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職業無職の俺が冒険者を目指してみた。【書籍版:職業無職の俺が冒険者を目指すワケ。】  作者: スフレ
第一章――冒険者育成機関 『王立ユーピテル学院』
28/201

放課後④ 戦いの結果

 * エリシア視点 *




(なんでこんなことに……!)


 マルスは狼人ウェアウルフたちの攻撃をダンスのステップでも踏むみたいに軽々とかわしていた。

 攻撃は全く当たる気配はない。

 反撃する余裕もありそうなのに、攻撃はしない。


 マルスはただ相手からの攻撃をよけ続けるだけだった。


 そして時折ボクの方を見る。

 ちら、ちら……と視線だけを動かして。

 

 なんだかマルスは楽しそうだ。

 少しわくわくしているような気さえする。

 

(何を考えてるんだよキミは!)


 そう叫びたかった。


 これだけの人数を相手にしてるんだ。

 マルスの体力だってどこまで持つかわからない。


 いくらマルスが強くたって、もしもってことがあるかもしれない。


 だったら早く魔術を使ってマルスを助ける?


 でも、無理に魔術を行使しようとして、魔力暴走が起こったら……。


 ここには騒ぎを聞きつけた多くの人が集まっている。

 彼らを巻き込んでしまう可能性だってあるんだ。


 一番いいのは魔術を失敗しないこと。

 そして大きな怪我を負わせない程度に戦闘不能にできるのが理想だ。


 でも、今ボクは光玉ライトを相手に投げつけるのでもやっとだ。

 光玉に攻撃力は皆無。

 とても相手を戦闘不能にするなんてこできない。

 

 もし光玉を投げたとして――

 

(……うん? でも……そうだ……!)


 相手を戦闘不能にすればいいなら、それは魔術だけでやる必要はない。


 もしかしたら、


「光の粒子よ――」


 割り切ってやってみるしかない!

 もう他にアイディアはないんだ!

 ボクは標準を定める為に、右手を前に突き出す。


 マルスがこちらを見て、少し頬を吊り上げた気がした。


「マルス、目をつぶって!」


 マルスが自分の顔を腕で覆ったのを確認して、ボクは魔術を行使する。


光玉ライト


 攻撃力皆無の光の魔術。

 でも、光の強さを出来る限り最大に調整した。

 ボクはそれを、狼人たちのいる中心に叩きつけた。

 

 瞬間、光が爆発するみたいに周囲を照らす。

 目を瞑っていても眩し過ぎるくらいの閃光に目が焼かれそうだった。


 でも、ボクは直ぐに目を開けた。

 光は既に収まっている。


「ぐっ――目が……」

「くそがっ、どこにいやがる!」


 案の定。

 ボクの作戦は成功していた。


 

 疾走しつつ、魔石に魔力を込め武器を形成する。

 無防備な狼人たちに峰打ちを叩き込み気絶させていく。


 一人、二人、三人、四人、五人。


 視力が回復する前に全員倒す。


 六人、七人、八人、九人――後は、リーダー格の狼人を。


「――風よ! ――吹き荒れろ!」

 

 ラスティーが叫んだ。

 すると、暴風雨のような強烈な風が吹き荒れた。

 その風が防壁のようになり、これ以上近付くことができない。


「……ちっ、やっと見えてきやがった。くそがっ! なんだってんだ! ただの光玉でこんな……くそ! くそっ! くそがよっ!」


 周囲に倒れ伏す仲間の姿を見て、イラついた様子を隠そうともせず地団駄を踏んでいる。


「クソがっ! そもそもテメーはなんなんだ!

 俺がこのクソ野郎と戦ってる時に不意打ちなんざしやがって!

 卑怯野郎がよっ!」

「いや、先に大人数でエリシアを襲ってたお前が言うかそれ?」


 ボクの気持ちをマルスは代弁してくれたみたいだ。

 一切の焦りもなく淡々と告げるマルスを、狼人は睨み付けた。


 その瞳には殺気がこもっている。


「……――!」


 言葉もなく、マルスに向かい突進していった。


 なのに、マルスは動かない。

 ただ、その視線だけはボクに向いていて――


「エリシア、後一人だぞ」

 

 その瞳は――ボクが彼を止めると信じていた。


 バカだよ。

 マルスは――

 こんな状況にされたら、ボクは――


「――閃光よっ!」


 突き出した右手から光の波動が放出された。

 その光速の一撃は――狼人の攻撃がマルスに届くより速く、


「……ぐぁ――」


 目標の敵を撃ち貫いた。




 * マルス視点 *




「……や、やったの?」

 

 自分のやったことが信じられないように、エリシアはぽつりとそんなことを言った。


「ああ、お前がやったんだ」


 最後の一撃は見事に光の魔術を行使していた。


「見事な一撃だったぜ」

「ぼ、ボクが……?」


 まだ信じられないみたいだ。

 でも、ここに倒れているヤツらを見れば、今あったことは一目瞭然だぞ。


「守る為なら、できるってことだろ?」

「……っ――」


 エリシアの瞳にぶわっと涙が溢れた。

 それは最初、嬉し涙なのかと思ったのだけど、


「バカっ!」


 胸の辺りを殴られた。

 ポコ、というよりはボコ! だったので結構痛い。


「バカ、マルスのバカ! どうしてあんなことしたの!」

「あんなこと?」

「マルスだったら、あんなヤツら直ぐに倒せてたはずでしょ!」


 ……ああ。

 俺が何もしなかったことを怒ってるのか?


「だって、エリシアが倒すって言ったからさ」

「……それだって、もしボクが魔術を使えなかったら、マルスが危なかったかもしれないじゃない!」


 危ない……?

 ああ……そういうことか。

 多分、エリシアは俺を心配してくれたんだ。

 俺の為に怒って、泣いてくれてるんだ。


 なんだか、申し訳ないことをしたように思えてくる。

 もしかしたら、エリシアが魔術を使えるようになるかもと、軽い考えでやったことだけど、


「悪かった」


 こんなに心配されると思わなかった。

 だから、素直に謝罪した。


「本当に悪いと思ってる?」

「ああ」

「なら……許す」


 そう言って、微笑を浮かべる。


「マルスのおかげで魔術が使えたのは事実だから」


 涙が流れたせいか、エリシアの頬は少しだけ赤らんでいた。

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