戦火の狼煙
20180724 更新しました。
「行くって――あんたギルドは!?」
信じられないくらい軽い発言に驚いたのか、ラーニアは声を荒げる。
ギルドマスターが軽率な行動を取るな……という意図が、彼女の言葉には含まれている気がした。
「大丈夫だよ。
私がいない間は、サクノによろしく頼んでおくから」
「……いきなりそんなこと言ったら、あいつも頭を抱えるでしょうに」
ラーニアたちの口振りからすると、サクノ……というのはギルドの仲間のようだ。
「私の部下は優秀なんだ。
ラーニア……勿論、キミも含めてね」
「……だから自分がいなくても大丈夫だと?」
「そうさ。
それにね、マスターがいなくなるだけで統率が取れないようなら、ケラノウスはギルドとして終わりだよ。
いつまでも私が現役でいられるわけじゃないんだからね」
「それらしいこと言って……書類仕事から逃げたいだけなんじゃないでしょうね?」
「……まぁ、それもあるね。
でもね、ラーニア……万一、私の悪い予感が当たったとしたら……戦力は少しでも多い方がいいと思わないかい?」
「それは……」
学園を襲う魔族の戦力――その規模が不明な以上、実力者が多いに越したことはないだろう。
「いいじゃん、ラーニアちゃん。
雷帝が来たいって言うなら、来てもらえばいいよ。
それにちょっと確認して何事もなかったらしゅばばっと帰ればいいわけだしさ」
「あんた……他所のギルドのことだからって――」
リフレの発言に、赤髪の教官は頭を抱えた。
「そうそうだ、リフレの言う通りだ!
とにかく私は行く!
もうそう決めたから、何を言ったて無駄だよ」
パチン――と、ヨーウェはウィンクする。
容姿が中性的な為、こういう態度を取られると女に見えなくもない。
本当に男なのか? と少し疑いたくなるくらいだ。
「はぁ……なら、ちゃんとサクノに伝えてきなさいよ。
黙って出掛けたら大騒ぎになるだろうから」
「はいはい。
ラーニアも口うるさくなったねぇ……。
新人冒険者の頃は考えるより行動だったキミが――」
「生徒の前で昔の話はやめてくれるかしら?」
「ふふっ……承知した。
では許可を取ってくるとしよう。
直ぐに追いつくからキミたちは先に行ってくれ」
部屋の主人に言われ、俺たちはギルド――ケラウノスを出た。
※
「いや~まさか雷帝がユーピテル学園に来るなんてね~。
生徒たちびっくりするんじゃないかな?」
「目を疑うでしょうね。
Sランク冒険者に会う機会なんてプロの世界でも早々ないもの」
俺たちは直ぐに町を出た。
万一……ということもあるが、ヨーウェの推測が当たる可能性はゼロではない。
何より俺は学園長の真意を知りたくなった。
自身の能力に圧倒的な自信があるとはいえ……学園には多くの生徒がいる。
そんな中、学園付近……もしくは内部で魔人とやり合うというのは……。
」
「なぁ……ラーニア、ヨーウェの話、どう思う?」
どうにも違和感を拭えぬ俺は、教官に尋ねた。
「少し突飛だと思うわ。
確かに魔人の脅威を直ぐにでも排除したい気持ちはわかるけど……生徒を危険に晒すような軽率な手を自ら取るとは思えないわ」
「それはワタシも同意かなぁ……。
でも、学園長もたま~に信じられないことするからね~」
二人教官共に……ヨーウェの推測は外れていると考えているようだ。
「でも……あいつの勘は結構当たるから……それだけは不安ね」
「どちらにせよ……学園長に話を聞いたほうが早いよ~」
確かにリフレの言う通りだ。
それに万一、学園が魔族の襲撃に合っているなら――みんなが心配だ。
「走るか」
「……そうね」
「OK」
俺たちは疾駆する。
胸に感じる嫌な予感を――一刻でも早く打ち消す為に。
※
だけど――
「……リフレ、あれは!?」
「あちゃぁ……当たっちゃったか……」
学園の付近まで戻った時、俺たちが目にしたのはまるで戦火を告げるように天高くに上がる狼煙。
何があったのかはわからない。
だが――あれを目にしてのんびりと突っ立っているわけにはいかなかった。
「――ラーニア、先に行くぞ!」
「ま、マルス、待ちなさい!!」
その制止を振り切り、俺は全力で走った。
俺たちは過信していたのかもしれない。
学園長――大陸の英雄と言われるカドゥス・ライナー。
最強の一角と言われた冒険者がいる限り――何も問題ないと。
絶対などないということを――俺は知っていたはずなのに。
(……みんな、無事でいてくれよ)
今はただ、そう願うことしかできなかった。