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第4話

また遅れちゃいました。いや、ホントすみません。

書きたい題材がありすぎて。(苦笑)



栗原薫がまだ出てきてない件について。

今回出す予定だったんですけどね〜。

次回に持ち越しです。


あと、定番すぎる表現もあります。これ、書いてみたかったんです!

「君、どうしたんだい?」


「!?」


アスファルトの上に座り込んで空を見上げていた俺は、近くを通っていた男性に声をかけられることで正気を取り戻した。

慌てて立ち上がる。そんな俺の様子を見て、男性は声を押し殺して笑う。


「別にとって食おうって訳じゃないよ。ただ、若者がそんな所で座り込んでるからねぇ。ちょっと気になっただけだよ。」


そういって男性はまた笑う。今度は我慢せずに。カラカラと笑うその男性はとても楽しそうだ。


ただ、


「…はぁ。御気遣いどうも。」


こうやって笑われるのは勘弁したい。


「そんな固くならないでいいんだよ?同級生だと思って接してくれたら僕も嬉しいかな。」


「自分より遥かに年長者な人を同級生扱いなんてできません。」


「年長者って。僕はまだ七十だよ?まだまだ若輩さ。」


「ならなんでさっき若者扱いしたんですか…。って七十!?」


喋り方もフランクだからてっきり五十代くらいと思ったのに。うちの爺さんと同じくらいとは思えん。


「おっ。その驚きようはもっと僕が若いと思っていたな。嬉しいねぇ。」


そういってお爺さん(?)はまた笑う。にしてもよく笑うなこの人。ひょっとしてこれが若狭の秘訣なのか?こうやってけらけら笑っているお爺さん(?)を見ているとあながち間違いではない気もする。


一通り笑って満足したのか、お爺さん(?)は掛けていた眼鏡を外して目頭を揉んでいる。まだひーひー言ってるが。


「いやー、君と話すのは楽しいね。今後のいい道楽になりそうだ。そうだ。今からお茶でもどう?ご馳走するよ?」


…どうみても玩具として扱われる未来しか見えない。


「……今から学校なんで。遠慮しときます。」


「あら、残念。」


そう言って眼鏡を掛け直す。声音には残念さは微塵もなかった気がするが。気にしたら負けだ。


「ずっと座り込んでいたからねぇ。てっきり学校に行きたくないものだと思っていたよ。」


…いつから見られてたんだ?


「…いつから見てたんすか。」


「ん?茶髪の背が高い子と肩を組んでいたところくらいかな?」


結構初めからじゃねぇか。


「随分と仲が良いみたいだね。」


「…そんなことないすよ。」


「はは、そうなの?」


「はい。って、もう授業始まりそうなんで。そろそろ失礼します。」


そう言って左手首に巻いた腕時計を流し見る。あと十分ほどで1限目が始まる。HRの遅刻は内申に関わらないが、授業の遅刻は内申に関わるのだ。なまじ成績が良いわけではないので、こういった些細な事でも成績が落ち込む要因にもなる。


「じゃ、これで。」


「あー、まったまった。ここで会ったのも何かの縁だ。どうだい?ここは一つ自己紹介でもしようじゃないか。僕の名は戌亥(いぬい)戌亥兼房(いぬいけんぼう)だ。気軽にけんちゃんでいいよ。」


そう言ってまた笑う。本当によく笑う人だ。


水無月新(みなづきあらた)です。あと、けんちゃんとは呼びません。戌亥さんで。」


「あらら。ま、いいか。引き留めて悪かったね。学生の本分は勉学だ。しっかり励むんだよ。」


「わかってますよ。じゃ、失礼します。」


会釈をして小走りで学校に向かう。あと数分で授業が始まる。お爺さん(?)改め戌亥さんと話したからか、白鳥との会話で感じていた億劫さはなくなっていた。変な人だったけど。とても変な人だったけど!






小走りとはいえ、学校敷地外から教室まで走るとそれなりに息が乱れる。たとえそれが運動部だとしても。

息を切らしながら教室のドアを開ける。教室にいた人達が一斉にこっちを向いた。遅刻した時のこの視線は苦手だ。だから早く撤退するに限る。そう思い、そそくさと中に入ろうと…


「おい。」


唐突に背後から声を掛けられたらどうなるか。答え。ビビりまくる。

盛大にビビって、背後を振り返る。そこには鬼がいた。違った。鬼のような女性がいた。というか担任だった。


「お、おはようございます…。」


とりあえず挨拶。何とかしてこの状況から逃げ出さないと。


「おう。おはよう。随分と重役出勤だな。」


手に持った教科書を丸めて、パシンパシンと弄ぶ。気のせいか、後ろに般若像が見える気がする。


「…ははは。た、たまには、ね。じゃ、授業の準備を…」


「放課後、反省文だ。原稿用紙一枚分。キッチリ書くように。」


丸めた教科書で俺の頭を叩く。死刑宣告も同時に。


「…はい。」


それに抗う術を俺は持っていなかった。





担任からのお叱りを抜け、自分の席につく。ちなみに窓際。荷物を机の上に置き、席に座る。そして深く溜息。いや、もう今日は疲れた。授業受けてないけど帰りたい。


「溜息でかすぎ。疲れてるの?」


朝から溜息を吐く俺に呆れたのか、前の席に座っていた女生徒がこちらを向きながら問い掛ける。


「まぁな。色々あったんだよ。気を悪くしたならすまん。五反田。」


右手をひらひらさせながら、女生徒、五反田真姬(ごたんだまき)に謝る。


「迷惑だったって訳じゃないわよ。だから気にしないで。」


自身の顔の前で手を振りながら、五反田は何でもないように言う。にしても、美人だよな。コイツ。美人は何をしても絵になるというが本当にそうかもしれん。その割には彼氏がいるとか聞かないんだよな。理想が高いのかね。担任も美人だけど彼氏いないって嘆いているの前に見掛けたし。あ、でも担任は煙草吸ってるからな。それが原因なのかも。うん。そうだ。そうに違いない。(確信)


「ねぇ。ちょっといい?」


脳内で担任の彼氏出来ない原因を分析していると、五反田が俺の顔の前で手を振りながら囁く。


「なんだよ。どうした?」


「アンタが言う色々って、栗原さんに彼氏が出来た事?」


…今、水を飲んでいなくて良かった。飲んでいたのならば確実に吹き出していただろう。というか、話早くね?それ昨日の話だろ?


「そ、そ、そんなわけねーだろ。」


平静を装いながら言葉を返す。全然装えてないけど。


「嘘だね。アンタ嘘つく時口元を隠すから。」


「え!?マジ!?」


無意識に口元に添えていた手をサッと下ろす。

なんてこった。そこまで見抜かれていたのか。これからコイツの前で嘘はつけない。


「ま、嘘だけど。」


「嘘かよ!びっくりさせんなよ。」


良かった。本当にそうなら五反田とこれから会話するのも怖くなるところだった。


「アンタのその反応で嘘ってわかったけどね。」


「…あ。」


…ブラフかよ。


「本当、アンタって単純よね。扱いやすい。」


俺がまんまとブラフに引っ掛かったからか。五反田は小さくガッツポーズをとる。


「…俺はお前と会話するのが怖いよ。」


はぁ。と溜息を吐きながらこめかみを触る。五反田はひどーいとか言ってる。同級生を扱いやすいと言って御機嫌になるお前も充分ひどいと思うが。


「で、実際どうなの?」


声のトーンを幾分か低くして、再度五反田は問う。


「どう。とは?」


「誤魔化さないで。栗原さんの事好きだったんでしょ?」


真っ直ぐに俺の目を見つめる五反田。もう誤魔化しは効かないだろう。誰にも言った覚えはないけど。態度でバレバレだったのか?


「…確かに俺は薫が好きだけど。今更どうしようもねぇよ。」


声に諦観の意が混ざったのか。思ったより低い声音になった。でも実際そうなんだ。もうどうしようもない。だって。


「俺は実際、その場面を見たからな。あんなの見せられたら、な。」


俺が何年隣にいても出せなかった表情を、アイツは。白鳥は引き出した。それだけだ。ただ、それだけ。それだけでも、俺の心を折るのには充分すぎる効果があった。


「…何よ。それ。」


いつの間にか俯いていた顔を上げる。五反田は立ち上がってこちらを見下ろしていた。その顔は憤怒の色で染まっていた。


「それだけ?それだけでアンタは諦めるっていうの!?」


そう言って五反田は俺の胸ぐらを掴み、引き寄せる。

机が音を立てる。周囲にいた人間も何事か?とこっちの様子を伺っている。


「五反田。落ち着けよ。」


やんわりと、俺の胸ぐらにかかっていた手を振りほどく。手は簡単に離れてくれたが、目だけはこちらを離さない。


「落ち着いているわよ!」


嘘つけ。


「とりあえず、その話はあとだ。」


だからお前も早く座れ。と促す。


「嫌よ。」


「頼む。それにもう授業始まるぜ?」


壁にかかっている時計をしゃくる。と、同時に始業を告げるベルが鳴る。五反田は渋々といった御様子で席に座る。


「逃げないでよ。」


「分かってる。」


それを聞いて、五反田は前を向いた。それを見て俺は胸中で小さく溜息を吐く。朝から本当に疲れた。なにこれ。家では栞にKOされて、通学途中には白鳥に喧嘩売られて。それで変な爺さん(戌亥さん)にも出会って、五反田には詰め寄られる。イベント起きすぎだろ。


「あ、スマホの電源切らねぇとな。」


ポケットに入れていたスマホを取り出す。うちの高校は携帯電話の持ち込みは許可されているが、原則として授業中は電源を切ることになっている。破ったら反省文。今日は遅刻したことで反省文一枚は確定している。二枚目だけは避けなければ。


「…ん?メール?」


スマホの通知バーにメールが届いているとの知らせの表記があった。まぁ、返信は後からでもいいか。とりあえず流し見だけしておこう。ひとまずメールアプリを開く。


「……おいおい。まじかよ。どんだけ厄日なんだよ。」


何度目か分からない溜息を吐く。差出人は栗原薫。内容は



「大事な話があるから。昼休みに校舎裏にきてほしい。」



前までなら、栗原薫との約束はどんな些細なものでも心が踊った。ただ、今回だけは踊らない。まるで死地に赴く兵士のよう。そんな事を考えながら、俺はスマホの電源を落とした。






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