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19.木村さんと、その家

「何だ、ここは。一体、どんな奴が住むんだ?」

「豪華ですねぇ! きっと凄ーい偉い人とかなんでしょうね」

「あの……住んでるの僕、なんだけど」


伽凜(かりん)さんが来た翌々日、今度は同僚の木村(きむら)さんと八巻(やまき)君が「僕の家」にやって来た。

僕がお茶を出すと、一応礼を言いながらテーブルに着いてくれるが、それでも八巻君は見足りないようで、部屋の様子をキョロキョロ見ている。


「ふーん、小洒落たテーブルだな」木村さんはさっさと興味をテーブルに移し、ドンドン叩く。いや、木村さんはトントンと軽めにガラステーブルを叩いているのだが、どうも僕には、ちゃぶ台を叩いて睨み効かしている昭和のおじさんにしか見えない。


「先輩って、凄い彼女見付けましたね。ご本人も清楚で可憐だし。ーーって何かすみません、下手な褒め言葉で。でも本当に羨ましいです。僕も彼女欲しい」

「金にもの言わせる女なんか見付けることはねえ。参考にするんならあの女の性格にしておけ」


木村さんが、物凄く口は悪いけど、根は良い人だということは、この短い間でよく理解していた。


「はい!」八巻君が物凄く素直な性格だということも。


「見付けたきっかけはアレでしたね、泥棒石」「やけに立石(たていし)のことは気に入ったんだよな。ああいう金持ちの趣味はよく解らん」僕がむくれている間も、二人の話は進んでいく。


「目撃者だっけ。俺は気に食わんかったな」

「僕も、あまり会いたくありませんでしたね。先輩にばっかり愛想良くて」

「とうとう家まで与えたんだよな。前はボロアパートだったな」


「い…え…」


その瞬間、頭がぐるぐるした。何か、ヘラで頭の中をかき混ぜられているような感覚。

「せ…んぱい、大丈夫ですか?」

八巻君が心配そうにこちらを覗き込んで来るが、上手く返事が出来ない。


そうだ。前にも、高見(たかみ)さんが引っ越しの話をした時、何かが僕の中に生まれた。何かあったのか? 何かーー。


その時、僕の頭に浮かんだのは、部屋の隅にあるクローゼットだった。


そう。僕は解っていた。記憶を戻す鍵が何なのかを。だけど僕はまだ知りたくなかった。その箱を開けてしまったら、きっと全てを知ってしまう。


ーー以前のように。

 

「でも、その頃にはもう、無くなってたよな、「泥棒石(どろぼうせき)」の事案」木村さんが僕の様子などお構い無しのように、話を普通に続ける。「え、あ……ああ、そうでしたねえ」八巻君の方は、僕の様子に気を残しつつ、木村さんの相槌を打つ。


「そう言えば、その頃からですねぇ、パタッと無くなったの」「ああ。それまでは何件か疑わしい奴が起こってたが。つまらなくなった」「泥棒に入られたって聞いて、駆け付けて、現場が少しでも散らかってたら、何となくがっかりしましたもんね」「その辺、泥棒石は見事だったな。入られても、全然気付かれなかった。……ま、その代わりはた迷惑な通報だけは増えたな」「そうでした、そうでした。物を()くしただけで泥棒石じゃあないかって」「半分、探し物探偵事務所みたいになってな」「新田(にった)さんが、立ち上げてみます? なんて言って。それで班長も、考えた方が良いかあって真剣に言って、高見さんに怒られてましたっけ」「別に、普段からやってるような気がするんだが」

 

 本当に、この人たち警察官? と疑いたくなるような会話が続く。ーーまあ、僕も人のこと、言えないけどさ。

 僕も、この中にいたのだろう。そうして、その中で、何をしていたのだろう? 僕は何を忘れたのだろう?

 

 突然、僕の中に何かが生まれた。それを、物凄く、吐き出したい。物凄く、泣き出したい。

 

 寂しい。悲しい。僕もいたはずなのに、何も知らない。何も言えない。記憶が共有出来ない。記憶喪失になったことが、こんなに悔しい。

 

「ん? どうした、立石?」

 木村さんが、僕の妙な様子に気が付く。今の今まで僕のことなどお構い無しのようだったのに。そう。木村さんはよく気が付く人だった。何も興味が無いようで、その実、よく見ている。


「いえ、何でもないです」何とか、それだけ言う。木村さんに、そんな誤魔化しが通用するとは思えなかったが、今、僕が抱えたものを、吐き出すことも出来なかった。「ふーん、そうか」木村さんは、ただそう答えた。何だか申し訳なくて、(うつむ)くとまた声が降ってきた。「まあ、お前は分かっているから良いか。そこに、記憶の有無は関係無いからな」

 

 その言葉に、僕はまた泣きたくなった。いつも木村さんに助けられているのに、僕は何も返せない。借りばかりが、増えていく。

 

伊達(だて)(なげ)いていたな。ちっとも変わらんって。ま、立石がまともになったら、この班にはいられんか」笑いが混じり、どこか楽しそうに木村さんは言う。"だから大丈夫。"そう続く、それが木村さんなりの、(なぐさ)めの言葉なのだと思うのは、僕の思い込みなのか。それとも、頭の片隅に消えずに残る、記憶の(ゆえ)なのか。

 

 後者であったなら良いと、僕は思う。



お久し振りの水車堂です。懐かしいです。そして楽しいです。今回は木村さんと八巻君がメインですが、この二人もまた楽しい。木村さんのような性格、気に入っています。誰に対してもそうですが、班の人たちには特にそう。

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