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職業無職の俺が冒険者を目指してみた。【書籍版:職業無職の俺が冒険者を目指すワケ。】  作者: スフレ
第一章――冒険者育成機関 『王立ユーピテル学院』
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四人で夕食②

「そういえばさ、ファルト先輩」


 食事中、ふと疑問が浮かび口を開いた。


「なんだ?」


 ファルトは食事する手を止め俺を見る。


「いつもは、何時くらいに食堂にいるんだ?」


 ここに来てからまだ数日とはいえ、食堂でファルトを見かけたことは一度もない。

 多くの生徒がいるこの宿舎なら、たった数日顔を合わせないということもあるのだろうから不思議ではないが……。


「そういえば、僕もほとんどファルト先輩とは食事をしたことがありません」


 オレの言葉に同意するようにカネドが言った。

 まだ一年とはいえ、俺よりもファルトとの付き合いが長いこの後輩も、ファルトとほとんど食事をしたことがないらしい。

 だが、流石に二年のセイルなら、謎に塗れたこの男と食堂で顔を合わせたことくらいあるんじゃないか?

 そう思い視線を隣の狼人に向けると、


「……オレも、この宿舎でファルト先輩を見たことはほとんどねえぞ?」


 なんだと?

 当代最強として、この学院で存在が知れ渡っているはずのファルトだが、実は得体の知れない存在なのだろうか?


「もしやファルト先輩は、飯を食わなくても生きていけるのか?

 そういった類の魔術があるっていうのを俺の師匠ししょうに聞いたことがあるんだが」


 しかし、その呪いは食事で栄養を補給するのではなく、周囲にいる者の生命力を吸収するという危険なものだ。

 この男がそんな危険行為に手を染めるだろうか?

 ファルトは強さを求めてはいるだろうが、その為になんでもするといった類の人間ではない気がする。


「おいおい、人を化物でも見るみたいに見るんじゃない。

 普段はここに戻らず、迷宮ダンジョンを探索してるんだ。

 言っておくが、授業には出てるからな!」


 迷宮ダンジョン


「学校の外に出てるってことか?」


 この辺りに迷宮ダンジョンがあるというなら、挑んでみるのも面白そうだ。

 ここに来てから魔物モンスターと戦っていないし、久しぶりに腕試しをするのも悪くない。


「お前は編入してきたばかりだから知らないのか。

 この学院が管理する迷宮ダンジョンがあるんだよ」


 学院の中に迷宮ダンジョン

 どういうことだ?


「三年になると、迷宮ダンジョン探索の授業があるんだ」


 俺の疑問に、セイルが答えてくれた。


「本来は数人でパーティーを組んで挑むんだが、

 おれは訓練がてら放課後になると一人で探索をしてるんだ。

 だから、夕食はここでは食わないことが多い」

「一人で迷宮ダンジョンに入るなんて……」


 なんとも言いがたい表情でカネドは言った。

 だが、それなら俺がファルトに気付かなかったのも当然か。


「それは誰でも入れるのか?」

「三年ならな。

 お前なら許可が下りそうだが……」


 どんな魔物モンスターがいるのだろうか?

 ここの生徒が戦うレベルであれば、それほど強力な魔物モンスターがいるわけではないのだろうけど。


「今度ラーニア教官辺りに聞いてたらどうだ?

 それで、もし許可が出たならおれに付き合えよ」


 本来三年しか許可が出ないなら、あのラーニアが許可を出してくれるわけがないと思うが。

 機会があったら聞くだけ聞いてみるかな。


「そうだな。

 もし一緒に行けるようなら」


 ファルトの力も見てみたいしな。


「……なあマルス、俺からも聞いていいか?」


 少しの間の後、ファルトがそんなことを言った。

 表情が少しだけ引き締まった気がする。


「なんだ?」

「……さっき、師匠って言ってたけど、お前はその人から戦いの指南を受けたのか?」


 なんだ。

 そんなことか。


「そうだ。

 でも、戦いのことだけじゃない。

 師匠アイネからは色々なことを教わった」


 生き抜く為のすべを俺は彼女から学んだのだ。

 もし師匠アイネがいなければ、俺はとっくに死んでいた。


「……アイネ。それが名前なのか?」

「ああ。アイネ・ルイーナだ」

「ルイーナ?」


 話を聞いていたセイルが、疑問を口にした。

 苗字セカンドネームが俺と同じだったことが気になったのだろう。


「俺の名付けの親で、育ての親でもあるんだ。

 俺は、ガキの頃の記憶がないからな。

 でも、物心付く頃にはアイネは俺の傍にいた」


 出会ったときのことは、今でも鮮明に思い出せる。


「……その人を、紹介してもらうことはできないか?」


 普段の飄々とした様子が嘘のように、神妙な顔に変わったファルト。

 だが、


「それはできない

 本当はみんなを紹介したいくらいなんだが、もう他界してるからな」


 今の俺を見たら、師匠アイネはなんて言うだろうか。


「……そうか。

 そりゃ……仕方ないよな。

 悪いな、こんな場所で聞く話でもなかった」


 ファルトは俺に頭を下げた。


「……いや、こんな話する機会、中々ないからな。

 忘れられないように、話だけでもしてやりたい」


 俺は師匠アイネのことを忘れない。

 でも、俺以外の人にだって師匠アイネのことを覚えていて欲しいから。


「……マルスの師匠か。なんだか想像が付かねえな」


 難しい顔をしているセイル。

 そのせいか、人相の悪さが引き立っていた。


「マルス先輩は、子供の頃から戦闘訓練を?」


 今度は小人族のカネドに聞かれた。


「訓練というか意識はなかったがな」


 今思うと、訓練というには危険度が高かった気がする。

 そう思ったのはここで訓練を受けたせいもあるのだが。


「ネネア先輩が一瞬でやられた時は驚きましたが、

 やはり厳しい訓練の賜物だったんですね!」


 キラキラとした眼差しを向ける純粋な小人族の少年。

 俺はそんな尊敬の目で見られるような男じゃないだが。

 それを口にするのはなんだかはばかられた。


「なっ――お前、ネネアさんと戦ったのか?」


 驚愕するセイルを見て、カネドはしまったと口を抑えた。


「今日生徒会室に行ったんだ。

 その時にちょっとな。

 でも、決着は着かなかった」


 嘘ではない。

 途中であの猫人ウェアカッツェはファルトに助けられてる。


 まあ、詳しい事情はここで話す必要はないだろう。

 誰が聞いているかもわからんしな。


「……だからファルト先輩たちとも知り合いになったのか」


 合点がいったようにセイルは口にした。

 そして、狼人は厳しい瞳をファルトに向けた。


「おいおいセイル。

 言っておくが、おれはここで何かしようなんて考えちゃいないからな」

「……す、すいません」


 そんなつもりはなかったのだろうが、セイル自身も俺を心配してくれたのだろう。

 まさかここで俺とファルトが戦うんじゃないか?

 セイルはそう考えたはずだ。


「これはあくまで、おれたちがマルスと交流を深めるためのもんだよ」


 ファルトはセイルにそんな説明をした。


「……うす」


 言ってセイルは軽く会釈をした。

 それからファルトは俺を見て、


「そうだマルス!

 お前、友達が欲しいって言ってたよな?」

「ああ」


 そうだ。

 俺はさっき言いかけた言葉があった。

 この流れであれば、


「なあファルトせ――」

「カネドと友達になるってのはどうだ?」


 ……うん?

 なんだって?


「え、えええええええええええええええええええ――!?」


 いきなり話を振られたせいもあるのだろう。

 小人族の少年がその小さな見た目に似合わない絶叫を上げた。


「……いや、当然俺は構わないが……?」


 まだ知り合ったばかりだが、カネドも悪いヤツではなさそうだしな。

 しかし、俺が今一番友達になりたいのは、


「勿論、カネドもいいだろ?」

「い、いや、それは、もし僕がマルス先輩の友人になれるというなら光栄ですが、でも、僕なんてまだまだで……」


 右往左往と落ち着きがなく視線をさまよわせるカネド。

 そんなカネドを見かねてか、


「まだまだだと思うなら、マルスに色々勉強させてもらえよ。

 それに、お前は生徒会おれたち以外に親しいヤツもいないんだろ?

 もし、おれたちが卒業したらどうするんだ?」


 ニヤッと微笑みを浮かべながら、ファルトは小人族の少年の髪をもしゃもしゃと撫で付けた。

 カネドはイヤそうに口をへの字にしていた。


「ま、マルス先輩は本当にいいんですか?」

「ああ、断る理由はな――」


 ……いや、待て。


「一つ条件を付けさせてくれ。

 俺の友達になるなら、もっと楽に構えてくれ。

 それができるなら、俺達は今日から友達だ」


 俺は手を差し伸べた。

 握手だ。

 エリーと初めて友人になった時と同じだ。

 あの時は、エリーの方から手を差し伸べてくれたんだが。


 差し出した手を見て、カネドは何度か深呼吸をした。

 気持ちを落ち着かせているようだ。


「……はい。わかりました。

 今日から宜しくお願いします!」


 カネドは俺の手を握った。

 この学院に来て、初めて学年が下の友達ができた。

 それは非常に喜ばしいことだが、一つ気になることがある。

 先程から、ファルトは頑なに俺と友人になるのを避けようとしている気がするのだ。


 疑惑の目をファルトに向けるが、


「二人とも良かったな。友達ってのはいいもんだからな。

 勿論、付き合っていく上で相手のいいとこ悪いとこが見えてくる。

 それでも、そいつとは一生付き合っていきたいと思えたなら、絶対にそいつらのことを裏切るんじゃないぞ?

 そうしたら、相手もきっと答えてくれる。

 そんな考えは甘いって思うヤツもいるかもしれないが、それが親友を作る秘訣だ」


 当のファルトはそんなことに全く気付いていないようで、友人の重要性を語っていた。

 親友というのは、友達の上位という認識でいいんだよな?

 俺はエリーやラフィ、セイルやカネドとさらに親しくなることはできるだろうか?

 ファルトに言われ、そんな考えが脳裏を過ぎった。

 それと同時に、俺は師匠アイネの言葉を思い出していた。

 友達を守れと言ったアイネ。

 友達を裏切るなと言ったファルト。


 二人の言葉はどこか通じるものがある気がする。


「……ファルトには、親友がいるのか?」


 気になって、俺はそんな言葉を口に出していた。


「ああ。

 アリシアとあの馬鹿猫は、おれにとっての親友だ。

 ま、二人がどう思ってるかはわからないけどな」


 ファルトは苦笑して、


「……だから、もし二人に危害が加わるようなことがあれば、

 相手が誰だろうと、おれが守ってみせるさ」


 飄々とした態度をとっていても、隠し切れないように顔を出すファルトの強靭な意志を感じた。

 実際、ファルトは俺に戦いを挑んできたネネアを助けたわけだしな。


『友達が出来たら命を懸けて守れ』

『そうすれば、友達そいつらもきっと自分おまえを守ってくれるから』


 過去に師匠アイネに言われたこと。

 ファルトの言っていることは、師匠アイネが言っていたことと似ている。


「ファルト先輩とは、気が合うと思うんだよな」

「おれも、マルスみたいな強いヤツは好きだぞ」


 この男を見ていれば、今よりもっと友達について解るかもしれない。

 そんな風に思った。

 だからこそ俺はファルトと、


「なあファルト先輩、俺と友達になってくれ」


 言った。

 何度か言おうとして、機会を逃していたがやっと言えた。

 なのに、


「いいぞ――と言いたいところなんだが」


 ファルトはこちらを期待させておきながら、


「すまん、無理だ」


 拒否された。

 俺が生徒会に所属していないからだろうか?

 その為、俺と戦う可能性も考慮しているのかもしれない。


「俺が生徒会に入ると言ったら?」


 試しに聞いてみる。


「……正直言うと、生徒会に入るかどうかはさして重要じゃない」


 そんなことを言われた。

 続けて、


「もしお前がアリシアとネネアの二人と友達になることができたなら、

 その時はおれもお前の友達にならせてくれ」


 そんな条件を出してきた。


「んじゃ、おれは一足先に行くわ」


 ファルトは俺達を置いて、食堂を去って行った。

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