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職業無職の俺が冒険者を目指してみた。【書籍版:職業無職の俺が冒険者を目指すワケ。】  作者: スフレ
第一章――冒険者育成機関 『王立ユーピテル学院』
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迷宮からの脱出

「なんでって、おれがここにいるのは日課みたいなもんだ。

 前に言ったろ? 放課後は迷宮(ダンジョン)にいるって」

「前に?」


 記憶を掘り返していると。


「……もしかしてここが、三年が授業で探索するっていう迷宮(ダンジョン)なんじゃねえか?」


 セイルに言われたことで、俺は数日前に宿舎の食堂でしたファルトとの会話を思い出していた。

 三年になると、学院内にある迷宮(ダンジョン)を探索する授業があるとか言っていたが。


「ここがその迷宮(ダンジョン)なのか?」

「おいおい、知っててここにいるんじゃないのか?

 ラーニア教官がいるってことは探索の許可は出されてるんだろ?」


 俺に向けられた言葉だったと思うが、ファルトの視線はラーニアに向いていた。


「ここって、三年が授業で使ってる迷宮(ダンジョン)なの?」


 赤い長髪をさらりと揺らし首を傾げるラーニアに。


「なんで教官がそれを知らないんですか!」


 長く白い耳をピンッと立てながら、ラフィが激しく物申した。


「三年の迷宮(ダンジョン)探索の授業はクラスの担当教官の仕事なのよ。

 あたしはまだ三年を担当したことがないから、ここに来たことはないわ」


 スラスラと回答を述べ。


「でも、ここが学院の迷宮(ダンジョン)なら帰るのも楽そうじゃない。

 ファルト、出口はわかるんでしょ?」


 ラーニアがファルトに確認を取った。


「勿論」

「なら直ぐに案内しなさい。

 今は緊急事態だから一刻も早くね」


 まだファルトに現在の状況を話してはいないのだが。


「了解しました。

 詳しい事情は戻りながら聞かせてもらえますか?」

「他言無用と約束できるならね」


 そうして俺達はファルトの案内のもと、灯火に照らされた迷宮(ダンジョン)の中を進んだ。

 ファルトには、詳細は避けつつも学院を狙う何者かの罠で、ここまで転移(テレポート)させられたことを話した。


「そんな命知らずがいるとは」

「全くね」


 ファルトと並ぶようにして歩くラーニア。

 俺達三人はその後ろに続いていく。


「相手の目星は?」

「……付いていないわ。

 でも、ここが学院の管理する迷宮ダンジョンであるなら、

 この学院を狙った犯人は判明したも同然よ」

「え……どういうことですか?」


 その発言に目を丸めたのはコゼットだった。

 思わずといった様子でその場で立ち止まっている。

 だが、その言葉を意外に思ったのは俺も同じだ。


「そう言い切る理由は?」


 俺が聞くと、ラーニアは振り返り足を止めた。


「『学院の敷地内』で起こったことなら、学院長は全てを把握している。

 休日の一件は、学院の外で起こったことだから相手を確定できなかったけど、

 ここが学院の敷地内なら、誰があの出入り口を塞いだ部屋を作り魔封じを施したかということも把握しているはずよ」


 学院長の力で敷地内の出来事はある程度把握できる。

 それが事実だとして。


「だとしたら、学院長はあの仕掛けに気付いていて放置していたということですか?」

「そういうことになるわね」

「学院長が敵だなんてことはねえよな?」


 これは勿論、セイルなりの冗談だ。

 その証拠にニヤッとした笑みを浮かべている。


「あの人は遊び好きではあるけど、

 この学院の教官や生徒を苦しめるような真似はしないわよ」


 もう死者が出ているのだ。

 遊びで済むはずがない。

 そもそも学院長に俺達を襲う理由がないのだから、その意見は論外だろう。


「私の考えでは、仕掛けが残っていた理由は二つ。

 一つはあの仕掛けを用意したのが生徒だったから。

 その意図をはかる為に学院長は放置した」


 その生徒の目的は何かわからないが、そう仮定するとして。


「学院長がこの状況を知っているなら、誰かがもう救助に動いてるんじゃないか?」

「そうね。

 その場合は、もう動いていると思うわ。

 迷宮(ダンジョン)の途中で顔を合わせるんじゃないかしら?」


 既に脱出できてしまったので、救助の意味は薄いがそれは言っても仕方のないことだろう。


「もう一つの理由というのは?」


 一つ目の理由を聞き終えたところで、ラフィが尋ねた。


「この場所が学院の敷地外だった場合ね。

 それなら何をしていようと悟られはしない」


 ラーニアの瞳が、彼女の隣で佇むファルトを捉えていた。


「おれが嘘を言っていると?」


 自分に疑いの目が向いたにも関わらず、ファルトは飄々としていた。


「可能性の話よ。

 さ、いつまでも立ち惚けていられないわ」


 調子のいいことを言って、ラーニアはファルトの肩をポンポンと叩くと、

 再び赤髪を(なび)かせながら歩き出した。

 一人先を歩く教官の姿を見ながら、ファルトはやれやれといった様子で苦笑していた。


「教官、道がわからないんだから、先行しないでくださいよ」


 その背中をファルトが追い、俺達も再び歩き出した。

 迷宮(ダンジョン)という割には、魔物(モンスター)が現れることはない。


「も、魔物(モンスター)とか、出ないんでしょうか?」


 全く何も起こらないことを、半森人(ハーフエルフ)の少女も不安に思ったようだ。


「このフロアの魔物(モンスター)は、だいたい倒しきっちまったみたいだ」


 なんてことないように答えるファルトだったが、それを聞きコゼットは緊張が解けたようだった。

 枝のように様々別れている通路もファルトは迷わず進んでいく。

 暫く進み。


「そろそろ階段が見えるぞ」


 その言葉通り階段が見えた。


「ラーニアちゃ~ん! わたしの愛しのラーニアちゃんはどこ~」


 階段の上から、間延びした暢気な声がラーニアの名を呼んでいる。


「救助が来てくれたみたいですね」

「は、はい!」


 ラフィとコゼットが手を取り喜び合っている。


「おれの無実も、これで証明されましたか?」

「そうね」


 救助が来たということは、ここが学院の敷地内だと証明された。

 そういうことになる。


 階段から、ドタバタと急ぎ足で下りてくる音が聞こえ。


「あ、はっけ~ん!」


 魔女帽に黒いローブと、ピンクの縦ロールが特徴的な、小柄な少女が姿を見せた。

 正確にはラーニアより年上らしいので、リフレは少女ではないのだが、そう形容しても差し支えのない容姿をしている。


「よりによって、何であんたが来たのよ?」

「あ~、ひど~い! 親友にそんなこと言うなんて~!

 お詫びにその豊かな双丘を揉ませてもらうんだからっ!」


 リフレは怪しく指をわしわしと動かして、ラーニアに迫っていった。


「今は遊んでる暇なんてないでしょうが!

 さっさと学院に戻るわよ!」

「も~、ただの冗談だよ~」


 緊急事態とは思えない緊張感のない声が迷宮ダンジョン内に響いた。

 そして俺達はラーニアとリフレを先頭に階段を上って行く。


「じゃあみんな~、わたしに着いてきてね!

 迷宮ダンジョンの入り口まで直ぐに移動しちゃうよ!」


 どこかに遊びにでも行くみたいに、魔女帽を被った少女は軽やかな足取りで進んでいくのだが。


「リフレ教官、道間違ってますが」


 ファルトが注意を促した。


「え~、ファルトくん、わたしに嘘を吐いてるんじゃないの?」

「本当なんですが」


 しかも一度や二度ではなく度々なのだ。


「あんたもう下がってなさい!

 ファルト、案内をお願い」


 救助に来た教官自身が道に迷ってるって。

 俺も含め、リフレに冷たい視線が集まっていく。


「そんなに見つめちゃダメだよ~!

 わたしは~、ラーニアちゃんのものなんだから!」


 これほど前向きな人は早々いないのではないだろうか?

 だが、残念なことに救助に駆けつけてくれた意味はほとんどなく、俺達はファルトを先頭に迷宮ダンジョンを脱出した。


 外から迷宮ダンジョンの入り口を見ると、洞穴のようになっていた。


「はぁ……やっと戻ってこれました」

「そうですね。

 でも、ここはどこなんでしょうか?」


 見たことがない場所に出た。


「わたしがその質問に答えましょう!

 この迷宮ダンジョンは~、校舎裏の先にある坂を下った場所にあるんだよ~」


 リフレが説明してくれた。


迷宮ダンジョンなんて三年になれば入ることになるんだから、今気にしなくてもいいわよ。

 それよりリフレ、あたしらが飛ばされてからの学院の状況は?」

「え~と、地下から爆発音が聞こえて、それで教官数人で地下に下りたの。

 そしたらびっくり! 誰もいなくなっちゃってて~」

「あたし達が迷宮ダンジョンに飛ばされたことを知らせたのは、学院長なのよね?」

「そだよ~。

 ラーニアちゃんが心配過ぎて~、わたしは思わず救助に向かってました!

 後さラーニアちゃん、大事なことを聞き忘れてたんだけど、スミナ教官は一緒に飛ばされてたんじゃないの?」

「……いえ。

 地下牢に死体が残ってるのかと思ったのだけど?」

「死体? 牢は閉まったままだったけど~、死体どころか何もなかったよ~?」

「……そう。

 取り合えず、確認したいこともあるしあたしは学院長室に向かうわ。

 疲れもあるでしょうし、あんた達は宿舎に戻ってもいいわよ。

 詳しい話は後日必ず伝えるわ」


 ラーニアが言った直後だった。


「その必要はないぞ」


 転移テレポートしてきたのだろう。

 突然、俺達の前に学院長が現れたのだった。

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