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第5章  アサシネイター・カミング  〔刺客強襲劇〕

炎光飛竜(ブライトドラグネル)の姿は、死体になってようやく目視することができた。

とはいっても、俺がつけた数多の傷のせいでもうめちゃくちゃになっているのだが。

とまあひとまずそれは置いといて。

「さあ、後ろに何がいる………?」

俺は、先ほど感じた違和感の正体を探るべく、まずは周りを見渡してみた。だが、当然誰もいないし何もない。

「なるほど、な……」

そこで、ナミリが話しかけてきた。

「ちょ、ちょっと、今のって……」

俺は、あぁあのオーバーキルのことかと察し、答えた。

「あれか。いや、俺もあれはやりすぎかなって、今ちょっと思ってるよ」

「いや、そうじゃなくて……。一体、何なのあれ……?いきなり(ひか)って超加速……」

なんだそっちか。確かに、初見ではそうなるのも無理はないか。

俺は淡々と答える。

「異能だよ、異能。人間の筋肉の物理法則をちょっといじって、怖いくらいに加速できるように敏捷力を底上げした。いろいろ複雑だから、ちょっと説明するのは面倒なんだけどな」

まあ俺の馬鹿げた異能が理由だと分かれば、八割がた納得するだろう。そしてその予想は当たった。

しかし、(⚫︎)(⚫︎)(⚫︎)(⚫︎)はまだか。鍵となる凶竜が倒されたんだし、今こうやって呑気に会話しているところを狙えばよかろう。

「……ふーん。なら、わたしたちも使えるってこと?」

「ああ、まあ、そうだ。だけど俺がその異能を使ってたらだけどな」

こう聞いてきたということは、肉体の異変には気づかないのだろう。当事者たった一人というのは、こういうとき割と大変だ。

とまあ、そんな訳だが。

(⚫︎)(⚫︎)(⚫︎)(⚫︎)(⚫︎)(⚫︎)(⚫︎)(⚫︎)(⚫︎)(⚫︎)(⚫︎)(⚫︎)(⚫︎)(⚫︎)(⚫︎)

そしてその予想は、見事的中した。

「…………………………………………………!」



なんで、だ。

こいつがレインだということは、うちのギルド内の数人しか知らないことだろう。

たとえ声の主があのクエストの依頼者だったとしても、アルトがレインだと見抜く術はないはずだ。

なぜ、こんな言葉を──────!?



その言葉は、なぜかこの上ないくらいに鮮明に聞き取れた。

わたしはその瞬間、戦慄を覚えた。一体、この感覚をこの二日間の間、何度感じたことだろうか。

だがそんなことは今はどうでもよい。この言葉の真意が知りたい。理由も、謎も。



拠点(ロッジ・ズ)ギルド所属の、レイン・セルライドはいるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!】



拠点(ロッジ・ズ)ギルドとは、俺が昨日から所属し始めたギルドの名前だ。

だが、俺がレインであることを知っているのは、おかしい。

違和感の正体。

もう、これとイコールで結びつけるほかなかった。

そして、炎光飛竜(ブライトドラグネル)が強かった理由……。

「……ドーピングか、くだらねぇ」

俺は吐き捨てるように、嘲笑を放った。

声の元は、どこだ?

俺は瞬間的に、黒幕を探し始めた。

「リミットブレイク」

再び鍵語を口にし、肉体強化の力を手に入れる。

駆け回り、探して探して走り抜け、やがて見つけたコートの男。

その格好はうちのギルド同様不気味だが、青軍服ではないことからうちのギルド所属ではないようだ。

「やぁ~っと会えた」

まるで肉親と再会するかのような顔と口調で歩み寄ってくる。だが、俺は問う。

「誰だ」

問いに、無駄な言葉は必要ない。三文字で済んだ。

だが男は口調を変えることなく、笑いながら───いや嗤いながら答えた。

「……さあね?」

その答えは、俺が剣を抜く理由には十分すぎた。刹那、男の首元に剣を当てる。

「……答えろ!」

だがそんな俺のこと様子に怯むふうもなく、やれやれといった感じで答えた。

「……冗談の通じない人ですね、まあとりあえずカーオルとでも名乗っておきましょうか」

カーオル。

俺はそのわざとらしい偽名に、しかし追及はしなかった。

無駄だと悟ったからだ。

カーオルというのは、俺が持っている

「さてさてレイン、君がお求めなのはこの本かな?『未開の書』」

な……………ッ!?

それは、あの時、俺の家に………!?

未開の書、それは作者不詳、全二百五十三ページの詩のような文章が書かれた本だ。

ただ、普通の本ひとつでここまで騒ぐわけない、未開の書には大きな秘密があるのだ。

それは、複製不可。

本であるなら全く矛盾した話だが、事実なのだ。

だからこそ、そこに神秘があるというのに。

さらには、俺にとって未開の書は特別なものだった。

今までの人生十六年間ほぼ全てを費やして読んできた、まさに唯一無二の存在。

こう言うと笑われるかもしれないが、しかしながらこれは俺にとっては真剣なことなのだ。例えば、誰一人、くだらないと他人が思う宝物があるだろう?それが、俺にとってはこの未開の書だったのだ。

そしてカーオルというのは、その未開の書に出てくる人の名前なのだが────

だが、なぜカーオルが持っている。

いや、調べれば俺の家くらいわかるかもしれない。ただ、俺の異能を生かした超強力な鍵がかかっていて、もちろんのこと壁を壊すことも不可能だ。だから、盗む術はないはずなのに──────!

「おい」

「はい」

「さっさと化けの皮剥げよクズ」

…………。

「………クックックッ。いきなりクズ呼ばわりか、ハーッハッハッハァァァァ!」

「───それがお前の本性か」

「ああそうさ、そうだよ。だか生憎、ギルドのみんなを呼んじゃってんだ」

そう言うや否や、カーオルは右手を上げた。

出てきたのは───………。

「う、うそ……サブギルドリーダー……!?それに第三パーティの人たち……」

ナミリの声だ。

俺にはこいつらが誰なのか全くわからないが、それでもナミリがそう言うのだから間違いはないのだろう。

そして分かることがもう一つ、こいつらはカーオルが詐欺師だということを知らない。先ほどのハンドサインも、あらかじめ決めておいたものだろう。

やけに声が小さいと思った、このためなのか。

「さあ、どうしたんだ、アルト。何か用があるんじゃないのか?」

集団の中のうちの一人が俺に問う。

……なるほどね、そういうことか。

俺が用があると騙し、呼び出す、と。

なんて子供じみた騙し方だ。

なんて───なんてつまらない余興だ!!

「さぁさぁ、もしこのアルトが、かの"無敵の独剣"レイン・セルライドだったら……?」

煽るカーオル。

とりあえず、死ね。

「……リミット、ブレイク」

異能のその奥を解放しただけで、その余波で、地が砕ける。

「ははっ、レイン……?あの、ソロのぼっちプレイヤーぁ?」

「まさか、あんなのが。年が近いだけだろ」

「てか、うちのクエストでこいつらが殺しただろ」

「いきなりどうしたんだよ、セレスさん」

他の人に別の偽名を使っていることが分かったが、そんなことはどうでもいい。

「な、なぁ、アルト、お前セレスとなんかあったのか……?」

「そういえば、アルト、なんか異能解放してるし……」

「無駄に信憑性高ーし」

段々、アルトがレインと繋がりがあるのでは、というアルトやセレス、もといカーオルへの不信感を募らせていく。

「なあ、アルト、実際のとこどうなんだ?なんで、レインってやつなんか持ち出して……」

あぁ、うるせぇな、アルトアルトって。

俺は生憎アルトじゃないんだ、勘弁してくれよ。

「おや、アルト、ギルドのみんなに用があるんじゃないのかな?なんか、未開の書がどうとか」

未開の書……?二度とその言葉を口にするな、黙れ、黙れ。

盗っ人め。

「未開の書……?確かそれ、世界に一冊しかない神秘の書物だって……」

「そんなのがなんでここに……?」

「おい新入生、答えろよ」

とりあえず黙れ、五月蝿い。

ビキィィィン!

地が、さらに細かく砕ける。

「おい、しゃべれよ」

「用があるんじゃないのかよ」

あぁうるさいうるさいうるさい!

「なんなんだよ、用って。こっちは時間割いてんだぞ」

知るか。

「迷惑なんだよ、そうやって新入生が出しゃばるの」

うるさいお前の方が迷惑だ。

「調子乗ってんなよ、さっさとなんか言えよ」

お前ここ代わるか?

んで同じこと言えるか?

「用ってなんだよ」

「おい!」

「言えよ、やる気かおら?」

……………。

……………………!!!!

「……確かに、用があると言えばあるな……」

俺は、誰にも聞こえないような小さな声で呟いた。

未開の書。

煽りによるうるさいブーイング。

そして、俺の正体。

俺を怒らせるには、十分すぎてお釣りがくるぜ──────

「………お前ら!!」

息を吸い込み、吐き出す。

溜め込んだ思いと、共に。

「よぅく聞けぇぇぇぇぇ!!」

周りは訝しそうにこちらを見るが、構うものか。

「俺は!!俺、アルトサークスはぁぁぁぁぁぁ!!」

叫ぶ。

怒り、

鬱憤、

不満、

無常感、

溜め込んだもの、全て解き放つ。

「俺はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

スゥゥゥゥゥゥ─────────

「俺は、俺は!!レイン・セルライドだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」

俺は、俺が、無敵の独剣、レイン・セルライドだ!!

レイン・セルライドは、ここにいる!!!!!!!!!!!



解き放つ。

魂の叫びを、空に届かせる。

縛られてばかりの生活なんて─────ヘドが出る!!!!

死ね、カーオル。

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