表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
職業無職の俺が冒険者を目指してみた。【書籍版:職業無職の俺が冒険者を目指すワケ。】  作者: スフレ
第一章――冒険者育成機関 『王立ユーピテル学院』
49/201

ラフィの特製弁当②

 頭にふかふかとした柔らかい感触を感じた。

 それは温かく心地いい。

 その心地よさに、ずっと身を任せてしまいたいくらいだった。

 朦朧とする意識が引っ張られて、吸い込まれてしまいそうだ。


 俺、今何をしてたんだっけ?

 ふと、そんなことを思った。

 目を開けば、それがわかるはずなのに、俺の本能がそれを拒む。


 このままこの温もりに身を任せていればいい。

 そんな風に訴えてくる。


 だけど――カーン、カーン。

 鐘の音が聞こえた。


 それは俺に、目を覚ませ。と言っているみたいな気がして。


「ああ、もう休み時間が終わってしまいましたか」


 そんな声が聞こえた。


「名残惜しいですが、流石に起こさないとダメですよね」


 ゆさゆさ――と、身体が揺らされた。

 優しい手つきだ。


「マルスさん、起きてください」


 そんな声と共に、今度は頭の辺りを撫でられて、


「んん……」


 俺の意識は徐々に覚醒していき、ゆっくりと目を開いた。

 するとそこには――


「お目覚めですか?」


 視線の先にはラフィがいた。

 俺を見つめ、微笑みを浮かべている。


(……あれ?)


 周囲を確認する首を左に捻る。

 手入れされた花壇や芝が見える。

 それを確認し、再び正面を向いた。


「ラフィの膝枕の眠り心地は、いかがでしたか?」


 そんなことを聞かれ、俺はようやく気付いた。

 頭部の柔らかい感触と、背中に感じる硬い感触。

 どうやら俺は眠っていたらしい。

 ラフィの膝を枕代わりにして。


「またお願いしたいくらいだ」

「マルスさんになら、いつでもお貸しします」


 実際、本当に寝心地は良かった。

 だが、なぜ俺はここで眠ってたんだ?


 確かラフィと一緒に中庭へ向かっ――!?


「ら、ラフィ!! あれはどうした?」


 思い出し、俺は飛び起きた。

 俺はあの殺人サンドを食って、そのあまりにも凄惨……いや、鮮烈と表現するべきだろうか?

 のみこ あの不可思議な味の衝撃に意識を奪われた。

 完全に敗北を喫した形となったのだ。


「あれって、ラフィ特製人参サンドのことですか?」

「そうだ!」


 あれはこの世に残しちゃいけないものだ。

 下手したらこの学院――いや、この大陸の住民を殺しかねない。

 そんな俺の焦りとは裏腹に、


「す、すみません。お腹が空いていてたので、ラフィがほとんど食べてしまって」

「……」


 耳を疑った。

 俺は今、恐ろしく間抜けな顔を晒しているかもしれない。


「マルスさんに気に入って頂けたのは嬉しいのですが、あれはラフィも大好物でして……あの、決してラフィが食いしん坊というわけではないのですよ」


 羞恥心だろうか?

 ラフィは膝をもじもじとさせている。

 だが、俺が驚愕したのはそのことではい。

 あれを、喰ったというのか?

 この小柄なら兎人ラビットの少女が、あの恐ろしい産物を全てその身の中に取りいれたというのか?


 それとも、あの料理は人間ヒューマンにのみ効果を発揮する毒物なのか?

 だから兎人のラフィは平然と喰えた。

 そういうことだろうか?

 きっとそうだ。

 そうに違いない!

 そうじゃなければおかしい!!


「ちなみに、マルスさんが起きた時に食べて頂きたかったので、一切れだけですが残してあります」


 ……は?


「最後の一切れは、マルスさんに食べて頂きたかったので」


 ちょっと待ってくれ。

 あれがもう一口でも体内に入れば、もう二度と目を覚ませない。

 そんな予感がする。


 椅子の隅に置かれていた弁当箱を手に取り、ラフィが蓋を開こうとした。


「待てラフィ!」


 俺は慌ててラフィを止めた。

 それを開封させるわけにはいかない。


「どうしたんですか?」


 小首を傾げ不思議そうに見るラフィ。

 俺は、なんとしてでもこの危機を乗り越えなくては。


「ラフィの気持ちは非常にありがたいが、次の授業がもう始まるんじゃないか?」

「ああ。そういえばそうですね」

「なら、急いで戻ろうぜ」


 俺は椅子から立ち上がった。


「わかりました」


 ラフィは首肯した。

 どうやら納得してくれたようだ。

 なのになぜだろう。

 彼女は弁当の蓋を開いていた。


「でも戻る前に、マルスさんあ~んです」


 ラフィはキラキラと目を輝かせ、期待に満ち溢れた瞳で俺を見ている。


「……」


 どうやら、逃げることは許されていないようだ。

 もう……観念するしかない。

 ラフィが俺の為に作ってくれたものだ。

 ならば、俺が片をつけるのは当然だろう。

 俺は覚悟を決め、口を開いた。 

 ゆっくり、ゆっくりと、ドロドロとしたソースを垂らした物体が俺の口に近付いて、口の中に入ろうとしたその瞬間――

 シュ――と素早い身のこなしで、何かが俺の目の前を横切った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ