依頼の朝
20180303 更新1回目
※
「ラフィも一緒に行きます!」
「ルーシィも行く」
「ルーフィも行く」
「じゃ、じゃあ私も……」
依頼内容について聞き終わると、皆が口々にそう話した。
「お前らな……マルスは遊びに行くんじゃねぇんだぞ?」
「残念だが、誰も連れて来るなとラーニアに念を押されてるんだ」
俺が伝えると、ラフィ、ルーシィ、ルーフィはしゅんとした。
「ラーニア教官、まさかマルスさん狙いなんじゃないでしょうか?」
「兎、鋭い」
「可能性大」
こそこそと、ラフィたちは何かを話していた。
「マルスなら大丈夫だとは思うけど、気を付けてね」
「ありがとう、エリー。
ラーニアとリフレも一緒だから心配しないでくれ」
「うん……本当に気を付けて」
教官と一緒だと話しても、エリーはやはり心配そうだった。
「ちょっとエリシャさん!
一人だけ旦那様を心配する健気な妻を演じないでください!」
「え!? そ、そんなつもりないよ!
私は本当にマルスが心配で……」
ラフィの言葉に、エリーはあわあわと狼狽えている。
「マルスさん、ラフィもマルスさんが心配です。
だから付いていっちゃダメですか?」
「ルーシィも一緒」
「ルーフィも一緒」
三人に上目遣いを向けられた。
だが、俺に付いてくるよりも、学園にいた方が安全なのは間違いない。
「みんな、あまりマルスを困らせちゃダメだよ」
「テメェが付いていっても足手まといだろうがっ」
「むっ! セイルよりは役に立ちますから!」
ラフィはぷっくりと膨れて反論する。
「戦闘能力のねぇ兎に何ができんだ?」
苦笑しつつ、セイルはラフィを挑発した。
「狼さんより、私達は強い」
「だから役に立つよ?」
ルーシィとルーフィがそう言って身体を寄せる。
確かにこの二人は、学園の生徒の中ではずば抜けた魔術センスを持っている。
だがそれでも魔族相手に生き抜ける力があるかは別だろう。
「……今回は我慢してくれ」
俺が伝えると、エルフ耳をしょんぼり垂れさせる二人。
「なっ」
二人の頭を優しく撫でてやると、小さく頷き渋々納得してくれた。
「じゃあ、今日はそろそろ解散にするか?」
みんなに、依頼のことも伝えたしな。
「そうだね。
マルス、私たちが力になれることは少ないかもしれないけど、もし何かあったらいつでも頼ってね」
「ああ、その言葉だけで十分力になってるよ」
エリーの気持ちは本当に嬉しかった。
不思議と心の中が温かくなる。
そんな俺の隣では、ラフィとセイルが睨み合い罵倒をぶつけあっていた。
俺とエリーはそんな二人に苦笑しつつも、喧嘩を止めて今日は解散となった。
※
そして時間は…依頼当日の朝となった。
準備を済ませて部屋を出ると、廊下でセイルと顔を合わせた。
「おはよう、セイル」
「おう……今日は依頼の日なんだよな?」
「今から行くところだ」
「……そっか。
オレがお前に言うことじゃないが……気を付けろよ」
言った後、照れくさそうにセイルは視線を逸らした。
そんなセイルの態度に俺は微笑がこぼれる。
「ありがとな、セイル。
じゃあ行ってくる」
そしてセイルと別れて、学園の宿舎を出た。
待ち合わせの時間にはまだ余裕はあるが、少し早く向かっておく。
「早いわね」
「やっほ~、マルスくん!」
「二人とももう来てたのか」
学園の正門で、既に二人が待っていた。
「依頼は時間厳守で当然よ」
「冒険者の心得だよ~」
ラーニアとリフレ。
普段は教官らしくない二人が、冒険者らしい一面を見せた。
「マルス!」
「マルスさ~ん」
「「ご主人様」」
声に振り向くとエリーたちが、こちらに向かって来るのが見える。
「みんな、見送りに来てくれたのか?」
「うん、マルス、私たちは待ってるから。
無事に帰って来てね」
「本当は付いて行きたいんですよぅ!
でも……マルスがラフィたちを心配してくれているのはわかりますから……我慢します」
「ご主人様、気を付けて」
「ご主人様、早く帰ってきてね」
みんなは俺のことを、かなり心配してくれているようだ。
魔族の存在がやはり気になっているのだろう。
「マルスくん、モテモテだね~」
「青春するのはいいけど、良識の範囲で頼むわよ」
リフレとラーニアの茶化すような言葉に、皆が苦笑してみせた。
「ちゃんと無事に戻って来るよ。
だからみんな、そんな心配そうな顔をしないでくれ、な」
俺の言葉に、エリーたちは頷いた。
だが、やはり表情は少し暗い。
みんなを早く安心させる為にも、少しでも早く依頼を達成して学園に戻って来るとしよう。
「ま、そんな心配しないでよ~。
これでもわたしたち、結構強いんだから。
マルスくんに怪我一つ負わさないよ~」
「その点はリフレに同意ね。
安心していいわ。
教官を少しは信じなさい」
リフレとラーニアも、生徒たちを安心させる為か教官らしいことを言った。
「じゃあとっと行って、さっさと帰ってきましょうか」
「うん! れっつご~だね~!」
こうして俺はみんなに見送られながら、二人の教官と共に、ラーニアの所属するギルドマスター――雷帝の下へと向かうことになった。