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職業無職の俺が冒険者を目指してみた。【書籍版:職業無職の俺が冒険者を目指すワケ。】  作者: スフレ
第一章――冒険者育成機関 『王立ユーピテル学院』
41/201

一日の終わり② 夜這い

* マルス視点 *




 浴場から部屋に戻ると、


「マルスさん、お帰りなさい!」

 

 白のネグリジェを着たラフィが、満面の笑みで俺を出迎えた。


「……なぜここにいる?」

「夜這いにきたのです!」


 長く白い垂れ耳をピクピクと揺らし、当然と言わんばかりにラフィは堂々と胸を張った。

 大胆に開いている胸元からは、谷間がはっきりと見える。

 しかも、どうしてか胸元の辺りだけ布が薄い。

 ラフィの肌が透けて見えてしまいそうだった。

 夜這いに行ってもいいですか? と帰り際に言ってたけど、この服装を見るだけで本気で夜這いにきていることがわかった。


「誰かに止められたりしなかったのか?」

「ラフィの能力をお忘れですか?

 その気になれば侵入なんて簡単にできちゃいますよ」


 精神系の魔術の誘惑と女を支配する技能スキル

 その二つがあれば、確かに侵入なんて軽々だろうけど、


「さあ、マルスさん。二人で熱い夜を過ごしましょう」


 ラフィはピタリと俺に身体を寄せて胸を押し付けてくる。

 柔らかく女らしい感触が俺を襲った。


「あのな、エリシアもいるんだぞ?」


 俺はラフィの肩を優しく掴み、寄せられていた身体を引き離した。

 ラフィは不満そうに頬を膨らませていたが、


「そういえば、エリシアさんはどこに?」


 直ぐに気を取り直したのか、周囲をきょろきょろと見回してそんな事を聞いてきた。


「今はいないぞ」

「では、ラフィにとっては千載一遇のチャンスというわけですね!」


 両手を胸元まで挙げ、グッと拳を握ったラフィ。

 なんだか、凄く気合が入ったようだ。


「エリシアさんがいる部屋で盛るのでは、流石のマルスさんも恥ずかしいかなぁと思っていたんです」


 ラフィの目はどこまでも本気だ。

 こういう時は、


「……さて、寝るかな」


 俺は部屋の灯かりを落とした。


「はい。ラフィは初めてなので、優しくしてくれると嬉しいです!」


 ラフィの言葉を無視して、俺はベッドに上がった。

 ラフィはその後に付いてくる。

 宿舎のベッドは俺が横になるだけでいっぱいで、ラフィが入れるほどの広さはない。

 元々、二人で寝ることなど想定されていないのだ。


「流石に宿舎のベッドだと狭いですね」


 ラフィはそんな感想を口にしたが、


「こういうのはお嫌いですか?」


 何も気にする様子はなく、俺の上に乗ってきた。

 その馬乗り状態から、ラフィは身体を倒した。

 柔らかい感触と温もりが俺の全身を包んでいく。


「マルスさんは攻められるのがお好きですか?」


 耳元で囁かれた。

 その囁きは甘く心地よい。


「いや、攻める方が好きだな」

「では、ラフィが下の方がいいですか?」

「ラフィはベッドから下りるべきだと思うぞ?」

「いやです。今日、ラフィは既成事実を作りにきました」


 全く引く気はないようだ。


「マルスさん、ラフィの初めて貰ってください」


 熱っぽい瞳を潤ませ、頬を紅潮させたラフィが、俺の服に手を掛けた。


 しかし俺は、ごろん――。と身体を転がし無理矢理うつ伏せになった。

 もうこのまま寝てしまおう。


「え、ま、マルスさん? なんでうつ伏せに?」


 ラフィが何か言っているが、気にしない。


「折角いい雰囲気だったじゃないですか!

 って、あのマルスさん? 本当に寝ちゃう気ですか?」


 寝る。

 俺はもう寝る。


「そ、そんなぁ! ラフィを一人置いて寝てしまうんですか?」


 背中には柔らかい感触と温もりを感じている。

 ラフィは俺から離れるつもりはないようだ。


「この火照った身体を、ラフィ一人で鎮めろと言うんですか?」


 俺は気にせず、意識を落とすことに集中する。


「はっ!? もしや、そういうプレイですか?

 ラフィのことを焦らすおつもりですか?」


 だんだんと、意識はまどろみに包まれていく。


「堪えられなくなったラフィが、

 マルスさんの名前を呼びながら、一人で自分を慰める。

 そんな姿を見たいと?」


 俺の意識は完全に落ちていった。




 * ラフィ視点 *




「できれば、最初くらいは普通に愛されたかったのですが、マルスさんがどうしてもというなら……って、あれ? マルスさん?」

「zzzzzzz」


 マルスさんはもう眠っていました。

 静かな寝息が聞こえてきます。


「え? 本当に寝ちゃったんですか?」


 ラフィが呼びかけても、当然のように返事はありませんでした。


「そ、そんなぁ……」


 ラフィが一人で悶え悩んでいたというのに、マルスさんは気持ち良さそうに眠ってしまうなんて。

 女子宿舎からわざわざここまで来たというのに。


 起きてほしくて、マルスさんの背中を軽く揺すってみました。

 ラフィの手に、マルスさんの硬い筋肉の感触が伝わってきます。

 その身体に触れるだけで、なんだかラフィはドキドキしてしまいます。


「ごくっ」


 できれば、服を脱がせて直接その身体を見たい。

 ラフィの頭には、そんな邪な考えがよぎりました。

 きっと服の下には無駄な脂肪など一切ない、絞りきられた理想の肉体が。


(あぁ……)


 考えただけで、発情期がきてしまいそうです。

 ですが、ここで一人で盛るわけにはいきません。


 いや……でも、ここでラフィが一人で慰め始めたら、流石のマルスさんも起きてくれるのではないでしょうか?


 でも、なぜかはわかりませんが、絶対に起きてくれないような気もします。

 そもそも、あれだけ誘惑したというのに、マルスさんがラフィを放って寝てしまった。 それはつまり、今ラフィを抱くことを拒絶したという事です。


 ラフィに魅力がないということなのでしょうか?

 いや……そんなことはないはずです。

 ラフィたち兎人ラビット族は鼻がいいのです。

 ラフィに迫られた時、マルスさんの匂いはちゃんと強くなっていました。

 雄が強い匂いを発している時というのは、大抵雌を抱きたい時なのです。

 あれは絶対にラフィに反応して強くなったはずです。


 だとすると、何か抱けない理由が?


 ――まさか、マルスさんは不能なのでは!?


 いや、流石にそれはないですよね。

 英雄は色を好むものです。

 マルスさんほどの雄が不能なわけがありません。


 だとすると……。


 やはり、身体から落とすのではなく、心から奪わなくてはダメという事なのでしょうか?

 医務室でマルスを襲おうとした時も、


『ラフィを恋人にしたいと思えるほど好きじゃない』


 と言われてしまいました。


 だとしたら、やはり恋人になるという段階を踏まなくてはいけないのでしょうか?

 心の底から好きになって貰えたら、つがいになってくれるとも言ってましたし。

 でも、どうしたら、マルスさんに好きになってもらえるのでしょうか?

 色仕掛けでは落とせないとなると、かなり厳しい戦いになりそうです。

 

 取りあえず、これから毎日お弁当は作ろうとは思っています。

 雄の胃袋を掴むことは、恋愛においても重要なはずなのです。


 今はまだライバルが少ないからいいですが、今後他の雌がマルスさんに媚を売らないとも限りません。

 その前に、短期決戦です!


 絶対、マルスさんには番いになってもらいます!

 きっとそれは、二人の運命のはずですから。


 ラフィは、改めてそう決意をするのでした。


(……さて)


 マルスさんも寝てしまいましたし、今日はラフィも寝ることにします。

 既成事実を作ることはできませんでしたが、ここでマルスさんと一晩共にしていれば、どこかで我慢できなくなったマルスさんが狼になるなんて可能性もありますからね。


(あぁ……)


 考えるだけで悶えてしまいました。

 下着……替えを持ってくれば良かったです。


 ベッドの端まで寄って、マルスさんの顔が見える位置に移動しました。

 ラフィはその隙間になんとか身体を入れます。

 小柄なラフィの身体でもかなり狭いですが、マルスさんと密着できるので構いません

 すやすやと、安らかな寝息をたてているマルスさんに思わずキスしたくなりました。


 ……でも、今は我慢です。

 マルスさんは恋人相手じゃないと、そういうことをされたくないみたいですからね。

 それがたとえばれなかったとしても、マルスさんに嫌われるような行為は、できるだけ控えようと思います。

 勿論、恋人になったらいっぱいしますけど。


「おやすみなさい、マルスさん」


 安らかな顔で眠るマルスさんの腕の中でラフィは目を瞑ります。

 大好きな人の温もりと匂いに包まれながら、次第に意識は落ちていって。

 こうして、ラフィが運命の人と出会った記念すべき日が終わったのでした。

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