束の杯 一

「──はぁ……はぁ……はぁ……」


「さあ、選びたまえ。君にはチャンスがある。

 家族の代わりに見ず知らずの20人を殺すか、家族を見殺しにするか。

 その銃で、決めろ」


「俺、は……」



 ◇  ◇  ◇  ◇



 その日は、何の変哲もない休日だった。

 いつもと違った事といえば、父さんと姉さんの仕事が休みで、弟も部活がなく、妹の調子も絶好調。天気は雲一つない晴れで、絶好の出かけ日和だったって事かな。

 奇跡としか思えない偶然が重なり、久々に家族全員で遠くのショッピングモールに出かけに行った。


 そして、女性陣の長い買い物が終わり、そろそろ昼を食べるかってなった所、従業員の様子がおかしいって話してたのを覚えてる。

 あの日は凄い偶然が重なった日だった。でも、良い偶然が続くとは限らない。


 突然の出来事だった。店内で食事を取り、どうするかって話してた時、爆発音と共に電気が消えた。

 爆発音はどんどん近くなってきて、壁や天井にもひびが入っていった。

 

 どうすればいいか分からなくて、近くにいた妹を抱きしめた。

 最後に見たのは、大きな天井が俺たちに降ってくる光景。

 最後に奔ったのは、大切な家族を守りたいと思う感情。


 一瞬の重みと共に、俺の意識は消え去った。



 ◇  ◇  ◇  ◇



「は……?」


 眼前には、大仰な玉座のような物に肘をつきながら座っている女性。

 その横には、見るも無惨な四つの肉塊。


「やあ、私は神だ」


 理解ができない。ここはどこだ? 俺はどうなった? 家族は? 妹は?


「神の言葉を無視するでない。少年」


 よく見れば、こいつだって意味不明だ。

 何故俺はこいつを女性と思った? 何故、この蠢く闇の塊がどう座ってるか分かった?

 分からない。分からない。全てに理解が追いつかない。一体ここはどこなんだ、俺は──


「おい」


「ぐっ!」


 闇の塊が指をくいと曲げたのが分かる。

 その瞬間、俺は何かに引っ張られるように、玉座の元へ倒れ込んだ。


「貴様は死んだ。貴様の家族もだ」


「なっ!」


「何を驚く。見よ、そこの肉塊が貴様の家族だ」


 これが、家族……?


「一つチャンスをやろう」


 闇がそう言うと、目の前に一つの黒い光沢を放つ拳銃が現れた。

 持ち手やスライドの部分に謎の紋様が掘ってあり、確認するとマガジンもない。

 持ち手と引き金、そして、銃口だけがあった。

 

「死亡した貴様の家族は四人。一人蘇生するには5つの魂が必要だ」


「……は?」


「飲み込みが悪いな。家族を助けたいなら、一人につき五人。全員分で二十人殺せと言っている」


 闇が腕を振るい、俺の周囲に闇を飛び散らせる。

 それはぶくぶくと沸騰するように蠢き、やがて無数の鏡になった。


「ここから殺せるようにしてやろう」


「何を──ぐああああ!!!! ああああああ!!!!!」


 自分という存在を内側から引っかき回される感覚と共に激痛がやってくる。


「やめろ! やめてくれえええ!!!!」


 やがて激痛が収まる。自分の中に異物がある感覚がして気持ち悪い。


「さあ、殺せ。家族を助けたいならな」


 見れば、鏡には人が映っていた。


 街を歩く少年。

 会社で働いてる男性。

 教室で授業を受けている女子高生。

 皿を洗っている主婦。


 数えてみれば鏡は全部で20枚ある。


「さあ、殺せ。鏡に向かって引き金を引くだけでよい。

 それで殺せる」


「はぁ……はぁ……はぁ……」


 銃を持つ手が震える。

 何でこんな事になった? これで家族は生き返るのか?


「選びたまえ。君にはチャンスがある。

 家族の代わりに見ず知らずの20人を殺すか、家族を見殺しにするか。

 さあ、その銃で、撃て」


「俺、は……」


 そもそも、この鏡に撃って本当に人が死ぬのか? そもそも俺は銃を撃てるのか? 家族が生き返る保証も無い。なんで俺がこんな事を──


「では、手伝ってやろう」


 不意に、声が真後ろから聞こえた。


「まず、両手で銃を持つ」


 声に従うように、持ち手を両手で握る。


「次は狙いを定める。ほれ、あの男だ」


 闇が俺に密着する。耳元で声が聞こえる。


「後は引き金を引くだけだ」


 引き金を引くだけで、鏡に映ったこの人は死ぬのか?

 あり得ない。そんな事あり得ない。


「では試してみればいいだろう。撃て」


 冷静なれば今の状況だってあり得ない事だ。これは全て夢で、覚めればいつもの日常が待っている筈だ。


「撃て」


 鏡に撃って人が死ぬ? 家族が生き返る? 俺は死んでいる? そんなの全て嘘だ。全部夢だ。


「撃て」


 あの日は最高の日だった。妹がいつもより沢山笑ってたんだ。最高に楽しい時間だったんだ。だから、だから、だから


「撃て」


 ズドンッッ!


「さあ、次だ」


 闇が俺の体を動かず。

 視界の端に、俺が撃った人が倒れたのが見えた気がする。




「撃て」


 ズドンッ!




「撃て」


 ズドンッッ!!!




 撃つ度に、体の中から何かが抜けていっている気がする。


「ふむ……これは二人分としてカウントしてやろう」


 鏡の中には、腹を膨らませた女性。


「撃て」


 ズドンッ


 全部、夢だ。



 ◇  ◇  ◇  ◇



 全ての鏡に撃った。

 途中から、自分が何をしているのかわからなくなった。

 銃を撃ちきり、体に力が入らない。


「よくやったな。これで貴様の家族は蘇生してやろう。崩壊したショッピングモールで、奇跡的に生き残った家族として報道されるかもな」


 父さんは、姉さんは、弟は、妹は。これで、生き返るのか。


「そうだ。貴様は殺し、助けた。でも、それじゃあ貴様が助からない」


 俺が撃ったのは20人。蘇生には1人5人。


「だから、お前を転生させてやろう」


 体に力が入らない。意識が朦朧とする。


「でも、貴様は家族を助ける為とはいえ無罪の20人を殺した。

 それには相応の罰が必要だ。故に咎人の証を持って転生させる。安心しろ、体は私が創ってやる」


 何……を……


「神が関与した結果人が死ぬとな? そいつを転生させる決まりなのだ。まあ、それだけの素質があった場合だがな」


 じゃあ……あの爆発も、おまえが……


「─はっ───たか? ────だ。──死ぬなよ?」


 俺は、人を……殺した……のか──

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