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ケラウノス

20180427 更新1回目

            ※




「止まれ!」


 町に入ろうとした俺たちだったが、町の衛兵に引き留められた。

 まだ若い男だ。

 年齢はユーピテルの生徒たちとそう変わらないのではないだろうか?


「何かしら?」


「何か身元を証明できるものはあるか?

 なければ町に入れるわけには行かない」


「へぇ……随分と厳重にガードしているのね。

 これも魔族たちの影響かしら?」


 学園が魔族に襲撃された……という話は既に外にも広まっているようだ。


「わかっているのなら話は早い。

 現在、町の入出は厳重に管理されている」


「へぇ……国もかなり慎重になってるんだね~」


 それだけ魔族という存在を警戒しているのだろう。


「……幸いまだ町に被害は出ていないがな。

 だが魔族の出現というのは、少なからず国民に動揺を与えている。

 我々はギルド――ケラウノスと連携して町の警備にあたっているのだ」


「まぁ、それが無難でしょうね。

 それにケラウノスのメンバーがいる以上、魔族もそう簡単にこの町は攻められないでしょ?」


「ああ……。

 随分と詳しいようだが……まぁ、その通りだな。

 大陸のギルドの中でも、ケラウノスは武闘派が多く集まっているらしいからな」


 なるほど。

 声には出さなかったが、俺は思わず納得してしまった。

 ラーニアが所属しているわけだからな。


「きゃははっ!

 乱暴者の集まりってことだね。

 正にラーニアちゃんにピッタリのギルドだ」


 リフレがからかうように笑った。

 その発言に衛兵は首を傾げる。


「……?

 どういうことだ?」


 衛兵は、ラーニアがケラウノスのメンバーだと知らないのだろう。


「……あなた新人よね?」


「そ、そんなことはどうでもいいだろ!」


 図星だったのだろう。

 衛兵は目を丸め動揺を見せた

 そんな男の前で、ラーニアはショートパンツのポケットから何かを取り出した。


「また会うかもしれないから、覚えておいてほしいわ」


「は……なっ!?

 ら、ランクAの冒険者!?

 しかもケラウノス所属!?」


 彼女が取り出したのは、冒険者ライセンスだった。

 それを見て、新米は驚愕している。

 言葉なく呆然とする衛兵を見て、ラーニアは苦笑した。


「どうする?

 念のため、ギルドに所属を確認してもらって構わないけど?」


「は!?

 い、いえ……し、失礼いたしました!

 お、お通りください!」


 先程の厳しい態度はどこへやら。

 衛兵はサクッと町の中に俺たちを通してくれた。


(……身分証明って大切なんだな)


 これまでの人生で必要だと思う機会はなかったが、使い道はありそうだ。

 冒険者をするしないはさておき、ライセンスは取っておいたほうがいいかもしれない。 これほど簡単に、他者を信用させることが出来るのだから。


「そう。

 ありがとう」


「新人くん、お仕事がんばってね~!

 あと、あまり他人を信用しすぎちゃダメだよ~。

 もうちょっと疑うくらいでちょうどいいから」


 リフレがそんなアドバイスをすると、衛兵ははっとした様子で深々と頭を下げた。


「……ランクAの冒険者の信頼は絶大なんだな」


 歩きながら、俺はそんなことを口にした。


「Aランク自体、そんなに多くはいないんだよ~。

 Bランク以上は冒険者の中でもエリートって感じじゃないかな?

 って、自分で言うと恥ずかしいけどね~」


 そう言いながらも、リフレは全く照れた様子はない。


「ランクは強さの証明なのか?」


「そう考えてもらって差し支えはないわ。

 あんたも将来的に冒険者になる可能性があるわけだから説明しておくけど、実績と実力が考慮されることで、ランクは上がっていくのよ」


 つまり修羅場をくぐってきた証明ってわけだ。


「ちなみにその上にはSランク冒険者がいるんだよ~。

 現存するSランク冒険者は8人。

 雷帝はその一人だね」


「たった8人しかいないのか?」


「ええ。

 でも、1人1人が大陸を滅ぼせるほどの戦闘力を秘めていると言われているわ」


「そんな奴らが8人もいて、今まで魔族を見つけられてないのか?」


「動けてはいないのよ。

 国家間の政治的な事情もあってね」


「政治?」


「要するに人の敵は魔族だけじゃないってことだよ」


 つまりSランク冒険者は他国に対する牽制ということか?

 だからこそ勝手に動かれては困ると?


「ま、政治的な話はおいおい授業でするわ。

 でもね、マルス。

 一つだけ覚えておいて。

 社会の枠組みで生きていくことになれば、強い力を持つ者は、正しく力を使う責任を負わされることになる」


 ラーニアの発言は、どうにもピンとこない。

 俺の力は生き抜く為に手に入れた力だ。

 いや、アイネから与えられた力だ。

 俺にとって力は、自分の為に使うものだった。

 だけど今はそれだけじゃない。

 今の俺の力は大切な友達を守る為の力でもあるのだ。

 それは力を正しく使っていることになるのだろうか?


「今は頭の片隅にでも入れてくれればいいわ。

 忘れられるようなら、それが一番いい」


「……そうか」


 微笑するラーニアに、俺は頷いた。


「ラーニアちゃん、そういうのは自分でいつか理解するものだよ。

 アドバイスはいいけど、過保護になり過ぎないようにね」


「なってないわよ」


「そうかな~?

 まぁ、彼くらいの実力者ならしっかりと育ててみたくなるのもわかるけど……」


「一応……マルスはあたしがスカウトしてきた生徒だからね」


「でも、本当にそれだけ~?

 教官と生徒という立場から、いつの間にか恋の炎が燃え上がったりなんてしちゃったりし――」


「馬鹿!」


「ヘバッ!?」


 ゴツーン!

 暴力教官に拳骨されて、魔女娘は涙目になっていた。


「無駄話してないで、さっさとギルドに行くわよ」


 言ってラーニアは歩く速度を上げた。




        ※




 人々が行き交う町並み。

 活気溢れる声は雑踏となり耳に響いた。

 そんな中、俺たちは人波の一部となり足を進めていく。

 すると、町の中で一際大きな建物を見つけた。


「ここがギルドの本部よ」


「随分とデカい建物だな」


「ケラウノスは大陸に存在するギルドの中でも、かなり大きいほうだからね~」


 ユーピテル学園ほどではないが、一般的な家と比べると10倍ほど大きさだろう。


「町中の人々からの依頼が来るわけだからね。

 冒険者だけじゃなく、それを処理する為のスタッフも大勢いるのよ」


 言いながらラーニアはギルドの扉を開いた。

 すると建物の中には、多くの人々が見える。

 受付に並ぶ列だけでも長蛇の列になっていた。

 このペースで依頼が殺到しているのなら、冒険者たちは大忙しに違いない。


「……このまま雷帝の下まで行くわよ」


 そう言って歩き出すラーニアの背中を、俺とリフレは追った。




           ※




 階段を上って左に真っ直ぐ進んで行く。

 すると突き当たりに扉があった。


「ここよ」


 ――コンコンコン。

 ラーニアが扉をノックした。

 すると、


「どうぞ」


 声が聞こえた。

 想像していたよりも若い……というか、高い声だった。

 返事の後、ラーニアはドアの取っ手を持ち扉を開いた。

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