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職業無職の俺が冒険者を目指してみた。【書籍版:職業無職の俺が冒険者を目指すワケ。】  作者: スフレ
第一章――冒険者育成機関 『王立ユーピテル学院』
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犯人

 教官室の扉を開くと直ぐに。


「来たわね」


 椅子に座っていたラーニアが振り向いた。

 すると、教官達の視線が俺に集まる。

 室内にいる人物はラーニアも含めて六人。


 ラーニアの正面の席に座っているのは、闇森人ダークエルフの女性リスティー。

 清楚な黒の礼服を着ているが、男を引き付けるような妖艶な微笑みと、組んでいる腕で胸を押し上ているその挑発的な仕草が不均衡な様が印象的だ。

 まだ一度も彼女の授業を受けたことはないが、選択授業の錬金魔術を担当しているという話は聞いている。


 ラーニアの左隣の席にいるのは、森人エルフで魔術学や魔術訓練でも顔を合わせているシーリス。

 授業中もそうだが、この教官は常に不機嫌そうな難しい表情をしている。

 魔術師らしい緑のローブを纏っているが、その上からでもわかるほど体躯は細い。

 男にしては長髪で肩よりも下まで金色の髪が伸びている。

 物語で登場する森人エルフらしい森人エルフだ。


 シーリスの正面の席は、教会の修道女シスター件、治癒魔術の授業を担当するユミナが座っていた。

 教会で祈る姿はまるで聖母のようで、笑顔を絶やさぬその姿は慈しみに溢れている。

 しかし、そんな彼女の表情も今は暗い。


 そのユミナの隣の席に腰を下ろしているのは、鍛冶の授業を担当しているという鍛冶人ドワーフの教官。

 名前は確か……ドドルカだったか?

 鍛冶人ドワーフらしく、腕など筋骨隆々で赤ん坊の身体より太いんじゃないだろうか? 全身がっしりとしていて、その姿は巌を連想させる。

 肩から皮の鎧を掛けているが、装備など不要に思えるほどだ。

 ちょっとやそっとの攻撃など、その肉体に弾き返されてしまうだろう。

 もっさりとした白い髭を蓄えているのがまた鍛冶人ドワーフらしかった。


 この辺りは一度見たことがある、話したことがある教官だった。

 だが、今日は初めて顔を見た者が二人。

 一人は魔女のような格好をした少女で、ラーニアの傍に立っている。

 この学院の生徒だろうか?

 ニコニコとした笑みを浮かべて興味深そうに俺を見ている。


「あ~、この子がラーニアちゃんが連れてきたって言う編入生かぁ~」


 間延びした声でその少女が言った。


(……ラーニアちゃん?)


 激しい違和感に襲われた。

 見た目はこの学院の生徒としても幼いくらいの少女が、親しそうに赤髪の教官の名を呼んだからだ。


「マルス、意外かもしれないけど、この女もこの学院の教官の一人よ」

「三年Aクラスの担任をしてる、リフレ・ロアで~す! 宜しくね、マルス君!」


 この少女が教官の一人?

 いったい何歳なんだろうか?

 森人エルフであれば見た目で年齢を図ることはできないが、見たところ人間ニューマンで間違いなさそうだ。

 見た目で言うなら相当若そうだが。


「ちなみにこの女はあたしより年上だからね」

「あ~ラーニアちゃん! なんで歳の話をするのぉ!」


 リフレはポカポカと両手でラーニアの胸の辺りを叩いていた。

 どうやら抗議の意を示しているようだ。


 だが、この十代前半にしか見えない少女が二十代とは。

 見た目で年齢はわからないものだ。

 それとも、何か特殊な力によるもの……というのは考え過ぎか。


「ラーニア教官、リフレ教官、そろそろ用件を済ませたらどうでしょうか?」


 森人エルフの教官、シーリスの隣に座る男が口を開いた。

 一見、好青年で優しそうな男だ。

 この男も今日初めて顔を会わせた。


「も~、ロニ君は真面目だねぇ~」


 この年齢不詳の教官は誰に対してもフレンドリーに接するようで、ロニと呼ばれた好青年は苦笑してみせた。


「あんたが不真面目過ぎるのよ」


 リフレの言葉にラーニアは突っ込みを入れた後。


「ロニファス教官の言う通りね。

 さっさと用件を話しましょう」


 ラーニアは再び俺に目を向けた。


「昨日の一件についてだけど、あんた達を襲った犯人が判明したわ」」


 その話だとは思っていた。

 だが、犯人を突き止めているとは予想外だった。


「で、その犯人は?」

「スミナ・クロット」


 意外な人物の名前が出た。

 薬学の担当教官のスミナが犯人?

 あの人の良さそうな優しそうな小人族ホビットが?

 信じがたいが、ここにいる者達の沈痛な面持ちが、ラーニアの発言に嘘がないことを物語っていた。

 何より、今スミナはこの場にいないのだ。


「何か証拠はあったのか?」

「何もないわ」

「じゃあ、なぜ犯人だと?」

「本人が認めたのよ、自白したの」


 証拠も出ていないのに自白?


「信じたのか?」

「そんなわけないでしょ。

 スミナが生徒を襲う理由があるとは思えないもの。

 それに、嘘なんていくらでも言える。

 最悪、拷問をしてでも無理に吐かせることになるかもしれないわね」


 真実を話すまでか。


「それで、その話をする為に俺を?」

「ここまでは現状報告よ。

 今の話を踏まえた上で、昨日の依頼クエストに関わった生徒でスミナから直接話が聞きたい生徒がいれば、放課後に教官室まできなさい」


 なぜ俺達を? と思ったが。

 本当にスミナが犯人なのだとしたら、自分達の目と耳で事実を確認するのは当然のことか。


「わかった。

 昨日のメンバーには俺から伝えておけばいいんだな?」

「ええ」


 俺の問いにラーニアは首肯した。

 それを確認して、俺は教官室を出るのだった。


 鐘はまだ鳴っていないが、昼休憩はそろそろ終わるだろうか?

 同じクラスのラフィ達はともかく、コゼットには先に話を伝えておきたい。

 恐らくあの半森人ハーフエルフの少女は中庭にいるはずだ。

 そう考えて俺は足を進めていく。

 すると予想は的中した。

 中庭には身体を揺らしながら楽しそうに花壇の世話を焼くコゼットがいた。

 右肩にはプルが乗っている。

 近付くと、どうやら飼い主よりも先に俺の存在に気付いたようで、プルはコゼットの耳元で何かを言った。


「え? マルス先輩が?」


 独り言のようにコゼットは呟いた。

 そしてこちらに振り向くと。


「マルス先輩、こ、こんにちはです」


 軽く会釈をしてきた。


「おう、コゼット今ちょっと話せるか?」

「は、はい。

 見ての通り、花壇の世話をしていただけなので」


 それを聞いて、俺は周囲を確認した。

 ベンチに座っている生徒が数人いるが、人気はそれほどない。

 ここでなら話してもいいだろう。

 俺はコゼットに耳打ちするように顔を近づけ。


「え――だ、ダメですマルス先輩!」


 コゼットは俺の胸元を両手で押して突き放そうとした。

 何を動揺しているのか、湯気が上がりそうなほど顔を紅潮させていた。


「わ、わたしは、ラフィ先輩と約束しているんです。

 ま、マルスさんに悪い虫が付かないようにって!

 な、なのに、わたしがそんな悪い虫になるわけには……!」


 本当に湯気が上がりそうだ。

 赤い顔がさらに赤くなっていく。


「俺はただ、昨日の話の続きをしようとしただけなんだが?」

「……え……あ、だから耳元に……」


 声を荒げてしていい話ではないと、暴走しかけていた半森人ハーフエルフ少女も理解してくれたようだ。

 そしてもう一度俺は彼女の耳元に口を寄せ。


「俺達を襲った犯人が判明した」


 伝えると、コゼットの肩がビクッと震えたのがわかった。

 スミナが犯人であったこと、自白したことを伝えると。


「そんな……。

 信じられません」


 距離が近いからこそ聞こえたが、消えそうな声だった。

 真っ赤だった顔色が真っ青になり、動揺を露にしている。


「本人が自白したらしい」

「自白……? な、何か事情があったんでしょうか?」


 なんの事情もなしに魔物モンスターで俺達を襲わせたのなら、ただの快楽殺人者ということになるが。


「もし本人から事情が聞きたいなら、放課後教官室まで来てくれれば話をさせてくれるそうだ。

 俺は行くつもりなんだが、コゼットはどうする?」


 気になることがあるなら本人に聞くべきだろう。


「……わかりました。

 必ず行きます」


 逡巡するような間があったが、コゼットは行くことに決めようだ。


「じゃあ、確かに伝えたからな」

「は、はい! マルス先輩、ありがとうございます」


 用件を終えた俺は、コゼットに別れを告げ教室に戻った。

 すると丁度、昼休みの終わりを告げる鐘の音が鳴った。

 

 午後の授業を担当する修道女シスターユミナは、いつも通り授業を務めようとしていたが、やはりどこか表情が曇っているように感じた。

 治癒魔術の授業が終わり、授業の合間の小休憩の時間に、俺はラフィとセイルに声を掛けて教室の外に出た。

 そして、二人にもスミナが犯人であったこと。

 放課後に、本人と話す機会を与えられているということを伝えた。


「意外な名前が出てきましたね」


 ラフィが周囲に人がいないのを確認しながら、呟くように言った。


「……何かの間違いじゃねえのか?」


 俺はスミナという人物についてほとんど知っていることはないが、全員が似たような反応を返していることが気になった。

 俺自身、少し話した印象で言うなら、スミナが生徒を傷付けるような真似をするとは思えない。

 見るからに優しそうで、小さな見た目とは裏腹に不思議と女性らしい包容力のようなものを感じさせる小人。


「俺は放課後教官室に行くが、二人は?」

「ラフィは行こうと思います」

「オレもだ。

 疑うわけじゃねえが、自分の耳で話を聞かねえと気分がわりぃ」

「なら、放課後にな」


 こうして、全員の意思が決定した。


 席に戻ると、エリーがじ~っと俺に目を向けて。


「三人で秘密の話?」

「ん? 秘密……の話かな?」


 あまり公にするような話ではないのは確かだ。


「……そうなんだ」


 エリーの口調はどこかいつもと違った。

 寂しそうというか、拗ねているというのか。

 はっ!? もしかして、昨日依頼クエストに誘わなかったことを怒っているのだろうか?

 俺としては、エリーの身に危険が及ばなかったことを喜びたいくらいだが。

 詳しい事情を知らないエリーからすると、そうは思っていないのかもしれない。


「エリーは依頼クエストを受けたいのか?」

「え……?

 いや、そんなことはないけど」

「もし受けてみたいなら、俺も手伝うから言ってくれ。

 どんな依頼クエストでも、一人でやる必要はないぞ」


 どんな危険があるかわからないからな。

 俺は真剣な思いを伝えたつもりだが。


「――ふふっ、わかった。

 その時はマルスに手伝いを頼むね」


 何がおかしかったのかはわからないが、エリーの表情が晴れてくれたので安心した。

 だが依頼クエストはどうしても必要でなければ暫くは避けたほうがいいかもしれないな。

 そうだ、依頼クエストを受けるくらいなら。


「なぁエリー、今度の休日に委員会コミュニティの活動に参加してみないか?

 戦闘バトル委員会コミュニティとかどうだろう?」

戦闘バトル委員会コミュニティなら、今日の放課後に顔を出してみようと思ってるんだけど」

「今日か……。

 時間があれば行きたかったが……」


 放課後は予定が埋まっている。


「用事があるんだよね?

 なら、無理はしないで。

 私は、マルスが私のことを、気にしてくれただけで十分嬉しいから」

「……すまん。

 だが、もし俺に言いたいことがあるなら、遠慮せず言ってくれよ。

 察してやれないことも多いと思うからな」


 さっきのエリーの様子が気になって、俺はこんなことを口にしていた。


「今でも、遠慮してるつもりはないよ。

 言いたいことがあれば、ちゃんと言うから」


 そう言って、エリーは微笑を浮かべてくれた。

 俺は彼女のその様子を見てほっとして。

 次の授業が始まるまでの短い時間を、エリーと談笑をしながら過ごすのだった。

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