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職業無職の俺が冒険者を目指してみた。【書籍版:職業無職の俺が冒険者を目指すワケ。】  作者: スフレ
第一章――冒険者育成機関 『王立ユーピテル学院』
20/201

授業初日⑨ ラフィと昼食

15 8/24 サブタイトルを変更しました。

「マルスさん、一緒にお昼を食べにいきませんか?」


 戦闘教練室を出て一階まで下りてきたところで、ラフィが俺に声を掛けてきた。


「あれ? もう昼の時間なのか?」

「はい。本当はラフィの特製弁当を食べて頂きたいところなのですが、今日はあいにく何も持ってきていなくて……だから、一緒に食堂まで行きましょう!」

「学院内にも食堂があるのか。エリシア、お前はどうするんだ?」

「……」


 後ろにいるエリシアに声を掛けたが、考えごとでもしているのか返答がない。


「お~い、エリシア~」


 俺が足を止めて声を掛けると、


 ――ドン。


「わっ――」

 エリシアが俺の胸に突っ込んできた。


「大丈夫か? ぼ~っとして、どうしたんだよ?」

「ご、ごめん」


 慌てて俺から離れるエリシアだったが、その顔は赤く染まっていた。


「それで、エリシアはどうする?」

「どうするって……?」

「マルスさんと、食事に行こうって話をしていたんです」

「え――あ、もう昼食の時間なのか……」


 エリシアは少し考えるような素振りをして、


「ごめん。ボクは遠慮しておくよ」


 誘いを断った。


「体調が悪いのか?」

「いや、そういうわけじゃないんだよ。ちょっと考えたいことがあって」


(考えたいことか……)


 俺は先程の訓練を思い出していた。

 魔術を使えなくなったと言っていたエリシアだったけど、さっきの訓練ではエリシアが魔術を行使できた。

 考えたいことってのは、その辺りが関係しているのだろうけど。


「マルスさん。エリシアさんもこう言ってることですし、今日は二人で行きましょう」


 なぜかご機嫌なラフィが俺の腕に抱きついてきた。


「折角誘ってくれたのにごめんね。早く行かないと食堂もいっぱいになっちゃうと思うし、今日は二人で行ってきて。それじゃあ」


 それだけ言うと、エリシアは俺達に背を向けた。


「さ、マルスさん。食堂までご案内します」


 エリシアのことは気になったが、今はまだ余計な口は挟むべきではないのかもしれない。

 極力自分の力で解決すべきことだとエリシアが考えているうちは。


 俺が口を出すのはエリシア自身に助けを求められた時でいい。


(とりあえず、切っ掛けを与えることはできたしな……)


 俺はラフィに引っ張られながら食堂に向かった。




* エリシア視点 *




 マルスたちと別れ、ボクは教官室に向かった。


「失礼します」


 ノックをして教官室に入ると、教官数人の視線がボクに向いた。

 その中にはラーニアの姿があった。


「どうしたの?」


 そう声を掛けてくれたラーニア教官に、


「昼休みの間、戦闘教練室を使わせてもらえませんか……?」

「今?」

「はい。試したいことがあって」


 久しぶりに魔術を行使することができたあの感覚。

 それを忘れないうちに訓練しておきたい。


 ボクの言葉にラーニア教官は少し逡巡していたが、


「……わかった。ただし、あたしも付いていくわよ」

「休憩中に申し訳ありません。お願いします」


 条件付きの提案だったが、ボクは迷わず承諾した。




* マルス視点 *




 俺はラフィの案内で食堂に向かっていたのだが、今の時間はやけに人通りが多い。

 走っている生徒もいるし、なんだかそわそわ慌しかった。


「ちなみにここは三年生の教室です」


 途中、通りがかるとそんな説明をしてくれた。


「三年生の教室を真っ直ぐ進むと食堂があるんですよ」


 三年の教室は、二年の教室を出て右に真っ直ぐ進んだ先にあった。


「一階にある生徒たちの教室の中で、食堂に一番近いのは三年の教室ってわけか」

「はい。力あるものが優遇されるべきというこの学院の考えが顕著に出ていますね」


 雑談をしながら俺達は三年の教室を真っ直ぐに進んで、


「ここが学院の食堂です!」


 直ぐに食堂はあった。

 出入りが多いのか、扉は開きっぱなしになっている。

 室内はかなり広く席数も多いが、既にかなり埋まってしまっていた。


「う~ん……かなり並んでますね」


 ラフィが不満そうに言葉を漏らした。

 昼食を求める生徒でカウンターは混雑している。


「野菜たっぷりシチュー一つ!」

「おい、お前足踏んだぞ!」

「ちょっと、あたしが先に並んでたのよ!」


 今にも生徒同士で戦闘バトルが勃発しそうだ。


(宿舎の食堂よりも酷いな……)


 全学年が利用するのだから、それは当然かもしれないが、流石にこれではのんびり食事をしている暇はなさそうだ。


(よし、ここは俺がラフィの分も取ってきてやるか……)


 そう思い、人の渦に足を踏み込もうとしたのだが、


「マルスさん、ここはラフィにお任せ下さい」


 気合を入れるみたいにグッ――と両手を握って、ラフィは俺に宣言した。


「お任せって、どうするんだよ?」

「今日のメニューで、マルスさんが一番食べたいのはどれなのでしょうか?」

「今日のメニューの中で……?」


 言われて俺はメニューを見る。

 したのだが、あまりの人込みにメニューが確認できない。


「き、嫌いなものは特にないが……大丈夫なのか? 無理そうなら俺が取ってくるが?」

「大丈夫です。マルスさんはここで待っていてくれればいいですから」

「お、おい――」


 止める間もなく、意気揚々とラフィは混雑中のカウンターに向かって行った。

 本当に大丈夫だろうか?

 そんな俺の心配を他所に――一人、また一人と生徒達がラフィに道を譲っていく。

 するといつの間にか、ラフィはカウンターの一番前まで辿り着いていた。

 順番で争いかけていた連中が、今では静かに列を作っている。


(どういうことだ……?)


 料理を受け取って、ラフィはゆっくりと俺の下に戻ってきていた。

 トレイの上には二つシチューが載っている。


「マルスさん、お待たせしてすみません!」

「いや、全然待ってないぞ。というか、予想外に早くて驚いたくらいだ」

「ふふっ~もしかして、見直しましたか? 惚れ直しましたか? 番いになってくれますか?」

「……取りあえず、どこか席に座ろうぜ」

「あ、そうだ。その前にちょっと待ってもらえますか?」


 言って、ラフィは俺に背を向けた。

 制服のスカートからは、兎人族特有の短い尻尾が飛び出している。


「――恋の病は解ける」


 そう聞こえた。


「では、行きましょうか」


 持つぞ。と、俺はラフィからトレイを受け取り、空いている席に向かった。

 直後――


「おい! 先に並んでたのは俺だぞ!」

「だまれ! 早いもんがちだ!」

「きゃっ、ちょっと押さないでよ!」


 背後から再び騒々しい声が聞こえてきたのだった。

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