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職業無職の俺が冒険者を目指してみた。【書籍版:職業無職の俺が冒険者を目指すワケ。】  作者: スフレ
第一章――冒険者育成機関 『王立ユーピテル学院』
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授業初日⑩ 二人目の友達

 木製の濃い色のテーブルにトレイを置き食事を始めた。

 食事を終えた生徒が増えてきたのか、俺達の隣には誰も座っていなかった。


「なぁラフィ、さっきのはお前の魔術なのか?」


 肉の入っていない野菜たっぷりのシチューを食べながら、俺はラフィに質問した。

 明らかにラフィは何かをした。

 魔術だとすると、精神魔術なのだとは思うが。


「う~ん……本当は秘密なのですが、マルスさんには特別に教えてあげますね」


 シチューを掬っていたスプーンを置いて、


「ご推測の通り、あれは誘惑の魔術です」

「やっぱそうか。でも、ちょっと気になる点があった」

「気になる点とは?」

「誘惑の魔術もそうだが、精神魔術の類はどれもかなりの高難度だろ?

 それを大多数に対して同時に行使したってことか?」


 そんなことは、上級魔術師級ハイウィザードクラスの魔術師でも不可能のはずだ。


「ラフィたち兎人ラビット族は、力はありませんが、優秀な者と番いになる為に、誘惑の魔術だけは得意なんです」

「種族で誘惑の魔術を行使する為の特性みたいなものがあるってことか?」

「はい」


 素直に頷くラフィだったが、俺の疑問はまだ尽きない。


「だとしても、誘惑の魔術が女生徒にまでかかってたのはなんでなんだ?」


 女生徒が女であるラフィに誘惑されるのはおかしい。

 勿論、そういう性的嗜好を持つ者がいないとは言わないが、誘惑の魔術は、相手の感情を増幅させるものであって、その性的嗜好までを変えられるものではないはずだ。

 ラフィが行使した魔術は、誘惑ではなく精神支配や洗脳に近かったように感じたのだ。


「それは魔術ではありませんので」

「ん? というと?」

「男子生徒には誘惑の魔術をかけてお願いを聞いてもらいました。

 でも女子生徒に使ったのは女性を支配する技能スキルです。

 相手を技能で支配し命令を下しました」


 技能スキル――と聞いて、俺は合点がいった。


「ラフィは、技能保有者スキルホルダーだったのか?」

「はい」


 技能スキル――というのは、この世界の住人の持つ固有の才能のことだ。

 便利な能力という意味では魔術や魔法と同じだが、絶対的に違う点は、技能(スキルがなんの前触れもなく、『唐突』に『発現』するものだということ。


 技能の発現に意思は関係ない。

 望もうが望むまいが、気付けば発現し、その瞬間から発動することができるようになるのだ。

 もしかしたら、技能の発現には、なんらかの要因があるのかもしれないが、今現在でもその謎は解明されていなかった。


 生まれた直後に技能が発現している者もいれば、発現がないまま一生を終える者も少なくない。

 また、同一の『技能スキル』が二つ確認された例がないというのも、魔術と大きく違う点だ。

 技能スキルとは個人の才能なのだ。


 発現する能力は多種多様で、例えば治癒能力だったりとか、どんな施錠だろうと開錠してしまう能力だとか、身体を硬化できたりとか、役に立つものもあれば全く役に立たないものもある。

 発動には魔力は必要なく、技能によっては何の制限もなく連続で発動することが可能なものもあるので、能力によっては魔術以上に便利な力だろう。


 一部の技能保有者スキルホルダーはギルドや王族に重宝されると師匠アイネから聞いたことがあったが……。


(ラフィの技能スキルは、とんでもないな……)


 こんな便利な技能スキルは早々ないだろう。

 そして、使用者にとって有利な能力は、他者にとってはその逆となる。

 この技能が国やギルドに知られれば、どんな手段を用いてもラフィを欲しがるかもしれない。

 それは本人の意思を無視する形だとしても。


 俺はラフィの目を見た。


「あ、心配しないでくださいね。マルスさんには誘惑の魔術をかけたりしてませんから」


 何を勘違いしたのか、ラフィはそんな誤解をしていた。


「わかってるよ。それに、多分ラフィが俺に魔術を使っても、俺に効果はないと思うぜ?」

「う~ん、やはりそうですか。ラフィの魔力ではマルスさんのを精神防御を突破できませんよね……」


 精神魔術の欠点は、自分よりも魔力の低い術者にしか効果的ではない点だ。

 また、揺らぐことのない精神力を持つ者にも効果はない。

 所詮は魔術なので万能ではないのだ。


 ただ、技能スキルは違う。

 技能は魔術と違い、魔力で防ぐことが難しい。

 それが物理的なものでなければ余計に。


「ラフィ、その技能には何か制限はあるのか?」

「はい。制限は二つ。技能の発動対象が女性であること。男性相手には一切発動しません」

「男に対しての技能であれば、俺も支配されていた可能性があるわけだな」

「確かにそうかもしれません。この技能で支配されなかった対象者は今のところいませんから」


 つまりそれは、この学院の教官であってもということだろうか? 

 だとしたら、その技能が女限定で本当に良かった。


 そんな思いを抱きながらラフィを見ていると、


「でも、たとえそうだったとしても、ラフィはマルスさんに使ったりしませんよ。自分の魅力で振り向いてもらわなければ意味がありませんから」


 俺に向かって微笑むラフィ。

 その笑みからは純粋な好意を感じる。

 それは素直に嬉しいが、面と向かって言われるとやはり恥ずかしい。


「……恥ずかしいことを言うな。次だ次」

「えへへ、照れないでくださいよ。え~と、あ、制限の話でしたよね」

「一つは女にしか使えないこと。もう一つは?」

「もう一つは、同じ相手には一日に一度しか発動できないことです。例えば、朝の朝食の時間に発動すると、次に同じ相手に発動できるのは次の日の朝食の時間です」

「効果の持続時間と範囲は?」

「数分程度です。魔術と違い解除の言葉も必要ありません。範囲はラフィと目が合う距離にいることですね。目と目を合わせないと発動できません」


 かなり使い勝手のいい能力だ。

 使い方次第では女に対してはほぼ無敵と言っていいだろう。


「正直、かなり強力な技能スキルだという意識は持ってます」

「……力のこと、誰かに話たか?」

「いえ、マルスさんにだけです。ラフィが何かしていると気付いている方々も、魔術を使っているとしか思っていないと思います」


 それが妥当だ。

 身に余る力は身を滅ぼす。

 他者に利用されるか、危険因子として駆逐される。

 少なくとも兎人ラビットのラフィは戦闘力が高いわけではないのだ。


 だから、話を聞いてしまった以上は、


「マルスさん。もしラフィが、ラフィの力を利用しようとする悪いやつらに襲われそうになったら、きっと助けてくださいね」

「元からそのつもりで聞いたんだよ」

「え……」


 俺が即答するとラフィは目を見張った。


 そんなことは起こらない方がいい。

 でも、これだけ強大な力を持っているのでは、絶対にないと言いきれない。

 なら、


「守るさ。俺にとって、ラフィはもう他人じゃないからな」

「……え、そ、それは、どういう?」


 緊張したように頬が火照ったように上気し俺を見つめるラフィ。

 なんだか柄になく俺まで緊張してしまう。

 考えてみれば、こんなことを俺から言うのは初めてだ。


 ……少しの間を取り――俺は覚悟を決めた。


「ラフィ、俺と友達になってくれ」

「はい! ――……はい?」


 勢い良く首を縦に振った直後に、ラフィはそのまま首を傾げた。


「だ、ダメだったか?」


 俺にとって二人目の友達に、ラフィにはなってもらいたい。

 だが、反応は思わしくなかった。


「……い、いえ。ダメじゃありません」


 どうしてかラフィの顔は引きつっていたけど、


「それじゃあ、いいのか?」

「……はい。今日からラフィとマルスさんは友達です」


 こうしてラフィと友達になることができた。


「でも、明日には恋人、明後日には番いです」


 そんな冗談? いや――本音か? も混ぜつつだったが、俺は本当に嬉しかった。


「ありがとな」


 自然と俺は微笑んでいて、


「……少し残念ではありましたが……そうですね。マルスさんがそんなに嬉しそうな顔をしてくれるのなら、ラフィも嬉しいです」


 ラフィも笑顔を向けてくれた。

 その笑顔は、ラフィが見せてくれた今日一番の笑顔だったと思う。

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