購買部
スキンヘッド。
右目に傷。
筋骨隆々の肉体。
酒場の店主のような厳ついおっさんに、今俺は睨まれている。
どうしてこうなったのか?
そう問われたら、セイルのせいだと俺は言ってしまうかもしれない。
授業は終わり、既に放課後になっていた。
現在、俺達は二階にある購買部まで制服を買いに来ていた。
視線の先で俺を睨むおっさんは、信じられないことにここの店主らしい。
ちなみにここに来たメンバーは、俺、セイル、ルーシィ、ルーフィの四人だ。
「「飼い犬の粗相は飼い主の責任」」
ルーシィとルーフィが、ズタズタになった服のままそんなことを言ってきたので、俺も仕方なく付いてきていた。
ちなみに今は、魔石を使用して服の代わりにしている状態だ。
「おい、買うならさっさと買ってこい」
投げやりに言うセイルに、
「犬が弁償ね」
「犬が弁償よ」
それだけ言って、ジト目でセイルを見続ける双子。
「おい、そもそもテメーらが喧嘩を売ってきたからこんなことになったんだろうがっ!」
セイルの言い分もわかる。
わかるのだが、服を着ろと頼んだのもセイルなのだ。
「なら飼い主の方に弁償させる」
「そうね。飼い主が払うべき」
セイルに向けていたジト目を、双子は俺に向けてきた。
同じ顔に並んでじ~っと見られるのは、なんだか変な気分だ。
そもそも俺は、こいつの飼い主じゃないんだが。
「悪いが、俺は金を持ってないぞ?」
なにか仕事に就いて金を稼いだことがないから、ほぼ無一文でここに来たわけだし。
制服がいくらなのかは知らないが、購入は無理だろう。
そもそも、制服なんて誰か教官に言えば支給してくれそうな気がするが。
「購買ではお金はいらない」
「物に応じて依頼をこなすだけ」
依頼?
購買で依頼が受けられるのか?
「面倒な依頼ばかりだぜ。
ペットの捜索だとか、物探しだとかな」
セイルはそう言うが、
「面白そうだな」
ここで受けられる依頼どんな内容なのかはわからないが、俺は興味が湧いた。
「な、マルス、あんたまさか――」
もしかしたら、セイルは俺を止めようとしたのかもしれない。
だが、もう遅い。
「あの二人が着る制服が欲しい」
俺は店主のおっさんに声を掛けていた。
「女子生徒用の制服二つか。サイズは中サイズくらいだな」
厳つい顔に合った厳つい声だった。
店主はカウンターの下から二着、制服を取り出した。
「商品は先に受け取っていいのか?」
「ああ。ただしきっちり働いてもらうぞ?」
傷跡のある右目がギラついた。
どんな依頼だろうか?
「依頼は、半森人の少女からの依頼だ」
羊皮紙を渡された。
書かれていたのは依頼内容だった。
○依頼内容
・ハーブ採集
学院近くの森林に生える様々なハーブの採集の為のサポート。
別々ではなく、必ず依頼者と共に行動できる方のみお願いします。
ハーブの採集日は今週の休日。
詳細は一年Bクラスのコゼット・サルアまで。
ということだった。
依頼人のコゼットって、ラフィの人参サンドを食ったハムスターの飼い主だよな?
会った時には気付かなかったが、コゼットは半森人だったようだ。
「ここで受けられる依頼は、生徒が依頼主なのか?」
俺は店主に聞くと、
「生徒だけじゃない。この学院の関係者であれば誰でも依頼を出すことができる」
つまり、教官や食堂の料理人、メイドのネルファでも構わないということか
「生徒の依頼に対して商品を提供してるが、なにか利益があるのか?」
「……これは学院の生徒の為の訓練の一環だ。
生徒を育てることが学院の利益に繋がる」
なるほど。
ここの卒業生は、将来冒険者ギルドに所属する者が多いだろうからな。
その為の予行練習のようなものなのだろう。
「必ず依頼人の元に顔を出せ。
なんらかの事情があり依頼を受けられなくなった場合は連絡をしろ。
成否は問わないといったが、依頼を放棄した上で連絡がない場合は、学院を退学になるから注意しろ」
退学か。
どんな環境でも、信頼関係が重要だろうからな。
報告を怠るような者は冒険者には向かない。
そういうことなのかもしれない。
「わかった。依頼人には明日までには会っておく」
「そうしろ」
店主から制服を受け取り、俺はそれを双子に渡した。
「流石は飼い主」
「飼い犬は使えない」
二人は俺に微笑みを向け後、セイルにはジト目を向けた。
「……テメェら、八つ裂きにしてやろうか?」
「セイル、やめとけ。また制服を買わされるぞ」
俺が言うと、セイルは頬を引きつらせ、深く溜息を吐くのだった。




