放課後⑤ 生徒会長
* ラフィ視点 *
戦いが終わるまで、ラフィの目はマルスさんに釘付けだった。
狼人たちの攻撃を華麗にかわしていくマルスさん。
どこか楽しそうな余裕に溢れたその表情。
自信に溢れた瞳。
マルスさんはきっと、自分の勝利を確信している。
でも、それは当然のことでしょう。
マルスさんと狼人たちでは明らかな実力差があるのです。
埋めようとしても埋まることのない圧倒的差。
底がまるで見えない。
あまりにもマルスさんが強過ぎるのです。
(あぁ……)
身悶えてしまう。
これほどの雄に巡り合えた幸運を、ラフィは全能神ユーピテルに感謝したいくらいだ。いや、この場合はユーピテルよりも愛の女神ヴェヌスに感謝するべきかもしれない。
これほどの雄に出会えるチャンスはもうない。
だからこそ、何としてでもマルスさんの心を掴まなくては。
でも、それよりも先に既成事実だけでも作ってしまいましょうか?
今日にでも宿舎に忍び込み、マルスさんと一夜を共に。
そんな淫らな計画を、ラフィは考えてしまう。
しかし、それには問題がある。
(エリシアさんが同室なんですよね……)
どうしたものかと考えていた時でした。
戦いは終わりました。
当然、マルスさんたちが勝ちました。
ラフィの番いになるべき人が、他の雄を圧倒するのは喜ばしいことです。
そのこと自体は喜ばしいのですが、その直後に起こったことが、ラフィにとって問題でした。
ラフィの目の前で、マルスさんとエリシアさんがイチャイチャし始めたのです。
* マルス視点 *
戦いが決着し、人だかりが散っていく。
「まさか落ちこぼれが勝つなんてなぁ……」
「ああ、予想外だった」
「つ~かラスティーが情けなさ過ぎるだろ?」
去っていく者達がそんなことを話していた。
「ったく、今日は大損だぜ」
「なけなしの回復薬が……」
おい待て。
賭け事に使ってたのか。
元締めは誰だよ。
随分と見物人が多いと思ったがそういうわけか。
その事実を知った直後、
「お二人とも、距離が近いです!」
俺とエリシアの間に、ラフィがグイッと身体を割り込ませてきた。
その表情はトゲトゲしく不機嫌そうだ。
「ぁ……」
ラフィに言われ、慌てて身を引くエリシア。
ついでに目も逸らされた。
エリシアの頬はまだ赤い。
いや、さっきよりも赤くなっている気がする。
気のせいかもしれないけど。
「全くもう。油断も隙もないです」
唇を尖らせるラフィ。
何を怒ってるのだろうか?
「……お二人とも、お怪我はありませんか?」
しかし、心配はしてくれていたみたいだ。
「ああ。俺は問題ない」
「ボクも大丈夫。ちょっとダメージがある程度だから」
あれだけの攻撃を受けたのだから、エリシアの身体は痣くらいできているだろうけど、その程度なら治癒魔術で直ぐに回復できるはずだしな。
ラフィは安心したのか。
ほっと一息吐いた。
「しかし……こいつら、どうするよ?」
こいつらというのは、地面に倒れている狼人たちのことだ。
流石にこのまま放置というわけにはいかないか?
「……ど、どうしようね」
苦笑するエリシア。
しかしエリシアもこのままでいいとは思っていないようだ。
「全員医務室まで運ぶか?」
俺が聞くと、
「――あなたたちは宿舎に帰っていいわ」
予想外のところから返答がきた。
答えたのは黒髪眼鏡の森人、アリシアだ。
「後はこちらで処理しておきます」
「いいのか?」
「はい。ラスティーがご迷惑を掛けました。
同じ三年として謝罪させて頂きます」
アリシアが頭を下げる。
やはり生真面目なヤツだ。
自分のせいではないのに、他人に頭を下げるなんて。
「か、会長、やめてください。ボクたちは大丈夫ですから」
慌てるエリシア。
そういえば、アリシアはさっきも会長とか言われてたな。
ニックネームか何かか?
「なあ、なんであんたは会長って呼ばれてるんだ?」
「……」
「……」
「……」
この場にいた俺以外――エリシア、ラフィ、アリシア、三人の視線が一斉に俺に向いた。
「……ま、マルス、もしかして、アリシア会長のことを知らないの?」
エリシアは目を丸くしている。
ラフィは苦笑している。
「知ってるよ。三年でアリシア・レステントって名前だって」
自己紹介されたばかりだからな。
「あ、いや、そういうことじゃなくて……」
なんだというんだ?
エリシアとラフィはちらちらとアリシアを気にしている。
俺はアリシアを見た。
目が合ったかと思うと、アリシアは口を開いた。
「……編入生に配慮が足りませんでした。
改めて名乗らせて頂きます」
俺を真っ直ぐに見つめたアリシアが、
「委員会――生徒会の会長をしています。
アリシア・レステントです」
改めてされた自己紹介には、生徒会の会長――という役職が付加されていた。
エリシアとアリシア、紛らわしくてすみません。




