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職業無職の俺が冒険者を目指してみた。【書籍版:職業無職の俺が冒険者を目指すワケ。】  作者: スフレ
第一章――冒険者育成機関 『王立ユーピテル学院』
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選択授業② セイルとの自主訓練

2015/0912 サブタイトル修正

 戦闘教練室では、既に生徒達が各々自由に訓練を開始していた。


「あら、あんたたちも来たの?」


 声を掛けてきたのはラーニアだった。

 戦闘教練室に入って直ぐ横の壁にもたれかかっている。


「よう」

「うす」


 俺とセイルが挨拶を返すと、


「へぇ……あんたら仲良くなったの。

 ま、結構相性良さそうだものね」


 少し意外に思える言葉が返ってきた。

 ラーニアのヤツ、そんな風に思ってたのか。

 教官をやってるだけあって、相手の本質を見る目はあるのかもしれない。


「自主訓練だから好きにしていいけど、問題は起こすんじゃないわよ」


 念を押すように言われた。

 俺が問題を起こすように見えるのだろうか?

 既にラーニアは言いたいことは言ったと、俺たちから視線を外し周囲の様子を確認していた。


 自主訓練というだけあって、基礎訓練に励む生徒もいれば、剣を振っている者、二人で組手をしている者達もいる。

 ぱっと見た感じだと、全部で二十人くらいは生徒がいるようだ。

 その中には、同じAクラスのダークエルフの双子がいた。

 不思議なのは、Aクラスでは見たことがない生徒もいることだが、


「選択授業って、もしかしてABクラス合同なのか?」


 気になってセイルに聞いてみると、


「そうだ。

 鍛冶や錬金魔術は合同授業にするくらいが丁度いいんだとよ。

 授業を受ける生徒が少ねえってことなんだろうな」


 戦闘教練室ここに自主訓練に来ている生徒がこれだけいるのだから頷ける話だ。


「……ま、誰がいたって構わねえ。オレはオレの訓練をするだけだ」


 セイルはやる気に満ち溢れていた。

 わざわざ俺に、訓練を手伝ってくれと言ってきたくらいだしな。


「で、何をするんだ? 組手か? 実戦か? それとも魔術の訓練でもするか?」

「以前、あんたと戦った時に、俺に色々と言ってただろ?

 まずは、それをもう一度教えてもらえねえか?」


 セイルと戦ったっていうと、歓迎会の時のことか。


「あの時は、全く俺の話を聞いてなかったよな」

「ぐっ……あ、あんときは、頭に血がのぼってたんだ。

 キレやすいって自覚はあるが、どうにも感情の制御がきかねえ」

「大きな欠点だな。冷静さを欠いたら勝てる戦いも勝てないだろ」

「うぐっ……」


 淡々と正論を言ってしまったせいか、セイルは渋い顔で言葉に窮していた。


「ま、口で言って直ったら訓練はいらないわな」


 何事も、実戦に勝る訓練はない。


「今から俺に攻撃してこいよ。攻撃をかわしながらアドバイスはする。

 だから、なんで当たらないのか考えてみろ」

「……わかった」

「装備は有りでもいいぜ?」

「いや、今回は素手でいい。

 相手を倒すことじゃなくて、攻撃を当てるのが目的だからな」


 淡々とセイルは返事をした。

 どうやらこの前よりは冷静に物事を考えられているようだ。


 俺とセイルは、お互いに距離を取った。

 気付けば、戦闘教練室の中央の辺りを陣取っていた。

 周囲の生徒たちは、手を止めて俺達に目を向けている。

 まるで闘技場コロッセウムで剣闘士の戦いを待つ観客のように、今か今かと俺達を凝視していた。


「いつでもいいぞ?」


 セイルに声を掛けて、


「……なら――行くぜ!」


 直ぐに、疾風の如く狼人が俺に迫ってきた。

 この前戦った時にも思ったが、動きの速さはかなりのものだ。

 あっという間に目前にまで迫り、俺の顔の辺りを狙うように右手を薙いだ。


 だが、


「それじゃ絶対に当たらんぞ?」


 一歩下がるだけでかわせてしまう。

 だが、セイルの攻撃は止まらない。

 当たらないなら手数で勝負ということか。

 乱れ打つような手拳による強打。

 バネを利かせた足技。

 セイルは次々と俺を攻め立てる。

 顔、腹、肩、膝、足首と狙ってくるが、俺はその攻撃全てをかわした。

 狙う部位を視線で追っている上に、攻撃が真っ直ぐすぎる。


「手数を出すのはいいが、そんな大振りばっかじゃな」

「くっ――」


 セイルはバックステップで俺から距離を取った。


「なんだ? もう終わりか?」

「ちっ――これからだっての!」


 再び疾走し攻撃を加えてきたが、今度は重さのない軽い一撃でこちらの動きを牽制。

 俺の言葉をちゃんと聞いているのか、攻撃三発につき二発は、本命の為の誘いの攻撃を入れるようになった。

 要するに、大振りだけで相手を攻めるのはやめたわけだ。

 軽く素早い攻撃で相手を牽制し、隙ができたところで重い一撃を叩き込む。

 それは格闘戦の基本だ。

 セイルは身体能力の高さから、技術を磨くことを怠っているようで、どの攻撃も全て必殺の一撃のつもりで殴りかかってる。

 格下相手であればそれでも問題はないだろうが、同レベルや格上相手とやるなら、身体能力だけに頼った今の戦いは、近いうち通じなくなるだろう。


「少しはマシになったな」

「……そういうのは、一発でもくらってから言えっての!」


 また攻撃が大振りになってきたーーかと思えば、


「おっーー」


 セイルが俺の後ろに回り込んだ。

 俺の死角を取ろうとしたようだ。

 今までの直線的過ぎる攻撃を考えれば、だいぶマシになったが、


「よっ――」


 俺はその場で後ろ向きに跳んで、宙返りをした。


「なっ!?」


 セイルは拳を突き出していたが、当然その攻撃は俺に当たっていない。

 宙を舞う俺を見上げたセイルの顔は驚愕に歪んでいた。

 手を伸ばせば攻撃を加えることもできたが、何もすることなく俺は着地し、セイルの背後を奪った。

 が、セイルは振り向こうとしない。


「どうした?」


 俺が言うと、ようやくセイルは振り返り、


「……このままじゃ、オレの攻撃があたらねえのはよくわかった」


 溜息混じりにそう言った。

 その目には落胆の色が浮かんでいる。


「前よりは良くなってるんだ。続けてみたらどうだ?」


 前回戦った時は猪のような突進を繰り返すだけだったセイルが、今日は変則的に動き、軽打と強打を組み合わせて攻撃を繰り出すようになった。

 それだけでも大きな進歩だろう。


「そ、そうか?

 こ、この間は熱くなってただけだからな。

 元々このくらいはできるんだぜ」


 ぶっきらぼうな物言いだが、尻尾がふりふりと揺れている。

 なんだかんだで感情を素直に出すや――


「ぷっ――」

「ぷっ――」


 突然、噴き出すような笑い声が重なって聞こえた。


「従順な犬になってる」

「飼い主が怖いのかも」


 噴き出した後、謝罪もなくセイルを中傷してきたのは、闇森人ダークエルフの姉妹だった。

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