表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/19

4.適当に的確に

――どういう意味だ! と訊くまでもなかった。

 


 最初、その人の言う「姫さん」というのが誰のことか判らず、目をぱちくりしていたら、思い切り大爆笑した後、平然と言い放った――。


「お前が今も惚れてる女性だよ」


 あまりにも恥ずかしすぎて、その後何と言って抗議したのか覚えていない。何を言っても「暖簾に腕押し」状態だったことだけは覚えている。

 

 口が軽いくせに、核心を突く――それがこのテレビドラマにでも出て来そうなぐらい、周囲から浮くであろう主役タイプの刑事である僕の上司の評判だった。ちゃらんぽらんで、適当で、誰よりも子供の様で。部下の僕に「七海(ななみ)さん」と呼ばれるこの男。なのに、常に(・・)ふざけた口調で、的確に(・・・)相手の弱点をつく。他の人から愚痴られながら、僕は納得していた。でも僕は未だ解っていなかったのだ。未だ短い間だが、すっかり慣れ、把握しているつもりだったこの上司のもう一つの面を。


 それこそが、この男の凄さだったのに。


 そう簡単には、掴めない男だったのに。


 もし、計り知れない雲のようなこの男に少しでも近付けたなら、この後、僕はあんな最低なことしなかったんじゃないか? 一生後悔してもしきれないことをせずに済んだかも知れない。

 まあ、僕なんかが近づける訳もなかったけどさ。



「や……あ、カリンさん。いらっしゃい」

「どうも……」


 どうにもぎこちない。解っているのだが、「振られたか」発言をされ、もう来ないかも知れないと思ってしまう。そして、それが違うということについほっとしてしまうためのぎこちなさだった。ちなみにそう指摘した人に「姫さん」と呼ばれている当のカリンさんが遠慮しているのはいつものこと。今やっているように、病室の扉を開ける際、いつも目線が泳ぎ、周りを見回している。

 そして、何故か名前を呼ぶとほっとしているように見える。だから、七海さんにもそう言ったのに、あの人はてこでも動かない。

「あ……あの……ですね」

 一瞬意識してしまうと、何を言って良いのか判らなくなる。

「は……はい」彼女の表情が心なしか硬くなったように見える。

「え……えーと……」

 駄目だ。何とかカリンさんのそんな雰囲気を払拭させようと、何か喋らねばと思うのに、言葉が出て来ない。おかげで僕は願ってしまった。――苦しい時の神頼み! 七海さん! どうにかして!



――と、願ったことを三十分後にはもう後悔していた。どうして神様には叶える願いと、叶えない願いとがあるのだろうか。その境界線はどこにあるのだろうかと、七海さんとカリンさんの愉しそうな顔を見ながら、真剣に考えていた。


和馬(かずま)、聴いてるか? お前の事喋ってやっているんだから、しっかり聴いとけよ。貴重なんだから。まあ、俺は一言一句覚えているから、何回でも話してやるがな。えーと、未だ言ってない話は~」「もういいですよ!」何が貴重だ! それ全部僕の失敗談じゃないか。そんなもの忘れたままでいたい。どうして、この人から記憶が消えてくれなかったんだろう……。

 今、この場にいる全員にばれてしまっている……。


 きっと、神様の境界線はこの人のように嫌味か、もしくは気まぐれによって引かれているものなのかも知れない、と思ってしまう。


「結局、立石(たていし)の記憶喪失の原因は不明なままだな」

「思い出すかと思って、喋ってみたのにな」

――嘘だ。絶対面白がっていただけに違いない。

 

 新田(にった)さんは溜め息をつき、「失敗談でもないとしますと――。実家の方でもないということですよね」

「ええ……はい。特にはない、と」頼むから「弟」よ。七海さんに倣って失敗談なんか話さなくていいからな。得するのはその七海さんだけだからな。

「ふーん。姫さんは……あっても話さないか」そう呟く七海さんが、不満そうに見えるのは僕の気のせいだろうか……「と、すると泥棒石(どろぼうせき)かな」


――え?


 い……いきなり何を言い出すんだろうか。

 気のせいではなく、身体が震えている。何か浮気が見付かった旦那さんの気分……。


「ああ、成程。それなら自分たちには分かりかねますな」

「なんせ奴にしか分からんからな」とは、僕の所属する班の中でも、一番年配の木村(きむら)刑事だ。「そうですね。今手掛けているのは、それほど頭痛める事件でもなかったですね」逆に一番若い――僕よりも――八巻(やまき)刑事がそう言い、新田さんに、未だ終わってはいないけどね、と釘を刺されている。


――って、そんな事はどうでもいい!


「泥棒石と仰いますと、あの新聞等を騒がせた……?」

――え?「お母さん」ご存知なんですか。


 なんかもう、頭がぐるぐるしてくる。


「ええ、そうです。実は――」

実は「七海さん」という人は、昔考えた別の作品に出てくる刑事さんでした(多分階級は「刑事」じゃないけど。詳しくないので全員「刑事」で通します)。丁度いいや、と出したら、何か予想以上にふざけた人に。その話、書く日がいつか来るのか分かりませんが、――書かないかも知れませんし――でも、そしたら、考え直さなくては!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ