授業初日⑧ エリシアの魔術
15 8/24 サブタイトルを変更しました。
* エリシア視点 *
「――っ――」
高速で迫っているはずの炎弾が、今のボクの目にはゆっくり、ゆっくりと迫ってくるように見えた。
(このままじゃ、当たる……)
確実にかわすことはできない。
既に選択肢は限られていた。
一つは、魔術を使い炎弾を防ぐこと。
一つは、魔術以外の方法で炎弾を防ぐこと。
一つは、このまま攻撃を受けること。
(でも、この状況で攻撃を受ければ……)
必殺の魔術ではないとはいえ戦闘続行は不可能だ。
だとしたら、防ぎきるしかない。
(でも――)
魔術が使えない。
何か技能を持っているわけでもない。
(なら、どうやって……)
悔しい。
このままじゃ負ける。
また負ける。
一日で二度も。
どうして、どうしてボクは――
(どうしてボクは――こんなにも弱い……!)
心の中で次々に生まれた葛藤。
(強くなりたい……!)
でも、どうしたら強くなれる?
魔術も技能もないボクがどうしたら――
『そうならないと生きていけなかったから、強くなるしかなかった』
それは、不意に脳裏に蘇ったマルスの言葉。
マルスがこちらを見ている。
その瞳が、私を見つめている。
どうにかしてみろと訴えかけている。
この学院で生き残りたいなら強くなれと言われている。
そんな気がして――。
「――ボクは――」
集中する。
目前に迫る炎弾。
失敗したら確実に必中。
でも、今は不思議と失敗する気がしなかった。
全身が熱い。魔力が身体に漲っている。
(久しぶりの感覚――今なら――)
「――光の障壁よ――」
瞬間――ボクの正面に透明な壁が形成された。
* マルス視点 *
ダンッ――という音がなり、俺が放ったはずの炎の弾が地面を穿った。
本来その炎弾を身体に受けるはずだったエリシアは、既に跳躍から着地し俺の方を見ている。
その表情は、なぜかやたらと驚愕しているように見えた。
「反射の魔術か。便利な魔術だな」
エリシアは自分の魔術で、炎弾を反射させたのだ。
「え? い、今……」
「お前がやったんだよ」
「う、嘘っ……!」
「嘘って、じゃあなんでお前がそこに立ってんだよ。俺の魔術を反射させたから、今お前はそこでピンピンしてんだろ?」
「そ、そんな……それじゃ、本当に――!」
本気で驚愕しているエリシア。
だが、その驚愕はエリシアだけのものではなかったようで、
「あいつ、魔術が使えなくなったんじゃなかったのか?」
「で、でも、今見たよな?」
見学していた生徒たちは今の光景に目を疑っている。
だが、起こった事実は変わらない。
「魔術、ちゃんと使えるじゃん」
まるでタイミングを見計らうみたいに、
――カーン、カーン。
授業の終了を合図する鐘が鳴ったのだった。