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魔王の育て方  作者: ヒライチカ
一章
2/39

第一話

ここから本編です


「……て、……い」


 何か聞こえる。

 それに……明るい?

 瞼の隙間から覗く光が眼球を刺激する。


「……きて、ください!」

「ぐほっ!」


 大きな声と共に、頬に衝撃を受けた。

 意識が覚醒し、目を開けると一面の土。

 何故か地面とキスしていた。

 ベロチューだ。

 俺の初キッスの相手は世界か!


「おえ、ぺっ! ぺっ!」

「あっ、良かった。目を覚ましたんですね」


 上体を起こし、視線を向けると女の子が立っていた。

 肩の辺りまで伸びたウェーブがかった金髪に、快活そうな大きな碧眼。女の子と女性の間くらいの年齢。村の娘か、汚れた布の服を身に纏っていた。


「目を覚まさないから、思わず殴っちゃいました」


 ……きっと、言い間違いだよね。

 彼女は叩いちゃっただけだ。

 左の頬がズキズキ痛むのも気のせい。

 俺は立ち上がり、体の土を払い落す。

 そこで気付いた。

 何故か下着一枚だった。


「あれ? 俺の服は?」


 記憶の最後は勇者との戦闘。その時は魔力で作った鎧の下に、魔力を通しやすくするためにマナ繊維で作られた特注の服を着ていた。

 流石に下着一枚で戦う変態じゃない。


「私が来た時にはその格好でしたよ」

「……そうか」


 恐らく、気を失っている間に追い剥ぎに遭ったのだろう。

 くそっ!

 あれ高かったんだぞ。


「それにしてもそんな格好で昼寝なんて、変な趣味してますね。悪い人たちに襲われますよ?」

「そんな趣味はねえし、これは襲われた後だろ!」


 思わず初対面の相手にツッコんでしまった。

 そこで疑問が残る。

 服がないのは、おそらく追い剥ぎだろう。

 だけど、勇者との戦闘で傷を負ったはずなのに、怪我した様子がない。


「まだどこか怪我してますか?」


 女の子が心配そうに尋ねる。


「私、回復魔法は初級までしか使えないので」


 そして、あははー、と恥ずかしそうに笑う。

 ……。

 ああ、なるほど。


「すまない、君が傷を治してくれたのか」


 そう言って、頭を下げる。


「いいんですよ。頭を上げてください。これも私の修練になりましたから」

「それでもだ、ありがとう」


 そこで不思議に思った。


「俺は怪我してたんだよな?」

「はい」

「なら何で昼寝だと?」

「いやあ、怪我するくらい寝相が悪くて、とても眠りが深い人なんだと」

「…………」


 その発想になるのはおかしい気がするが。

 まあいい。

 まずは情報収集だ。


「聞きたいんだが……えっと」

「はい、何ですか?」


 女の子が首を傾げる。


「そういえば、助けられたのにまだ名乗ってなかったな。俺の名前はディラン・ルークスだ」

「あ、私の名前はアイリっていいます」


 そう言って、彼女――アイリはにこやかに笑った。


「ディラン・ルークス、さん。貴族の方だったんですか?」

「いや、貴族ではないんだ」


 この世界でファミリーネームを与えられるのは王族や貴族、または上級騎士くらいで、町や村の住人が与えられることは少ない。


「じゃあ、どこかの偉い人なんですか?」

「……まあ、そういうこと」


 一応、魔王だけど。


「偉い人なのに裸で昼寝を」

「だから違う!」


 その話はもういい。


「それでアイリ。聞きたいんだけど」

「はい、何ですか?」

「今、俺たちがいるところってどこだ?」

「何言ってるんですか、ここはアーミヤの外れの田舎じゃないですか」

「アー、ミヤ?」


 どこだ。

 聞いたことがないぞ。

 魔王として連合軍と敵対するために、相手の国などは調べたりした。だけど、アーミヤなんて単語は記憶にない。


「どうやら記憶にない」

「もしかして、エルドリア大陸から来たんですか?」

「エル……ドリ?」

「エルドリア大陸ですよ。人族が住んでいる大陸はここソーサリー大陸とエルドリア大陸くらいじゃないですか」

「…………」


 二つとも聞いたことがない。

 ここは俺が知っている世界じゃないのか。


「すまない、どうやら記憶が曖昧になっているみたいだ」

「? おバカになったってことですか」

「……それでいい」


 初対面相手になんてこと言うんだ、コイツは。


「まあ、命さえあればなんとかなりますよ。『本当に取り返しがつかないのは命くらいなものだ』って父さんも言ってましたし」


 笑顔でそう言うアイリ。

 それはまるで俺を励ますためのようで。


「ハッ」


 思わず笑ってしまった。


「あっ、やっと笑ってくれましたね」

「そうか?」

「はい。もうずっと仏頂面で、私の村の人たちみたいでした」

「悪かったな。まさか、年下の娘に励まされることになるとは思わなかった」

「む~、これでもこの間成人の儀を終えたばかりなんですけどね」


 つまり、十五になったばかりということか。


「俺は十八だから間違ってないだろ?」

「えっ!? 十八ですか」

「何、その反応」

「いや、もっと年上かと」

「……見えないか?」


 あれ、俺って老けて見えるの?

 ショックなんだけど。


「老けてるとかそういうんじゃなくて。何ていうか落ち着いているというか、貫録? みたいなものがあるというか」

「まあ、それなりに色々経験したからな」


 あまり大きな声では言えないが。国破壊を少々。

 とりあえず話を戻そう。


「アイリ。すまないが、もう少し色々教えてくれないか」

「はいです」

「えっと、人類が住んでいるのが、そのソーサリー大陸とエル……」

「エルドリア大陸です」

「ソーサリー大陸とエルドリア大陸。他に大陸は無いのか?」


 俺の質問にアイリは顎に指を当てて、思い出すように、


「えっと、ですね……エルフ族や妖精族が住んでいるマルフス大陸」


 これも聞いたことがない。

 本当に別の世界なのか。


「あとは、魔物が多いルークスフォン大陸ですね」


 ――――。


「あれ? ルークスフォン大陸はご存じなんですね」

「ああ」


 ご存じも何も。

 そこは俺の根城があった場所だ。

 ルークスの名もそこから取ったわけだし。

 知らない世界というわけではない、のか?


「アイリはどこら辺にどの大陸があるのか、分かるか?」

「むかーし、一度だけ教わっただけなので、うろ覚えですが……えっと」


 近くの枝を拾い、地面に簡易地図を描くアイリ。

 東西南北に一つずつ描くその大陸は、少し形が違うけど、俺が記憶している地図に似ていた。


「ルークスフォンはここだよな?」


 俺が指を示したのは北の大陸。


「はい。マルフス大陸はこっちで」


 アイリが枝で丸印を付けたのは東の大陸。


「ソーサリー大陸とエルドリア大陸はこことここです」


 西と南の一部繋がっている大陸をそれぞれ四角と三角の印を描いていく。

 ああ、間違いない。

 それぞれの住んでいる種族の大陸も一致している。


「なあ、ソーサリー大陸って、他に別の呼び名とかないのか。例えば、レイティアとか」


 俺が知っているのはレイティア大陸だ。


「レイ、ティアですか? ……どこかで聞いたことがあるような」


 アイリは少し考え、それから思い出したように手を合わせ、何故か笑い出した。


「ディランさんって面白い人ですね」

「何がだ」


 馬鹿にされているような気分だったが、表情に出さないようにアイリに尋ねる。


「だって、三百年以上前の大陸名を出すなんて思いもしませんでしたよ」

「――は?」


 何て言った?


「ちょっと待て。どういう意味だ」

「えっ? だってレイティアって昔の名前ですよね」


 昔って、どういうことだ。


「……アイリ。もっと変なこと聞いていいか?」

「はい、どうぞ」


 アイリは無い胸を張って頷く。


「今って何年だ?」

「本当に変なことですね」


 アイリは小さく首を傾げ、


「今は王国歴767年じゃないですか」



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