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9.それぞれの心中③―仮の姿―


――それにしても遅い。

立石和馬(たていしかずま)」の姿が見えなくなってから、しばらく経っても「俺」は壁によりかかっていた。

 立石和馬(やつ)がここに一人でいるということは、「カリン」とかいった女と会っているのだろう。「相棒」の方は。


――全く、よくやるよ。

 「坂上(さかがみ)」さんが、溜め息をつきかけた時。

「お待たせ~」彼女が駆けて来ます。一応病院なので控えめですが。

「遅い」顔の向きだけ変えてすかさず文句を言います。「おかげで立石和馬に会っちまったじゃねえか」

「ちゃんと挨拶した? ……愚問か」「こっちが溜め息つきたいわ。何で話さなきゃならないんだ。もっと遅く来れば良いだろ。――全く立石和馬がバカなおかげで」

「少しはコミュニケーションを取らなきゃ。今回は特に信頼が大事なんだから。――騙すために」

 笑顔で言った彼女と引き換えに、より一層表情が渋くなります。――だから、「カリン」と会話をしてきたのか。

 あくまで納得をしていないフリをします。「全く「人間」はこれだから面倒くさい。何で人間の姿にならなきゃいけない……」

「……だってまさか「猫」が病院うろつくわけいかないし。――しかも黒」

「……うるさい」分かってはいます。だけど言わずにはいられません。――ああ、でもこいつ放っておくと何するか判らんし。本当面倒だ。――せめて毛の色変えようか。

「どうせなら七海(ななみ)さんに会ってみる? あの人なら「坂上さん」でも会話出来るんじゃない?」さもしい事を考えたのを見透かしたかのように、とんでもない事を提案してきます。

「……絶対嫌」

「私と似てるし」

「だから嫌」冗談じゃない。――いずみと似ているなんて。

 

 全く、「坂上さん」なんて嫌味言いやがって。相棒をじろっと睨みます。「カガは判りやすいもん」


「……だから嫌」サカガミ(坂上)さん――通称カガは、もう一度同じセリフを繰り返しました。



「やっほー。姫さんは?」

 言うまでもなく、病室に迷惑千万な入り方をしたのは七海さんである。「いませんけど」

 和馬の答えに、わざとらしくガクッと音がするかのように、七海さんは体勢を崩し、「えー。何だよ、折角姫さんに会いに来たのに。……無駄足か」

「……なんで目当てが僕じゃないんですか。僕の病室に来ておいて」折角面白い小説読んでいたところだったのに。

「だって姫さんに会うためには、ここに来るしか……あ! そうか、外で逢い引きするとい……」「七海さん!」

 真面目に怒鳴った和馬に向かって、七海さんはニヤニヤ笑いを返します。それを見て和馬は思いっ切り後悔しますが、もう後の祭り。


「和馬……」

「何ですか」

 一転、静かな会話になります。……表面的には。

「お前って、女の趣味は良いよな」

「そうですか。それは良かった」

「バカだけど」

「承知してます」

――してないよ。

 七海さんは心の中で否定します。――あんな女にうろつかれているようじゃ。

「しっかりしろよ」

 心の中を悟らせないことに、七海さんは昔から定評がありました。

「七海さんも」

 だから全く顔色を変えずに、可愛い部下の激励に笑みだけで返事します。「じゃあな」


――本当にカリンさんに会いに来ただけかなあ。

 手を軽く振りながら去っていく、上司の後ろ姿を見ながら和馬は思いました。



――いた。

 七海さんはふと、「その姿」を認めます。窓から見える彼女の横顔。

――不安に恐々してる。

 しょうがないか。溜め息をつきながら自らが「姫さん」と呼ぶ女性の元へ歩いて行きます。先程「可愛い部下に激励」されたことですし。

――君の望む人間のフリでもしましょうか。性に合わないんだけどね。



「やあ、姫さん」

「だ……七海さん。こんにちは」

 「警察」を苦手とし、うつむきながらも"姫さん”は丁寧な挨拶を返します。――それは七海さんの努力と、何より、和馬からの悪評と言って良い噂故でした。


「大丈夫だよ」不意に七海さんは言います。びっくりして顔を上げた彼女の目に飛び込んで来たのは、七海さんの人当たりの良さそうな笑顔でした。――和馬がよく、その長所を「認めねばならぬ」と、至極真面目な表情で呟いたことを、ふと姫さんは思い出しました。

「君は大丈夫だよ」もう一度七海さんは繰り返します。「遠慮しなくていい。君が心配することはない。警察にも誰にも臆するな。だから遠慮なく和馬の所に行きなさい。和馬の「彼女」は他の誰でもない、君なんだから」

 まるで言い聞かせるような、珍しく強い口調と表情の後、七海さんは途端に笑顔を全開に出して言います。

「たーだ、和馬がバカなだけ」

 その無邪気とも言える言葉を受け、姫さんは笑みを浮かべます。でも彼女の表情にはまた、「涙」がその瞳には無いのに、泣いているようにも見えました。


――全く、こんな表情ばっかしてんなあ。

 そう思いながらも、七海さんは見て見ぬふりをしました。


 こんな嫌なことをしているのも。


 全ては。国安伽凛(くにやすかりん)。その姿が自分の前から消えるまでだ。

やっと出せました、「水車堂」! 七海さんが出張っているので、出すのも難しいです。そして人間バージョンのカガが初登場。いずみもカガもその時々によって姿を変えて現れています。基本的性格はちっとも変わらないかと……。

そして、次も七海さんが聞き役になってしまうかと……。

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