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3.三者三様の刑事


 取り調べしているはずが、噂話をしているのでは? と思わず顔を見合わせたくなるのである。


「あのですね――」僕が言いかけた、その時。

 扉が開いた。


「あなた――誰ですか?」

 これが、立石(たていし)が一番に病室に飛び込んだカリンさんに向けて放った最初の一言である。

 顔面蒼白。カリンさんが陥った状態はまさにそんな感じで。立石の家族――母親と弟――は先程の我々の会話の時から、まるで現実に起こったものとは到底信じられないような顔をし続けていたが、今度こそ、これは何かの夢だろうか? とでも言っているような表情でそれぞれの顔を見合わせていた。


 もちろん、我々も――。いや、違った。どんな時でもマイペースな上司だけは、相変わらず(たの)しそうな顔をしていた。

 因みに、僕は新田(にった)という者です。少し前からの立石の同僚ですが、彼にはその後自己紹介をすることになりました。



 僕が目覚めてから数日が経過した。その間、病室に訪ねてくれた人たちから、「立石和馬(たていしかずま)」がどういった人間であったのか、様々に聴き、あらゆる品を見てきた。

 のだが――。相変わらずそれが「僕」のことだと実感出来ずにいた。僕がどこで生まれ、育ち、今ここにいるのか。暗記できる程覚えても、何だかまるで偉人の半生でも聞いているようで(という程、大したことないけど)、自分の経験という感じはしないのだった。


「はー」


 期待されているのは解る。そうし続けることによって記憶が戻るのではないかと。でも戻らない。こればかりは僕自身でもどうにもならない。全く情けない話である。


「よっと」病室のベッドから降り、僕は鏡の方へ向かう。もうすっかり身体自体は元に戻りつつあった――というのは、周囲の話で、僕自身は――なにぶん、「元」を知らないので――大体元気になった、という感じ。一応刑事であったので、人並み以上にはあった体力はすっかり落ちてしまった――らしい。

 だが、本当に「人並み以上」であったのか時折信じられなくなる。こうして鏡の前に立っていると。


 普通の名前、普通の顔立ち。刑事というにはあまりにも似合わない、どちらかというと童顔(しかも未だ二十七歳)。人混みの中にいると、周囲に埋没し、印象に残らない。テレビドラマの刑事なんか周囲から浮いている人が多いのに。かといって怖い存在でもカッコいい存在でもない。人並み以上にあったという体力が落ちてしまった現在、もはや「警察です」と言って犯人とか信じるのかなあ。――いや、僕自身が信じないのだから無理だろう。


――僕、本当に「刑事」やってたのかな。どうして警察官になったんだろう。


「何だ何だ~? 鏡見て溜め息なんかついちゃって~。安心しろ。記憶喪う前からその顔だ」


 来た。それこそ、テレビドラマにでも出て来そうな刑事が。「大きなお世話です」

 ドアの方を振り向くと、そこには――別にカッコいいとか、怖いとかではない。普通の、どちらかというと間抜けな面をした、僕より倍ぐらいの年齢の「おじさん」が、すっかり見慣れてしまったしたり顔の笑顔を顔中に浮かべて立っている。


「そろそろ十二月になろうというのに。暇なんですか、警察って――七海(ななみ)さん」

「折角来てやったのに、何だその言い(ぐさ)。傷つくなあ」

 顔をしかめて僕の嫌味が(こた)えている振りをしているが、実際そんなことはない。いちいち動作がわざとらしすぎる。

「間違えました。訂正します。警察に失礼でした。七海さんだけですね、そんな人」

「可愛げねー。以前(まえ)はもうちょっと可愛かった……訳でもねーな。やっぱ可愛いのは何でも子供の時だけか……」

「……」子供時代――知らないけど――と一緒にされても。今も可愛いと言われても嬉しくもない。二十七にもなって。女性でも喜ぶんだろうか――女心なんてもっと判らない……

「そんなんじゃ、女性にもてんぞ」――ウッ。先回りして言われた気分になり、僕は言葉に詰まる。「の筈なのに~。姫さんみたいな()に想われるなんて~不公平だ! どうやって出会うんだ、あんな良い娘と」

「……」別の意味で言葉に詰まる。


「そういえば、姫さんは来てないみたいだな。――とうとう振られたか?」

「放っといて下さい。七海さんみたいに暇じゃないんですよ。社会人が普通、こんな年末に」

 精一杯強がってみせる。顔を寄せて来て、気の毒そうに最後の台詞(セリフ)を呟いた七海さんに言い聞かせるというより、自分にそう思い込ませるため、といった方が正しかった。「まあ、そういうことにしといてやろう」言動はちゃらんぽらんなくせに。


 七海さんいうところの「姫さん」とはカリンさんのことだ。なぜか名前で呼ばずこのあだ名で通している。「だって姫って感じじゃん」と訊いてもこの調子で終わり、僕へのからかいに発展してしまうので諦めた。他の同僚にも「諦めろ」と言われてしまうし。「それにしても、名前で呼べば良いのに……」と愚痴を言うと「お前も大変だな」となぐさめられてしまった。


「もう一度慣れないといけないんだからな」


少々遅れました。そして少々中途半端です。(いつものこと?)前回の続きからです。一人称が二人とも同じになってしまった。

今回で一番考えたの七海さんの顔かも。俳優でいったら誰似かなあ。少々間抜けで――少々強面? な感じ……。あんま主役張らないタイプ? いや、それは和馬よりマシ?

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