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17.七海さんの策略

「それで、どうなんだ?」七海(ななみ)さんは、その問いに苦笑します。「何が?」

吉乃(よしの)さんはジロッと七海さんを睨み、敢えて口に出します。「彼女だよ。立石(たていし)君の。相変わらず言い寄っているんだろ。そんなこと言ってたぞ」


「………」うちの班員達は。普通そんなこと人の女房に言うかね。一番、知らせてはならない相手だということは判るだろうに。


「別に、まだ、会ったことは無いぞ。……彼女には」

「……」何とか答えると、苦しい言い逃れみたいになってしまったことは、七海さん本人も判っています。吉乃さんは妙な間を置いた後、ため息を深くついて、一言呟きました。

「どうせ、どっちにしてもいずれは会うんだろ」

「…まあね」ここは認めるべきだな。


一応、長い付き合いの夫婦です。互いの考えは口に出さなくても、何となく判ってしまいます。ーーそれは吉乃さんにしても同じこと。

七海さんの言動に長い間、隣で接して来た、吉乃さんです。


ーー今ここで「泥棒石」を持ち出しても、きっと吉乃は驚かない。

その言葉一つで、全て気付いてしまうから。ーーだから言わない。全てが終わるまで。

何とか返事した七海さんに吉乃さんは、「全く」と呟いてその話題を打ち切りました。

その時、同時にため息をついたことに、お互いに気付いていました。



ーーここは、どこ?


目が覚めた僕が、一番最初に思ったのはそれだった。見覚えの無い天井。長い長い間、眠りについていたように、頭は重く身体はだるい。

やっと上半身を起こして、周囲を見渡した僕は、まるで世界中でたった独りになったような、酷い寂しさを覚えつつ、戸惑った。


ーーここは、本当に僕の部屋なのか?


無機質な病室よりも、下手すると他人行儀に感じてしまう自分の部屋。

(さむ)……」

特に何か夢を見た記憶も無いのに、まるで今も夢の中にいるような感じを引きずりながら、僕は寝室を出てダイニングの方へ向かう。そのダイニングすらも、自分の居場所という気がしなかった。昨日の七海さんの自宅の方が余程落ち着いた。


よっぽど七海さんがいきなり部屋に乱入して、本当はこっちだよ、といつもの嫌味な表情で騙されていた方が現実味がある。

ーーで、その時案内されるのは、こんな立派なマンションじゃなく、若干古ぼけたアパート的な…。



その時だった。突然、僕は立っていられないほどの眩暈(めまい)に襲われた。壁に思いっ切り背中を打ち付けて、その反動でしゃがみ込んでしまった。尚も前に態勢は崩れ続け、左手を床に叩き付けて、倒れ込もうとするのを何とか防ぐ。痛みも混じり、右手で胸を押さえ、呼吸困難になったみたいに荒い息を吐き続ける。目に入る綺麗な床も、今の僕には忌々しく、かといって、顔を上げる気力も無かった。そんな僕に出来ることは、せいぜい目を瞑り、何も見ずに、この苦難をやり過ごすことだった。


ーー下らないことを考えようとしていたから、罰でも当たったのかな…。


仰向けになり、天井を見上げながら自嘲する。七海さんの存在は自分自身が嫌になった時の八つ当たり的存在だった。

絶対、口に出しては言わないけどさ。



ーー何か音がしたような……。


首をひねるが、誰もいない部屋は恐ろしいほどの静寂が広がるだけだった。


気のせいか……いや、鳴った。再び鳴ったその機械音の正体は起き上がると、すぐに判った。

リビングの片隅にある受話器。誰かの訪問を知らせる音だった。


ーー一体、誰だ……。


今の今まで考えていた、あの小憎らしい顔を思い浮かべ、何とか身体(からだ)を起こす。そう言えばご褒美とか何とか言ってたな……。


ーーだから、全くもって無防備だった。「はい」

無防備に受話器を持ち上げ、映像を確認する。


「あの……(かず)()……さん」

「……」

「あの……」

想像していたものと雲泥の差の、自信無さげな呼び掛け。


「……お邪魔でしたか……? ごめんなさい、じゃあ……」

びっくりして声を出せない僕に遠慮して引き下がる気配に慌てて僕は声を上げる。

「ま、待って! ……伽凜(かりん)さん!」


慌てて僕はオートロックを「待って……とにかく……待って……ね」などと言いつつ四苦八苦しながら開ける。ーーとにかく引き止めなくては……。それ以外考えられなかったーー。


「ごめんね。まさか伽凜さんが来てくれると思わなかったから。びっくりしちゃって」

上がって、上がって、と彼女を家に上げながら、僕は必死に釈明する。すると彼女は首を傾げる。

「し、しかもこんな格好で。あはは」何しろ僕は寝起きのまま。一応裸ではないが、こんな古着なら、裸の方が良かったんじゃないか、という位、ダサいのだ。裸だって別に「見れる」身体ではないけどね。


「でも……あの、七海さんが……、和馬さんが待ってる、って……」

「へ?」

「退院翌日で、どうせ暇してるだろうからって」

その刹那、そう言っているあの憎たらしい表情が頭に浮かんでいた。

相変わらず、ずいぶん月日が経ってしまいました。吉乃さんの肝心な部分を入れそびれてしまっていたので、慌てて入れました。

ここで一旦出番は終わりですが、また出したいキャラクターです。

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