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職業無職の俺が冒険者を目指してみた。【書籍版:職業無職の俺が冒険者を目指すワケ。】  作者: スフレ
第一章――冒険者育成機関 『王立ユーピテル学院』
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一日の終わり① エリシアの頼み

* エリシア視点 *




 マルスが浴場に向かった後、ボクは宿舎を出て学院に向かった。

 目的地は、教官方の住む学院の九階。

 九階の各部屋は教官方に割り当てられ、好きに使うことを許可されているらしい。

 要するに教官方の部屋というわけだ。


 ボクはラーニア教官に会いに行こうとしていた。

 頼みごとができたのだ。


(いきなり行って、迷惑かもしれないな……)


 でも、今行動したい。


『自分の弱さ』を認め受け入れる。


 ボクは、その一歩を踏み出すことに決めたから。


 その為にはまず、ラーニア教官にボクが女である事を打ち明ける必要がある。


 でも、男だと嘘を吐いて学院に入っちゃったから、女だって打ち明けたら退学になるなんてこともあるかもしれない。


 マルスはそのくらいじゃ退学にならないって言ってたけど……。

 それでも不安だった。


 でも、このままここに居ても、ボクの目的は果たせない。

 強くなる。

 今より強くなる為に、弱さを受け入れる為に。


 まずやらなくちゃいけないことがある。




 考えていると、直ぐに学院の前に着いた。

 目的は決まっている。

 決意もできた。

 ボクは学院に入った。

 そして階段を上ろうとした時、


「がはははははははは!!!!!!!!!!」


 笑い声が聞こえた。

 なんだろうか?


 声の方に近付いていくと、食堂が騒がしいことがわかった。

 こんな時間に?

 もう食堂を利用している生徒はいないはずだ。


 だとすると……?


 ボクは食堂に向かった。

 すると、


「ラーニア、あなた何杯目?」

「まだそんな飲んでないわよ?」

「がはははははっ! そうだ、宴はこれからではないか!」

鍛冶人ドワーフの宴に付き合ってたら、朝になっちゃうよ」


 教官方がエールを酌み交わしていた。

 ここはいつから酒場になったのだろうか?

 そんなことを考えてしまうような光景だった。


「あら? こんな時間にどうしたのかしら?」


 最初にボクに気付いたのは、闇森人ダークエルフのリスティー・リリフル教官だった。


「あ、こ、こんばんは」

「うん? エリシア?」


 ラーニア教官が声を掛けてくれた。


「どうしたの?」


 ラーニア教官は席を立ち、ボクの方に歩いてきた。


「なんだ、ワシらと飲みたいのか?」

「……たまには生徒たちと親睦を深めるのも悪くないかも」


 そんな言葉も聞こえたが、用件は全く違う。


「ラーニア教官、少しお時間宜しいでしょうか?」

「……二人きりの方がいいかしら?」

「はい。できれば……」


 ラーニア教官に話せば全員にばれることだ。

 でも、少し落ち着いた場所で話したかった。


 ここではあまりにも騒がしすぎるから。


「なんだラーニア、ワシから逃げようってのか?」

「明日付き合ってやるわよ。今日はリスティーたちと飲んでなさい」

「ふん……。まあいいわい。気を取り直して、今日は宴じゃっ!!」


 そうしてまた、教官方は酒を酌み交わす。

 教官方はみんな冒険者だから、酒が嫌いなはずがない。

 もしかしたら、このような宴が毎晩行なわれているのかもしれない。


 もしかして、邪魔をしてしまっただろうか?


「じゃあ、あたしの部屋に行きましょう」


 ラーニア教官はイヤな顔一つしていないけど、なんだか申し訳なくなった。


「すみません、お邪魔してしまって」

「いいのよ。あんなのに付き合ってたら、明日の授業に遅刻しちゃうわ」


 階段を上り九階に着く。

 そこから右回りに少し歩いた場所で立ち止まった。


 そこには扉があったが、ラーニア教官の名前は書かれていない。

 扉にはドアノブもない。

 ラーニア教官が扉に手をかざす。


「――解錠アンロック


 どうやら特殊な魔術で施錠ロックしていたようだ。

 解錠の魔術によって、扉にドアノブが形作られていた。

 そしてラーニア教官が扉を開き、


「入っていいわよ」


 部屋に通された。


 思っていたよりも普通だ。

 ボクらの宿舎と同じくらい質素な部屋だ。

 服や本が散乱しているのが、大雑把なラーニア教官らしい感じがした。


「……ち、散らかっていて悪いわね」

「いえ、こちらこそ、突然お邪魔してしまってすみません」


 普段人を入れることがないのだろう。

 ラーニアは「しまった」と思っているのか、顔をしかめていた。


 教官によっては、魔術の実験や研究の道具が大量に置かれているなんて話を聞いたことがあったけど、ラーニア教官はそうではないらしい。


 少なくとも、目に見える範囲だけなら。

 部屋に入ると、ラーニアは椅子に腰掛けた。


「それで、どうしたのかしら?」


 さっきまでエールを飲んでいたとは思えないくらい隙のない眼差しを向けた。

 全く酔ってはいないらしい。


 これなら、真剣な話をしても問題なさそうだ。


「実は、ラーニア教官に打ち明けたいことと、お願いしたいことがあります」


 そしてボクは、ある頼み事をラーニア教官にするのだった。

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