ザンスブルグの町へ
20180321 更新1回目
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魔族の一件があって以降、学園から出るのはかなり久しぶりだった。
俺たちは今、ザンスブルグという町へ向かっている。
そこにラーニアが所属するギルド――『ケラウノウス』があるらしい。
「……なぁ、ラーニア。
雷帝っていうのは、どんな奴なんだ?」
「前に少しだけ話したでしょ?
あたしの所属するギルドのトップにして、最高の冒険者の一人」
「めちゃくちゃ強いよ~。
過去に英雄と呼ばれた人たちと比較しても劣らないくらいにね」
ラーニアだけでなく、リフレも雷帝の事は知っているようだ。
英雄と聞くと学園長の姿が思い浮かぶ。
「学園長と比べたらどっちが強いんだ?」
「……今であれば……もしかしたら雷帝が上かもしれないわ」
「現役の冒険者だからね。
しかも向こうは、今が全盛期って言っても差し支えないだろうし」
あの爺さんよりも上か……。
「……正面からやりあったとしたら……あたしが本気で殺しにかかっても、勝率は2割ってとこね」
「ワタシとラーニアちゃん、二人がかりで5割ってとこかなぁ。
勿論、本気でぶっ殺そうとしてって話ね」
さっきから殺すという言葉が連呼されて若干穏やかではないが、ラーニアもリフレもトップクラスの冒険者だ。
その二人にここまで言わせるのだから、とんでもない化物なのかもしれない。
「まぁ……仮定の話だよ。
学園長だって全く底が見えない。
雷帝だって同じだね。
そして、ワタシやラーニアちゃんが二人に絶対に勝てないかって言えばそうじゃない」
「ラーニアは勿論だが、リフレもかなり強そうだもんな」
「ふふ~ん。
マルスくんはまだまだ若いなぁ。
単純な強さって話じゃないんだよ。
一流の冒険者はね、みんな切り札を持ってるんだ。
そしてその切り札を見せる時は……相手を確実に殺す時だけ。
逆に言うなら、それを防がれたら負ける時だね」
切り札……そういえば、ラーニアも言っていたな。
相手を確実に殺す為の一撃。
二人とも何らかの手札を隠し持っているってわけだ。
俺も同じだ。
師匠に使うことを禁じられているが……俺には切り札となる固有技能があった。
これは俺にとって切り札と言える力だろう。
「もう仮定の話はいいでしょ?
全ての手を尽くして最後に生き残っていた方が強い……けど、それを確かめる事は多分ないわ」
「だね~。
相性の問題もあるし」
「そうね。
あたしたちが戦っても無駄なのと一緒よ」
「まぁね~」
何か含みがあるような会話をするラーニアとリフレ。
この二人の関係を俺は知らないが……随分と長い付き合いなのは間違いないだろう。
「……もし雷帝と会ったら勝負してみたいんだが……」
「そんな暇はないわよ。
学園長からの言伝を済ませたら、とっと学園に戻るわ」
「訓練したいなら、ワタシとラーニアちゃんが相手をしてあげるよ。
マルスくんはと~っても強いけど、ワタシたちが教えて上げられることは沢山あると思うよ」
この間のラーニアとの訓練でも、学ぶことは沢山あった。
だからリフレからも、多くを学べるだろう。
「まぁ、雷帝も中々の戦闘中毒だから、あんたに会ったら興味を持ちそうではあるけどね」
一体、どんな人物なのか?
話を聞く限り想像が膨らんでいくばかりだ。
だが一つ言えるのは……。
(……きっと雷帝でも、師匠には勝てないだろうな)
あの人の影を超えるには、あの人を超える人間を倒さなくちゃいけない。
でも……そんな奴は永遠に現れないのかもしれない。
そう考えると少しだけ虚しくなる。
「どうしたのよ、マルス?」
「いや、なんでもない」
「そう……なら、あまりしけたツラ見せるんじゃないわよ」
どうやらラーニアは、俺の様子を心配してくれたようだ。
「そうだよ~マルスくん。
ラーニアちゃんが心配しちゃうから。
これでも結構、生徒想いないい教官なんだよ?」
「そうだな。
ラーニアは乱暴なところはあるが、根は優しいからな」
「なっ!? きゅ、急になに言ってんのよ!
リフレも、余計なこと言うんじゃない!」
ゴツン――リフレの頭部に拳が振り下ろされた。
「あぎゃっ!?」
お陰で、リフレの魔女帽がぺちゃんこになる。
「いった~~~い!
何するのよ!」
仕返しとばかりに、リフレの手がラーニアの胸部に触れた。
「きゃっ――あ、あんたね!」
「ふふ~ん、きゃっ! だって~!
きゃははっ! ラーニアちゃん可愛い~!」
「こんのっ!」
「残念~当たらないよ~!」
ラーニアの拳を軽やかにかわすリフレ。
そんな魔女娘を、全力で追いかけるラーニア。
(……仲がいいなぁ、この二人)
いつもの調子で喧嘩をする二人を見ながら、俺はそんなことを思うのだった。
それから暫く歩き続け俺たちは、無事にザンスブルグの町へ到着した。