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職業無職の俺が冒険者を目指してみた。【書籍版:職業無職の俺が冒険者を目指すワケ。】  作者: スフレ
第一章――冒険者育成機関 『王立ユーピテル学院』
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薬学の授業

 遅刻が確定だった為、俺とラフィはこっそりと教室に入った。

 当然ばればれだったが、授業の担当である小人ホビットの教官は苦笑するだけで済ませて、そのまま授業を続けてくれた。


「遅かったけど、何かあったの?」


 席に着いて直ぐ、エリーに聞かれたので、


「死にかけたところを救世主(ハムスター)に助けられた」


 ありのままの事実を伝えると、


「そういう夢を見たってこと?」


 夢の中の出来事に思われたらしい。

 まあ、普通ハムスターは人を助けないから、エリーの反応は当然だろう。


「ところでエリー、今は何の授業なんだ?」


 俺は話を変えた。


「今は薬学の授業。担当はスミナ・クロット教官」


 聞かれる前に、教官の名前まで教えてくれた。

 俺が知らないのを見越してのことだろう。


 薬学の本を取り出し、俺はスミナ教官に視線を向けた。


 見るからに優しそうな小人ホビットの女性教官だ。

 垂れ目で穏やかな印象を与える容姿をしている。

 茶色の髪を短く切り揃えているので、少年のように見えなくもないが、

 不思議と大人の女性らしい包容力のようなものを感じさせる。


(見た目だけなら、包容力とは正反対なんだがな……)

 

 小人ホビットは成人しても、人間の子供くらいの大きさにしかならない小さき種族だ。

 寿命は人間より長く、年を取っても容姿の変化は少ない。

 手先が器用な為、トラップの解除がうまいが、身体が小さく非力なことが欠点だ。

 その分、身軽で動きが素早く立ち回りがうまいなど、欠点を十分に補う長所を沢山持ち合わせている。

 それが小人ホビットという種族の特徴だ。


上級回復薬ハイポーションの製作工程はちゃんと覚えておいてくださいね」


 しまった。

 全く授業を聞いてなかった。


(え~と、上級回復薬ハイポーションの製作については……)


 目次を確認し、俺はそのページを開いた。

 どうやら薬学書は薬の調合について書かれているようだ。


上級回復薬ハイポーション

  材料

 ・薬草五枚

 ・ライフハーブのエキス

 ・ガラス瓶

 ・水


○製作工程。

 ・薬草五枚をガラス瓶に入れる


 ↓


 ・ガラス瓶の中に水を入れ沸騰させ薬草が溶けるまで待つ。


 ↓


 ・ライフハーブのエキスを混ぜる。


 ↓


 ・熱が冷めるまで待つ。


 これが薬学書に書かれている基本工程だった。


 沸騰させてからハーブのエキスを入れるまでの時間はその日の気温や湿度なども関係するらしく、それを見極めるのが非常に難しい。


 熱は急速に冷ましたりせずに、室内常温でゆっくり冷えるのを待った方が調合が成功しやすい。


 そう書いてある。


 知識はあっても作製するのは容易ではなさそうだ。


「明日の薬学では、実際に上級回復薬ハイポーションを調合してみましょう」


 スミナが言った。

 俺は薬を作製したことはないので、明日が初調合になる。

 薬の類は、作るより買うほうが遥かに楽だからだ。

 材料を集めて調合を行っても、必ずしも調合に成功するとは限らない。

 失敗すれば材料費分は当然マイナスになるわけだから、そのリスクを考えると完成品を購入した方が無駄がない。


 高価なので無駄に購入することはできないのは難だが、即効性が高い上に飲むだけで済む為、戦闘中でも簡単に使用できるのは大きなメリットだ。


 体力や魔力、さらに状態異常まで回復できるので迷宮ダンジョンに潜る冒険者にとっては必須の道具アイテムなので、自分で作製できればメリットは大きい。


 自分で作製することが出来れば、ギルドや道具屋相手にも商売もできるので単純に金儲けにも使えるしな。


 大手ギルドには冒険者とは名ばかりの調合師がいると聞いたことがあるが、この学院でもこういった授業があるということは、調合師として技術を磨いて冒険者ギルドに入ろうと考える者もいるのかもしれない。


 その証拠に、一部の生徒は真剣にスミナの言葉に耳を傾けている。

 ただ単純にスミナの授業が面白いからというだけかもしれない。


 なにせスミナは薬学書に書かれていない、自分の経験から得た知識を惜し気もなく話してくれるのだ。

 例えば森にある薬草と毒草の見分け方。

 回復薬を調合する際に混ぜると効果を高める材料。

 どこの地域の森でどういう薬草やハーブが手に入るのか。


 どれも為になることばかりだった。


 淡々と進む魔術学の授業は眠くなってしまうが、薬学の知識に明るくない俺にとっては、スミナの授業は興味深いことばかりだった。


「見たことがない薬草だと思って引っこ抜いたら、マンドラゴラだった時もありました。

 知ってますよね? マンドラゴラ?」


 たまに授業と全く関係のない自分の失敗エピソードで場を和ませたりもして、


「引っこ抜くと叫び声をあげるってヤツですよね?」

「はい。危うく死に掛けるところでしたが、その時一緒にいたエルフの冒険者が封魔術サイレントを使ってくれたので助かりました。

 皆さんはその辺りにある草を適当に引っ張っちゃ駄目ですよ」


 このように生徒と交流を深めていた。

 そして気付くと鐘は鳴り、


「では、今日やった部分は、ちゃんと復習しておいてくださいね。

 定期試験でも出しますよ」


 終始、穏やかな様子で授業は進み、薬学の授業はあっという間に終わっていた。

 スミナ・クロットは非常に愛嬌が有り、話し上手な教官。

 そういう認識が俺の中に刻まれた。

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