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職業無職の俺が冒険者を目指してみた。【書籍版:職業無職の俺が冒険者を目指すワケ。】  作者: スフレ
第一章――冒険者育成機関 『王立ユーピテル学院』
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迷宮の仕掛けを作った理由

 学院の玄関に入り、教室に向かおうとした時だった。


「マルス君、今朝も早いのですね」


 背後から声を掛けられ、俺は振り向くと、黒髪の森人(エルフ)――この学院の生徒会会長であるアリシアがいた。


「おはよう、先輩。今日も見回りか?」

「それもありますが、リフレ教官に呼ばれたので教官室に行っていました」


 もしかしたら、ここ数日の事件のあらましに付いて聞いていたのかもしれない。

 魔人のことを話せば、生徒達の混乱は予想される。

 生徒間の最低限の秩序を担う生徒会の会長であるアリシアには、先んじて事情を説明したのかもしれない。


「大変だったようですね」


 この様子ということは。

 ここ数日に起こった事件については聞かされているようだ。


(……そうだ、大変だったといえば)


 ふと、迷宮(ダンジョン)でのことを思い出した。


「なあ先輩、迷宮(ダンジョン)の中にあった魔法陣(トラップ)は何の為に用意しておいたものなんだ?」

「ふぇ――」


 口をぽっかりと開き、眼鏡(レンズ)の奥の目を丸くするアリシア。


「な、なな――」


 なな?


「なぜ!? ど、どうしてあなたがそれを知っているのですか!?」


 焦りだろうか?

 その声に動揺が走っているように感じた。

 今にも押し迫ってくるような勢いだ。


「どうしてって、昨日そこに閉じ込められたんだよ。

 魔術が使えない上に四方八方塞がれた状態でな」

「……き、昨日?」


 どうやら自分の作った魔法陣が、魔族に利用されたことまでは知らなかったようだ。


「先輩の作った魔法陣は、魔族に利用されたんだ。

 学院長が魔法陣(トラップ)を仕掛けたのは先輩だって言ってたんだが……」

「……魔族に……あの魔封じが……?」


 少しの逡巡の後、彼女は厳しい表情で目を細めた。

 あの魔法陣(トラップ)が意図せず利用されたのは間違いなさそうだ。


「学院長は、アリシアが罠(トラップ)を仕掛けた理由なんて瑣末なことだって言ってたんだが、目的はなんだったんだ?」

「そ、それは……」


 再び俺が聞くと、アリシアが口を閉ざしてしまった。

 普段は冷静な印象を与える彼女の眼差しが、右往左往と彷徨っている。


「言いたくないなら、無理して言わなくてもいいぞ?」

「……あの仕掛けで、危険な目にあったのですよね?」


 そんな言葉を返してくる。

 俺を見る目が非常に気まずそうだ。


「いや、危険はなかった。

 ただ閉じ込められただけだ」


 実際、怪我人は一人もいない。

 あのままあそこにいても、死ぬことはなかっただろう。


「だとしても、迷惑を掛けてしまったのは事実でしょうから、

 話さない訳にはいきません」


 悩み続けていたアリシアだったが。


「……あれは、万が一あなたと戦うことになった時の為に用意しました」


 俺から視線を外し、非常に言い辛そうに口を開いた。


「俺と戦う為にか?」

「た、戦う必要が出てしまった時の為です!

 好んであなたと戦おうなどと思っていませんから!」


 今度はしっかりと俺の目を見た。

 その言葉に嘘はなさそうだが。


「俺は先輩たちと戦うつもりなんてないぞ?」


 そのことは既に伝えてあるはずだが。


「……私は、他人の言葉をそのまま鵜呑みにすることはできません。

 万一、あなたと戦わなければならない事態が起こった時、真っ向勝負で勝ち目がない。

 だからこそ、あの仕掛けを用意しました」


 概要はこうだ。

 俺と戦う必要があった時、あの魔封じが仕掛けられた部屋にファルトの力で押し込む。 魔術がない状態であれば、俺の戦闘力が下がる。

 その状態であれば少なからず勝機がある。


 アリシアはそう考えたそうだ。


「……これは私が勝手にやったことです。

 他の生徒会メンバーは関係ありません。

 ファルトには無駄だと止められていますしね……」


 自嘲するような笑みを浮かべるアリシア。


「そっか。

 でも俺は、アリシア達と戦うつもりはないから、それは覚えておいてくれよ」


 それだけ伝えて教室に戻ろうとすると。


「――そ、それだけなのですか?」

「うん?」


 声を掛けられ振り返ると。


「他に言うことはないのですか?」


 聞かれて少し考えてみたが。


「いや、特には?」

「どうしてですか!

 私はあなたの不利益になるようなことをしたのですよ?

 それなのに、罰を与えるどころか責めることもしないのですか!」


 なぜか怒られてしまった。

 このままでは不満なのだろうか?


「先輩は、責められたり罰を与えられたいのか?」

「そ、そういうわけではないのですが……だ、だっておかしいではないですか」

「おかしいか?

 他人の言葉を無条件で信じる必要なんてないと思うが?

 万一のことを考えて準備しておいた、それだけことだろ?」


 今回は先輩自身が俺に手を出したわけじゃないしな。


「で、ですが、このままでは私自身が納得できないというか……」


 そう言って、言葉を詰まらせてしまった。


「なら、何か考えておくってことでどうだ?」

「な、何か?」


 アリシアは長い森人耳(エルフみみ)をピクッと震わせ狼狽えている。

 さらに自分の腕で全身を抱き、身を固くした。

 俺自身、無理強いをするつもりはないのだが。


「……わかりました。

 望んだ形ではないにせよ、先に約束を反故するようなことをしたのは私です。

 あなたが決めた罰であればどんなものでも受け入れましょう」


 なんだか重々しい物言いだ。

 一体俺がどんな罰を与えると思っているのだろうか?


「じゃあ、もし思いついたら言わせてもらうぞ」

「二言はありません。

 では、私は見回りもあるので今日はこれで失礼します」


 去っていくアリシアを見送り、俺は教室に向かった。

 教室の中には誰もいなかったが、次第に生徒達が集まり教室が喧々諤々としていく。

 それから暫くして授業開始の鐘が鳴り、ラーニアが教室に入ってきた。


「授業を行なう前に、緊急の伝達があるわ。

 今から全員、集会場(ホール)まで移動しなさい」


 赤髪の教官の一言で、教室中がざわめいた。


「詳しい話はそこでするから、今はさっさと移動する!」


 有無を言わさぬ強い語調を受け、生徒達は移動を開始した。

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