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職業無職の俺が冒険者を目指してみた。【書籍版:職業無職の俺が冒険者を目指すワケ。】  作者: スフレ
第一章――冒険者育成機関 『王立ユーピテル学院』
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冒険者育成機関――王立ユーピテル学院への入学①

 早朝から随分歩いてきたが、まだ日の高いうちに目的地に到着できた。


(それにしても、凄い場所だな……)


 目の前に広がる広大な敷地は、壮観な噴水と美しい庭園で色鮮やかに彩られているが、一番衝撃的なのは、見るだけで圧倒される荘厳な巨城が聳え立っていることだった。


(……ここには王様でも住んでいるのだろうか?)


 とてもじゃないが、ここは冒険者を育成する為の学院とは思えない。

 俺自身、もっと質素で安っぽい建物を想像していたのだ。


(こんな建物じゃ、冒険者を育成するより、

 貴族がダンスをしている方がよっぽどお似合いだな……)


 そんな皮肉めいたことを考えていると、


「そこのお前、何をしている!」 


 如何にも神経質そうな声が、背後から聞こえた。

 振り向くと、耳の尖った女――黒髪碧眼の森人エルフが、睨むように俺を見ていた。


「ここの生徒ではないわね?

 格好からすると……冒険者?

 その割には、若すぎる気もするし、装備も軽装過ぎるわね?

 変質者や盗人であれば、即刻取り締まるところなんだけど……?」


 値踏みするように視線を上から下に、下から上に見られた後、キリッとした瞳で見据えられる。


(真面目そうなヤツだな……)


 目の前のエルフに対する第一印象。

 しかも真面目を通り越し、生真面目だと感じた。

 声の性質からして神経質そうだし、『堅物』ですと物語るような容姿をしている。


 印象的な黒過ぎる黒髪は肩の辺りで綺麗に揃えられ、前髪は目に掛かること無く寸分の狂いもない程にパッツンと切られていた。


 切れ長で吊り気味の目には楕円状の眼鏡が掛けられていて、彼女の真面目な雰囲気をより一層引き立てている。


 服装もだらしなさなど微塵も感じさせず、白を基調とした服にアクセントとなる赤いリボンが少し苦しいのではないかと思えるくらいしっかりと結ばれていた。


 下は……スカートで、少し短い気もするけど、このくらいの方が動き易いのだろう。


「わ、私をじっと見つめて、やはり変質者!?」


(おっと……)


 思わず凝視してしまっていたようだ。


「悪い悪い。どうも都会は不慣れでな。

 どこを見てもあまりにも壮観だったから思わず呆けちまった。

 一応、今日からここの生徒になる――マルス・ルイーナだ、宜しく頼む」


 軽く自己紹介を済まして、俺は手を差し伸べた。が、その手は握られることはなく、代わりに訝しむような視線が向けられる。


「新入生というわけ? おかしいわね? 私が何も聞かされていないなんて」

「おかしいって、なんでだ?」

「なんでって、私はこれでも――」


 目の前の少女が何か言おうとした瞬間、


「マルス!」


 門の中から俺を呼ぶ声が聞こえた。

 その気の強そうな声には聞き覚えがあって、


「ラーニア、約束通り来たぜ」


 目の前の赤髪の女性は、俺をこの冒険者育成機関『王立ユーピテル学院』に呼んだ張本人だった。

 ここの教官という話は嘘ではなかったようだ。

 ……もしあの話が真っ赤な嘘だったら、目の前の女に変質者扱いされるところだったな……。


 内心苦笑していると、ゴゴゴ――と、重々しく門が開いた。


「待ってたわよ。学院長に紹介するから付いてきなさい」

「ああ」


 言われるままに、俺が彼女に付いていこうとしたところで、


「教官! その男が新入生というのは本当なのですか!」


 如何にも不満そうに『納得いかない!』という表情で少女は言った。

 俺がこの学院に入ることに、何か問題があるのだろうか?


「そうだけど、どうかしたのかしら?」

「……いえ、失礼しました」


 ラーニアの言葉に、エルフの女は渋々といった様子で引き下がった。


「話がないなら、もう行くわよ」


 言ってラーニアは再び歩き出した。

 俺はその後に付いて歩きながらも、背後から敵意をぶつけるような視線を感じていた。


「俺、何か怒らせるようなことしたかな?」


「そういうわけじゃないと思うわよ。ただ、納得いかなかったのでしょうね」


「納得?」


「ええ、あんたみたいに、中途半端に入学してくる子は珍しいのよ」

「それって、何か問題があるのか?」


 その程度の理由で敵視されるなんて、たまったもんじゃないぞ。と俺が思っていると、そんな内心を察したのか、ラーニアは簡単な説明をしてくれた。


「一般の教育機関であれば珍しいことじゃないでしょうけど、ここは冒険者の育成機関なのよ」


「それは知ってる。でも、だからってなんで敵視されることになるんだ?」


「この学院には本来厳しい試験がある。

 一般の学校のような学力試験だけではなく、戦闘知識や実技の試験もあるわけ。

 ここに入学できた生徒は、その試験を受けて見事合格した生徒だけ。

 でも稀に、試験を免除されて推薦入学する生徒がいる。

 そして、この学院では推薦以外では編入は許されてないってわけ。

 つまり、こんな時期に編入生がいたらその生徒は誰の目から見ても明らかな推薦枠なのよ。

 当然、厳しい試験を免除されるほどだから、推薦された生徒は学院長を始め教官方のお墨付きばかり。ちなみに授業料も一切無料」


「つまり、推薦されてここに入学した学生はエリートってことか?」


「そういうこと。

 そしてこの学院は育成機関でもあると同時に競争社会でもある。

 優秀な生徒は大手のギルドや国の諜報機関なんかにもお呼びがかかるけど、劣等生は未来が潰えるかもしれない。

 だから、一般入試の生徒からすれば、推薦枠の生徒は羨望の対象であると共に、嫉妬の対象でもあるわけ。理解できた?」


 なるほど。と俺は首肯した。

 あの少女が俺に敵意を向き出しにしていた理由も納得できた。


「良くも悪くも、こんな時期に入学したあんたは目立つことになるってわけね。

 ちょっとしたやっかみとかあるかもしれないけど、煩わしいようなら自分の実力でなんとかなさい。

 生徒同士のトラブルなら、あたしら教官は極力手は出さないことになってるから」


 その辺りの実力行使も含めて、ここでの成績に影響すると考えていいわけか。


「意外と面倒な場所かと思ったけど、実力行使してもいいなら問題はなさそうだな」

「ま、ほどほどにしときなさいよ。死なない程度にね」


 そう言ってウインクしてくるラーニアだったが、

 曲がりなりにも教官が生徒に実力行使を呼びかけるとは、

 冒険者育成機関というのは俺が思っていたよりも遙かに面白い場所のようだ。


 しかも、ここには俺と同年代の生徒が大勢いる。

 一般的な教育機関――学校などで教育を受けていない俺にとっては、これから同年代に囲まれ生活を送るという事実にわくわくしていた。


「しかし、本当にこの城が学院とはな……」


 俺とラーニアが学院の敷地を歩いて暫くした頃、学院と呼ばれている城が俺の目の前にあった。


「敷地内の建物で、他にそれらしいのはなかったでしょ?

 他の建物は、ここに比べれば随分小さいものばかりだしね」


 学院内に入り真っ直ぐ進み階段を登っていく。二階、三階、四階、五階――。


 一体、どれだけ多くの部屋があるんだ……?


 俺の疑問に答えるように、ラーニアは各階にある施設の説明をしてくれた。

 各学年の教室だったり、戦闘訓練や魔術の実験をする為の施設や教官室などなど、説明されたことを頭に叩き込んでいった。

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