リフレ・ロア
20181206 更新しました。
「……もう終わっちゃった。
やっぱり人間って弱いわ~……おもちゃにもならない」
宙を舞うワタシの首を見上げながら、退屈そうに口を開く。
今、蛇女はどんな顔をしているだろうか?
「さ~て、次の標的を探そうかしら。
逃げた生徒たちも……そろそろ他の奴らが狩り殺してる頃よね~」
メデューサが踵を返した。
既に殺した相手に既に興味はないのだろう。
元々、この戦いの勝敗は決していたのだ。
だから――この結果は仕方のないことだよね。
「――永遠の痛み」
戦いの途中で背中を向けた愚者に、ワタシは遠慮なく無詠唱で魔法を放った。
同時にメデューサの全身が黒い霧に包まれていく。
この魔法の効果は自らが受けている『痛み』を相手に与え続けること。
その効果はワタシの痛みが消えてなくなったとしても持続する。
「ぇ――うがあああああああああああああああああああああああっ!?」
蛇女は完全に油断していたのだろう。
本来なら避けることも可能だった。
にも関わらず、直撃してしまったのだから。
ワタシの放った魔法を受け絶叫を上げ地面にのたうち回っている。
でも、これも仕方のないことだ。
「――完全治癒」
続けてワタシは身体を拘束する石化を解く為、治癒魔法を使用する。
膝上までを蝕んでいた状態異常は、一瞬にして解けていた。
動けるようになったワタシはまず、
「よっと」
宙から落下してきた自らの首をキャッチした。
「……な、なん、でぇ……なに、を……」
苦しむ魔人を見ながら、ワタシは満面の笑みを浮かべた。
「合体~!」
ガッシーン! と首を嵌めた。
そして、
「完全治癒」
再び魔法を唱える。
切断された首は一瞬でくっ付き、出血も完全に止まっていた。
首を軽く動かしてみたが、痛みはもうない。
わたしはゆっくりと、絶望を噛み締めている蛇女に近付いていく。
「そ、そんな……」
「あ~痛かった」
ワタシを見る顔が恐怖に刻まれていく。
「お、お前は……し、死んだはず、じゃ……」
さっきまでの威勢はどこへ行ったのだろう。
「ふふっ……ふふふふうふふふあ~~~~~~はははははははははっ!」
「ひっ!?」
「ねぇねぇねぇねぇねぇ!!
今どんな気持ち~~~~?
勝ったって思ってたんでしょ?
自分のほうが強いって思ってたんでしょう!?」
ガタガタと狂った人形のように魔人が震えていく。
あれ? もしかして本当にもう終わりなの?
だとしたら、本当につまらない。
「そういえば……あなたさっき人間って弱っちいって言ってたよね?」
「ああああああ、そそそそそれは……」
「おもちゃにもならないって言ってたよね?
ならあなたは――おもちゃくらいには、なるのかな?」
「!?!??!?!?!???!」
もう言葉すら出せなくなってしまったみたいだ。
でも、面白いな~。
本当に壊れたおもちゃみたいになっている。
「どこまでがんばれるか……試してあげる……」
動けなくなった魔人に対して、ワタシは持っていた杖を振り下ろした。
ボゴボゴボゴボゴボゴ! グチャチャグチャグチャグチャ!!
「あ……ぎゃ……ぐえっ!?」
「きゃはははははははっ!」
魔人の呻き声ってレアだよね。
でも、よわっちぃ……よわっちぃなぁ。
ボゴボゴボゴボゴボゴ! グチャチャグチャグチャグチャ!!
ボゴボゴボゴボゴボゴ! グチャチャグチャグチャグチャ!!
ひたらすらに殴打を続けているうちに、魔人はピクピクと身体を震わせて虫の息になってしまっていた。
「どうしたの? 反撃はしないの?」
「も、もう……こ、ろ……」
「や~だ!」
ワタシは無詠唱で魔法を使った。
それは彼女を殺す為のものじゃない。
「ぁ……ぁぁ……」
「よかったね、怪我が【少し】だけ癒えて」
「ああああああっ……ああああああああっ!?」
「ワタシの首をぶった切ってくれたんだから――もう少しお仕置きだよ」
ボゴボゴボゴボゴボゴ! グチャチャグチャグチャグチャ!!
ボゴボゴボゴボゴボゴ! グチャチャグチャグチャグチャ!!
※
生徒たちには見せたことのない残虐性が、このリフレ・ロアの本質である。
その二つ名は――不死者。
とはいえ殺す方法がないわけではないが、生半可なダメージはリフレにとって意味のないことだった
ちなみにラーニアはリフレにとっては最大の天敵で、彼女の切札の一つであるインフェルノは相手を殺すまで消えることのない炎……であることから、不死者であるリフレは最悪の苦しみを味わうことになってしまう。
学生時代から天才と言われた二人の生徒――そのライバル関係は今も続いている。
というのは余談ではあるが……。
※
「さ~て、気分すっかり晴れたし~……死んじゃえ」
ボゴン!!
断罪の鉄槌を振り下ろした、砕け散った魔人の頭部を見て、リフレは満面の笑みを浮かべている。
「あ~楽しかった。
でも……血を流し過ぎたなぁ……ワタシも調子にノリ過ぎちゃた……」
死なない。
その絶対的なアドバンテージがあったからこその油断。
これは、魔人如きに自分が負けるわけがないという慢心が招いた結果だ。
「まぁ……でも、ラーニアちゃんにマルスくんもいるから、大丈夫かな。
あとはヨーウェも来るって言ってたし……」
それに学園長がいる。
ラーニアとリフレ――学生時代の二人の教官でもあった英雄カドゥス・ライナー。
最強の一角とされる冒険者の力をワタシはよく知っているから。
「……とりあえず、石化されちゃったシーリスくんを助けに行かないとね~」
重い身体を一歩一歩進めながら、リフレは三年の教室に向かったのだった。




