第0話という名のプロローグ
初投稿です。
なんとか主人公TUEEを目指したい
王国歴264年。
王国連合軍と魔王軍の戦争は熾烈を極め、両軍の戦いの行方は二人に委ねられていた。
勇者と魔王。
それはコインの表と裏のように。
どちらが相手の上に立つのか。
どちらが地面に伏すのか。
その結果、世界の命運が決まるのだから。
※
戦いの最中、生じてしまった空間の歪み。あらゆる物理法則や魔法科学法則を無視した空間。上下の感覚も曖昧で、相手の距離は不確か。
そんな中、俺は相手と向き合っていた。
目の前にいるのは勇者。
なんか格好いい防具に、これまた業物っぽい剣を持って構えていた。
フルフェイスで覆われて顔は確認できないが、細身の体躯から優男に違いない。
勇者として崇められるくらいだ、おそらくイケメンなのだろう。
きっと女の子とかにもチヤホヤされていたのかも。
いい加減、イケメンは滅ぶべきなんじゃないかな。
……あ、なんかやる気出た。
俺のやる気に応えるように、握っていた魔剣が輝きを増す。
魔力で練られた剣、ヴァランジュがその欠けた部位を修復する。
何合と打ち合わせられた剣戟。
俺のとっておきの剣は打ち合わせる度に欠けていき、それに対して勇者の剣は傷一つ付かない。また、魔法による攻撃も、何らかの加護か、もしくは防具の特性か、ダメージは一切ない様子。
要するに勝てる可能性がない。
自分の死を予感したためか、脳裏に様々な記憶が蘇る。
思えば数奇な人生だった。
辺鄙な村生まれだった俺。魔法を学ぶのが楽しくて、ちょっと禁忌に手を出してしまい、気に入らないお城とかをぶっ壊し、魔物を従え、気が付けば魔王と呼ばれるようになっていた。
後悔はないのかと問われれば、意外とないものだった。
勿論、女性と関わりがある人生なら良かったという願望はあるが。
それを含めても、そう悪くない人生だった。
「そろそろ終わりにしますか。勇者サマよ!」
勝てない戦い。
そんなものを長引かせても仕方ない。
あの世界では、彼の帰りを待っている人たちもいるのだから。
こちらの意を組んでくれたのか、勇者は剣を両手で構えた。
全身の魔力を剣に込める。
高揚感で呼吸が浅くなる。
未知の領域に手を出す瞬間は、いつでもワクワクさせる。
「いっ、くぞおおぉぉああぁぁぁ!」
咆哮にも似た雄叫びを上げながら勇者に詰め寄り剣を振り下ろす。
渾身の一撃は。
呆気なく勇者の剣に受け止められ弾かれると、俺の隙だらけの胴体は袈裟切りに斬られた。
ここに戦いは終わった。
勇者の完勝。
魔王はここで倒されました、とさ。
勇者と対峙した時から、こうなることは受け入れていた。
ああ、そうだ。
思い残すことはないが、心残りはあった。
「……わりぃ、勇者サマ。俺が死んだ後、なるべく、仲間に酷い、仕打ちはしないでくれ」
膝付きそうな足に力を込め、ゆっくりと懇願する。
人を襲った魔物もいた。
それが返り討ちに遭うのは仕方ない。
因果応報だ。
だけど、人を恐れて逃げ隠れしている魔物もいる。
そいつらを思うと忍びない。
身勝手な願いだということは分かっている。
傷の痛みを堪えながら表情に出さないように強がる俺を、勇者はしばらく黙って見つめ、それから、
「私の出来る限りで」
そう応えた。
……。
驚いた。
勇者の言葉にではなく、その声に。
それはまさしく女性の声。
凛として、耳に残る良い声だった。
「……ハッ」
つい笑みを零してしまう。
ならばクダラナイ俺の願望すらも叶っていたか。
「……頼む。これはせめてもの礼だ、防御しろ!」
俺の言葉に勇者は腕をクロスし、防御の構えを取る。俺はそれを目掛け、ありったけの魔力の塊を放つ。
傷一つ与えられないとはいえ、衝撃までは無くすことはできなかったようで、魔力の塊を受けた勇者の体がどんどんと離れていく。
俺が送ったのはこの空間の歪みへ落ちてきた場所。
なら、あっちの方向に出口があるはず。
後は何らかの加護やら、勇者特有のご都合主義やらで、元の世界に戻れるはずだ。
一人残った空間の歪みで、死にゆく運命に身を委ねる。
自己回復魔法は使えるが、生憎と魔力がすっからかんだった。無理やり全ての魔力を放ったから、魔力経路も壊れてしまっている。
それでも俺は笑っていた。
満足だ。
仲間は勇者に任せたし、なにより――。
「人生初めての女性とのダンスが勇者だったとは」
先ほどの戦闘もダンスだったと思えば、女性に縁のなかった俺にとって至福のひと時だった。
こうして俺――ディラン・ルークス、十八年の生涯は終わりを告げる。
もしも次があるなら。
魔王とか勇者とは関わりのない生活を祈って。
今日中に後二つは上げます。