魔族一掃
20181106 更新しました。
ありえないほどの膨大な魔力の波動が、学園内から発生している。
(……一つは学園長で間違いない)
入学試験の際に感じた底の見えない感覚を、俺は今も覚えている。
だが……異常なのはそれに匹敵する強大な力が複数あることだ。
勿論、学園長が負けるとは思えない。
だが――複数の敵を相手に生徒たちを守り切れるのか?
もしあの爺さんが、魔人を討伐する為であれば、多少の犠牲は厭わない……と考えているのであれば……もう一切の猶予はない。
(……学園にはリスティーをはじめ、何人か教官たちも残っているとはいえ……生徒たちを守りきりながらの戦いは困難を極めるはず)
エリーたちが無事なのか。
焦燥感を感じながらも、俺は全速力で駆け抜けていく。
そして学園の正門前に辿り着いた……のだが……。
「っ……」
見上げるほどに巨大な正門がなくなっていた。
学園長が張っていたはずの防御壁も、完全に消失している。
地面は消し飛び、クレーターのような跡が残っていた。
それだけではない。
校舎の一部は破壊され瓦礫が校庭に崩れ落ちている。
周囲には硝煙の匂いが漂い、庭園は焼け焦げていた。
そして――強大な魔力の波動は校舎内から放たれている。
魔族の襲撃は既に……。
「あちゃ~……酷いね~、これは……」
「んなこと言ってないで急ぐわよ。
残ってた教官が生徒たちを避難させているでしょうけど……最悪の可能性も覚悟しておかなくちゃいけない」
ラーニアの言う最悪。
それは生徒たちが魔人に殺されていること……だろう。
もしエリーやラフィ、ルーシィ、ルーフィにセイル……俺の友人たちに万が一があれば――。
「マルス!」
「……なんだ?」
「殺気を抑えなさい。
そんなの垂れ流してたら敵に気付かれるでしょうがっ!」
教官は俺を諭すように口を開いた。
その表情は今までにないほど真剣だ。
「……すまん」
「いいじゃん、ラーニアちゃん。
どうせ魔族たちは全員……ぶっ殺しちゃうんだから」
言ってリフレは、満面の笑みを浮かべながら、異常なほどの殺気を漏らす。
明らかに相手を誘っていた。
来られるものなら来てみろ……と。
「はぁ……あんたね」
「ラーニアちゃんだってムカ付いてるでしょ?
学園をこんなにされて……今までさ、ワタシたちやられっぱなしだったわけじゃん」
窘めるように口を開いたラーニアだったが、リフレの言葉に好戦的な笑みを浮かべる。
「ま……そうね。
マルス――あんた先に行きなさい。
エリシャたちのことが気になってるんでしょ?」
ここは自分たちに任せろ。
ラーニアとリフレはそう言った。
当然、エリーたちのことは心配だ。
が、
「いや――どうせ校舎に向かうんだ」
俺は疾駆する。
襲撃が事実だった以上、もうモタモタしている暇はない。
中庭を駆け抜けていくと、校舎内から複数の魔族――魔物が姿を現した。
その中に一つ大きな気配がある。
額の辺りに二本の角。
人型ではあるが……人間とは違う。
(……あれが魔人か?)
目標を視認して俺は突き進む。
「貴様ら敵を迎え撃て! この先には決して通すな!」
魔人?らしき角持ちの命令に従い、魔物たちが一斉に俺に襲い掛かってきた。
俺は魔石に魔力を流し武器を形成した。
そして、
「――風刃」
加速の勢いを利用し大剣を薙ぐと、強烈な風圧と風の刃が魔物に襲い掛かり魔物を切り裂いていく。
十数体は召喚されていたであろう魔物たちは、その刃を受けて一瞬で消滅していた。
魔人?はその光景を呆然と見つめている。
「っ……やるではないか。
だが、魔人ルディア様の臣下であるこのライアーを相手に――」
「お前、気付いてないのか?」
「ぇ……?」
「今の一撃が見えてなかったんだな」
俺は立ち止まることなく、ライアーの前を通り過ぎた。
そして、
「あ、あ……ぁああああ?」
叫び声を上げながら、ライアーの首から上がゆっくりと地面に落下した。
自分が死んでいることに気付けただけ、こいつは強かったのかもしれない。
だが魔人の配下……ということは、ライアーは魔人ではないのだろう。
「――ラーニア、リフレ、行くぞ!!」
「ったく……一人で無茶するんじゃないわよ」
「ふふっ、いいね~。
マルスくん、強いじゃん!」
応戦に来た魔族を片付け、俺たちは校舎の中に入った。