第6話
……………すいませんっ!!
長い間更新をあけて申し訳ございませんでした!
やっぱり創作は難しいなと日々感じる。
そんなこんなで久しぶりの6話です。
駆け足で更新したので誤字とか見つけたら是非報告お願いします!
感想も是非!
ボールがネットをくぐる音や青年男子の野太い荒声が体育館中に反響する。まだ暦は五月にもさしかかってないが、体育館内の熱気は夏の日の日中となんら遜色ない。体育会系部活動にとっては最大の大会といってもおかしくない大会、高校総体まであと二か月ほど。三年にとっては最後になる集大成の場だ。全国大会に進める可能性は限りなく低いが、これまでの最高成績を収める為に部員全体の士気は高い。もちろん俺だって例外じゃない。レギュラーメンバーの紅白戦をコート横から眺めながら、コート内で駆けまわってる選手に檄を飛ばす。コートには白鳥もいる。ムカつくヤツだが実力は申し分ないので仕方がない。
「よし!柔軟して終了だ!」
顧問の春馬先生が柏手を打ちながら声を張り上げる。あとは各自で体操をして全体練習は終わりだ。だが、大多数の部員はこの後に筋力トレーニングをしたり、走り込みをしたり各自の技量向上に余念がない。普段の俺ならばその例にも漏れないのだが……
「む?水無月今日は筋トレしないのか?」
しゃがみこんでシューズの紐を緩めていたら頭上から声をかけられた。反射的に顔を上げると、いつも一緒にトレーニングをしている同級生の藤巻が瞼の開閉運動を繰り返していた。藤巻の右手にはトレーニング室の鍵が握られている。
「ああ。ちょっと外せない用ができてな……」
五反田と待ち合わせている、とは言わずに言葉を濁す。栗原薫よりは劣るものの、男子人気が比較的高い五反田と待ち合わせていると言ったら煩わしい問答が始まるのを危惧したからだ。もっとも、男子高校生が考えるような甘い雰囲気はおそらく微塵も感じないと思うが。
「……そうか。明日の練習試合への意気込みを聞いてみたかったのだが……。用があるなら致し方ない!明日の練習試合では互いにベストを尽くそう!」
顔に落胆と書いてあった藤巻の顔は、目を瞬かせた間に落胆から活力に書き換えられていた。その切り替えの早さがとても面白くてたまらない。衝(笑)撃が胃の奥底から喉を通ってせり上がってくる。暴発しそうなこのエネルギーを咥内に押し留める。笑いを堪えている俺を今度は顔に疑問と書いていぶしむ視線を向ける藤巻。その顔にまた胃の中で笑いの爆発が発生する。端的に言ってカオスだった。
根っこからクソ真面目。俺が藤巻に抱いている評価であり、好ましく思っている部分である。
ストイックに身体を虐めている藤巻に別れを告げて約束の茶店に向かう。学校の正門を抜けて横断歩道を渡ると鎮座しているその茶店は、これまで全くと言っていいほど利用したことがない。いや、そもそも茶店を利用することが俺にはない。コーヒーは苦手だし、しょぼい軽食に1000円くらい払う価値はないと考えているし。だからなのか、いざ店の前まで来ると入るのに尻込みしてしまう。この感じは覚えがある。小学生の頃に職員室入る前に感じた焦燥感と似てる。なぜかトイレしたくなってたんだよな。職員室入る前。
「……アンタなにしてんの?」
生産性のない空想をダムの放水のごとく垂れ流していると、後ろから呆れかえった声が耳に届いた。条件反射で肩を揺らす。今日はよく背後から声かけられるな、なんてことを頭の片隅に置いて振り返る。同じ高校の制服を着た女生徒が立っていた。というか五反田だった。
「いや、こういう店には慣れてないもんでな……。入る機を伺ってたんだよ」
そう言うと、五反田の視線に一層呆れの色が滲み出た気がした。視線から逃げるように目を逸らす。視線を逸らした先には、仕事を終えそうになっていた太陽がこちらに光を届けていた。
「ま、いいわ。入りましょ?」
深く息を吐き、五反田は店の扉に手を掛ける。迷いなく店内に歩を進める五反田の背中を俺は慌てて追いかけた。
五反田に続いて店内に足を踏み入れたそこは、まさに喫茶店!といった雰囲気を出していた。程よく暗めの照明。店内を漂うコーヒーの香り。落ち着いた曲調のBGM。ハッキリ言って場違い感しか感じない。
そんな俺の心理状態を全く危惧しない五反田は、淀みない所作で1番奥の2人席を既に確保していた。……まぁ分かってたけども。少しはこっちを気にかけてくれて欲しいもんだ。そう思いながら五反田の向かいの席に腰を下ろす。クッションが部活で疲弊した太腿周りの筋肉を優しく受け入れたような気がした。背もたれにもたれかかると疲労が体から抜けていく感じが心地良い。
「アンタ何頼む?」
そう言って座って1秒でくつろいでいる俺にメニュー表を差し出す五反田。机の横にはエプロン姿の店員さんがいつのまにか立っていた。無言でメニュー表を受け取ってページを開く。
……ふむ。コーラはないのか。
「炭酸とかないの?」
「ある訳ないじゃない」
「ちなみにお前は?」
「私はブレンド」
「じゃ、カフェオレで。ガムシロとか貰えます?3つくらい」
店員さんの目が丸くなった。向かいの五反田はこめかみを押さえている。
「この人もブレンドで。ブラックでいいです」
「ちょっとまて」
なにやら物騒なことを言い出した五反田を咎める。ここを離れたそうにしている店員さん。もう少し付き合って貰いますすいません。
「なによ」
「俺苦いのニガテなんだよ。ブラックとか無理」
いやもう本当に無理。好んで飲む人の味覚を疑うレベルで無理。
「じゃ、ここで克服しなさい。店員さんもういいですよ。お願いします」
だが俺の申し出は呆気なく棄却された。店員さんも足早に去っていく。さっき抜けたばっかの疲労感が帰ってきた気がした。
「お待たせしました。ブレンド2つですね」
「あ、はい」
先程後ろに捌けた店員さんがお盆にカップを乗せてまた現れた。と思ったらまたすぐに後ろに捌けた。フットワーク軽いな。おい。
それはさておき……。
目の前に置かれたコップの中身を改めて目に入れる。うん。紛うことなきブラックコーヒーだ。とりあえず一口飲んでみる。
……うん。苦い。
「美味しいのに。そんなに嫌なの?」
さすがに無理矢理決めたのは悪いと思ったのか、五反田の顔には少し申し訳なさそうな態度が見える。そんな顔されたら気にすんなとしか言えないだろ!
「……前飲んだのが結構前だからもしかしたら大丈夫かもしれん」
そんな心にもないことを吐いてしまうくらいには。五反田の困り顔はあまり見たくないものだった。再度一口。
…………やっぱ苦い。
「……アンタ本当に栗原さんのこと諦めるの?」
お互いのカップが軽くなった頃、唐突に五反田が口を開く。その言葉は今の俺の耳にはとても重く残った。というか。
「そもそも。諦める諦めないの話じゃないんだよ」
「……どういう意味?」
「今日昼休みに薫と話した。その時に感じたのは怒りなんだよ。ずっと隣にいた俺じゃなく、よりによって白鳥だ。ま、それは正直仕方がないことだろ?誰を選ぶのかは薫が決めることだ。ただな……
……その事がとても許せなかったんだ。そしてなにより俺が一番許せないのは、勝手に裏切られた気になってその感情を薫に押し付けた俺自身なんだよ」
ここまで言い切って手に持っていたカップを口に運ぶ。中身が入ってないのに気付いたのはカップを傾けてからだった。
「……幻滅したろ?」
そう自嘲気味に問いかける。五反田が望んた返答は出来なかったかもしれない。それでもこれ以上言う事はない。
「……ううん。アンタらしくて納得はできた」
そう言って五反田は笑った。今まで見たことないような笑顔だった。その顔はとても優しいもので、思わず目頭が熱くなった。色んな感情が体内を巡る。白鳥に対する嫉妬、薫に対する失望、自分自身に感じる憤り。ずっと見て見ぬ振りしていた感情が溢れ出す。気付けば涙が止まらなくなっていた。声を押し殺して涙を流す俺を、慰めるでもなくただ黙って見ている五反田。その態度が今の俺にはとても有難くて。ただひたすらに泣き続けた。
ちなみにもう一つの方は書き溜めてたのが全部消えてました。泣
死にたい。




