放課後② エリシアの決意
2015/09/07 修正
* エリシア視点 *
マルスたちと別れ、ボクは学院の正面玄関に来ていた。
玄関前にはいつもよりも多くの生徒がたむろっている。
誰かを待っているのだろうか?
そんなことを気にしていると、
「二年のエリシアだよな?」
その中の一人に声をかけられた。
狼人の男だ
見たところ、二年の生徒ではないみたいだけど……。
「そうですが、なんでしょうか?」
「……マルス・ルイーナってのはどこにいる?」
「マルスに何の用ですか?」
用件も言わない相手に、場所を教えるわけにはいかない。
そもそも、明らかにいい用事ではなさそうだ。
「落ちこぼれっ! テメーは聞かれたことだけに答えりゃいいんだよっ!」
狼人達がボクを取り囲んでいく。
「少なくとも、ここにいないのは見てわかるでしょ?」
「……お前さ――」
「――なっ」
狼人の突き出した拳が、頬を掠めた。
「状況わかってるのか?」
「状況? 今からここにいる全員でワルツでも踊るの?」
そんなわけない。
そんなことはわかってる。
でも、彼らが集団でマルスを待っていた理由は想像が付いてしまった。
きっとマルスなら、ボクが何もしなくても、自分で解決してしまうだろう。
でも、だとしてもボクがここでマルスの居場所を正直に告げることなんてできない。
それは友人を売る行為だ。
マルスはボクの友達だ。
敵の数は多い。
ボクは攻撃系統の魔術をまだ使えない。
戦って勝てる保証なんてない。
でも、こいつらはここで、ボクがどうにかしてみせる。
少しでもボクが――マルスの友達だと胸を張って思えるように。
「はっ――いい度胸だっ!」
こうして――エリシアの戦いが始まった。
* マルス視点 *
教官室に入ろうとした時だった。
「失礼致しました」
中から生真面目そうな声が聞こえたかと思うと扉が開き、
「――!?」
扉から出てきたエルフの少女が俺にぶつかった。
「っと……大丈夫か?」
その衝撃で倒れそうになった少女の手を引き身体を抱き寄せた。
抱き寄せた少女が顔をあげる。
目が合った。
(あれ? 眼鏡……?)
改めて見ると見覚えのある容姿だ。
それは少女も同様だったようで、
「――あ、あなたは……!」
「……ああ、昨日のエルフの」
そうだ。
彼女は、俺がここに来て最初にあったエルフの少女だった。
「い、いつまでこうしているのですか! は、離しなさい!」
飛び跳ねるように慌てて俺から離れた。
「昨日ぶりだな」
どこかで会うかもと思ってたけど、結構早い再会だった。
「……あなた、本当に転入生だったのね」
「そうだって言ったろ?」
未だに疑っていたのか。
「……あの時は、確かめもせず不審者扱いしてしまい申し訳ありませんでした。
でも、あんな格好でうろついていたあなたも悪いのだから、今後は学院内では必ず制服を着用しなさい」
命令口調。
俺と同じ生徒のはずなのに、教官たちよりも生活態度に厳しいようだ。
そもそもあの時は、俺は制服を持っていなかったのだけど、今それを言っても仕方ない。
「……ああ、気をつけるよ」
俺は素直に謝っておくことにした。
しかし、
「気をつけます。よ」
言葉遣いの指導が入った。
「気をつけます」
「宜しい」
直ぐに言いなおすと、森人の少女は満足そうに頷いた。
しかしまだ何か言い足りないのか、眼鏡の奥――翠石のような美しい二つの瞳が俺を見据えている。
そういえば、森人族の緑の瞳は上級森人の象徴などという話を聞いたことがあったけど、本当だろうか?
そんなことを考えていると。
「制服の着こなしは問題ないようね。
ただ、シャツのボタンはもう少し閉めた方がいいかしらね」
どうやら服装をチェックしていたようだ。
「と――失礼。まだ名乗っていなかったわね。三年のアリシア・レステントよ」
「二年に転入した、マルス・ルイーナだ」
「マルス君ですか。覚えておきます。
それじゃ、私はコミュニティの用事があるので、これで失礼しま――」
その時――
「か、会長!!」
男子生徒が慌ててアリシアの下に駆け寄ってきた。
「どうしたのですか?」
「正面玄関を出た先で、乱闘騒ぎが――」
「乱闘……? わかりました。直ぐに行きます」
男子生徒の報告を受け、アリシアはこの場を去った。
(乱闘騒ぎか……)
正面玄関って言ってたな。
「ラフィ、俺たちも行ってみようぜ」
「え……? ま、マルスさん、魔石は?」
「後でいいだろ」
アリシアの後を追う俺に、ラフィが慌てて付いてくるのだった。




