13.知らない情報
「ちょっと班長。立石の母親に何、話していたんです?」
「何でえ、見てたんかい」
一応班長の七海さんが頭を掻きながらつまらなそうに答えます。尋ねたのは実質的に副班長の立場にある新田さんです。
「見えたんですよ。また余計なこと言ってたんでしょう」高見さんがここぞとばかりに追随します。「いつものことじゃねえか」「立石先輩の秘密とかですか」
一方、全く悪気なく、本人は落ち込む(かも知れない)ことを言うのは、木村さんと八巻君。因みにこれは捕まえた――いつもは、帰って来て――七海さんに質問する伊達班いつものパターン。違うのはここで七海さんの代わりに愚痴兼報告をする和馬がいないぐらい。
「ま、どうせ立石をからかってたんでしょう」今日は七海さんから訊き出さなければいけません。
「信用ね~」「あるわけありません」
止まない新田さんと高見さんの攻撃に七海さんは溜め息をつきます。「ん~、なあお前ら、和馬って煙草いつ吸ってた?」
ここで諦めた七海さんに、話が逸らされたのではなく、質問(最早尋問)の答えだと悟れなければ七海さんの部下などやっていけません。
「煙草ならいつも吸ってたじゃねえか」
木村さんが、だから何だ、という調子――つまりいつもの調子――で言います。
「だーよねえ。あいつ、家じゃあ吸ってなかったんだってよ」
「え?」高見さんが首を捻ります。
「へえ。でも彼女は――国安さんは、先輩が吸うのを見た事あるって言ってましたよ」「何!?」 八巻君が言ったことに、七海さんが尋常じゃないほど食いつきます。といっても見慣れた光景なので誰も気にも留めません。
「それっていつだ!」「いつって、ついこの前ですけど……」ここで勘違いに気が付きました。「あ、ああいや……確か……先輩がご帰宅なさってすぐ後だと、伺いましたが」
「……いつの間に、んな情報を~~」
思い切り悔しがる七海さんに、高見さんは心の中で溜め息をつきました。――全く、本職より真剣なんだから……。
「たまたま高見さんといたら、国安さんにばったりと」八巻君一人、真面目に答えます。「その際に折角ですから、先輩の私生活について伺ってみたんです。ですよね」話を向けられた高見さんは「ええ」と頷き返します。
「ずるっ! 何でお前らが訊いてんの!?」
「っていうかそれ、立石が聞くことじゃない? まず」
「そういえば、そうですね……」新田さんの突っ込みに八巻君が苦笑いします。
「知ってるのか?」「俺は知らんぞ!」七海さんがむくれて、答えがどっちの意味か、分からなくなってしまっています。
「君たちは――立石はともかく――、よく知ってるねえ」七海さんのまともな応対は(最初から)諦めて、新田さんは八巻君達に問います。「高見さんが聞き出したんです。さすがです」「一応、私用の会話だったんだけど……」
一応、プライベートとしてなのに、警察官として褒められてるみたいで、高見さんの方は嬉しくないみたいです。「あ、いや、女性同士という意味です。さすがです」八巻君が慌ててフォローします。
「ええ、まあ……」伊達班、紅一点の女性であり、優秀な(まともな)刑事である高見さんとしては、素直な後輩の賛辞に怒るに怒れません。
「で! 何て言ってた?」
「帰宅する時に偶々話しかけてしまったって、慌てていたわね。私達は煙草吸っている時の立石に、話しかけないと言ったから」
和馬が吸うのは、考え事をしている時だと班の全員が知っています。カリンさんの方は知らなかったみたいですけど……。
「……」
「何だ、どうした?」
黙り込んだ七海さんに木村さんが尋ねます。容疑者相手の尋問だと、威力を発揮する口調です。因みに仕事用ではなく、日常的です。
「何ですか、大人しくなって」高見さんが珍しく怯んでいます。まだ若い(といえる範囲の)女性ながら男社会、犯罪者相手に堂々と渡り歩く高見さんですが、七海さんが黙るのは恐いみたいです。「気持ち悪いなあ……」
七海さん、ジロッと睨んで、「俺が大人しくなっちゃ変だというのか」「変です」即答です。何しろ、班で一番騒ぐのが七海さん。「何だと! 俺だって考えること位あるわい! くそーお前らよくも抜け駆けを!」
「……わざわざ大声で言うことでもないわよ」高見さんがため息混じりに呟きました。
――何てこった。
班員たちの後を、後ろからついて行く七海さんは、一人考え込みます。
――そういうことだったのか。だからあの人の連絡先が無かった。どこにも。無駄に真面目なあいつが、必要ないと思うほど――覚えていたのか、あるいは――捨ててしまったのかと、思った。――だが、最初から覚える必要が無かったとすれば、話は別だ。
この現代において、連絡先が必要ない相手。
――成程。
和馬は泥棒石の「全て」を調べ上げていた。
――あの馬鹿。
想像はつく。調べた。だが警察にとって、絶対に必要なものが欠けていた。「証拠」。それが無かった。
だからこそ――。
そして全てが起きた。
全てを調べた。調べ過ぎたのだ。
高見さんが女性だって感じが全然しません。もっと女性らしさを出したいと思っておりますが。次回はもう少し頑張ります。七海さんがボケに徹しちゃうと、誰でもこうなるんですかね。




