休日の依頼
20180223 更新1回目
※
「……それじゃ、次の休日頼んだわよ」
「行くのは俺とラーニアだけか?」
「リフレも連れていくわ。
一応言っておくけど、エリシャたちを誘うんじゃないわよ?
外には魔族がいるかもしれないんだから」
確かに……。
一般的な生徒のレベルでは、魔族に遭遇すれば生き延びるのは不可能だろう。
「学院内には学院長がいるわ。
ここは大陸中でも安全な場所の一つってわけ」
「……そんな安全な学園を離れて、わざわざ外にって目的くらいは聞かせてくれるんだろ?」
「ええ。
あたしのギルドのトップ――雷帝に会いに行くのよ」
「雷帝?」
「そ。
学園長から言伝を頼まれたの」
「あの爺さんなら、言伝なんて魔法で伝えられそうなもんだけどな?」
「色々と理由はあるんでしょうね。
学院を覆う防御壁だって、相当な魔力を消費しているでしょうし」
爺さんがどんな化物だとしても限界はあるか。
万能な人間などいないのだから。
「……あたしとリフレが抜けるだけでも学院の防衛はかなり手薄になるから、他の教官を連れていくわけにもいかないのよ。
だからあたしの独断で、あんたを連れていくことにしたの」
「なるほど。
俺とラーニアとリフレの三人なら、魔族に襲われても返り討ちにできると考えたわけだ」
「そういうことよ。
ま、あたし一人でも負ける気はしないけどね」
「俺に負けた後なのに、口は達者だな」
「……今すぐ再戦してやろうかしら?」
満面の笑みのラーニア。
その顔は笑っているはずなのに、なんだか背筋がピリピリした。
「ったく、あたしは今から飲みに行くけど、あんたも来る?」
「生徒を飲みに誘うか普通?
俺は委員会に行ってから寮に帰るよ」
「そ、じゃあね。
後……あたしに勝ったとか言いふらすんじゃないわよ」
踵を返して戦闘教練室を出て行くラーニア。
「……まぁ、所詮は訓練だからな」
実戦なら俺がラーニアに100%勝てるとは限らないだろう。
負けるつもりはないが、それでも絶対はない。
圧倒的に実力が上であれば慢心は生まれ、それが命取りになる可能性もある。
だから――実戦では迷うことなく敵を殺せ。
その言葉は昔……アイネに教えられたことでもあった。
※
委員会に向かっている途中、
「おお、セイル」
「うす」
セイルと会った。
「お前も委員会に?」
「まぁな」
どうやらセイルも遊びに来たようだ。
「あ、マルス。
それにセイルも。
二人ともお疲れ様、学院対抗戦の訓練終わったの?」
「ああ、寮に戻る前に少し顔を出そうと思ってな」
「オレは少し気分がのったから来ただけだ」
「マルスさんのお疲れの身体を、ラフィが癒しちゃいます。
あ、セイルはさっさと帰っちゃっていいですよ」
「兎のだらしない身体じゃ癒せない」
「私たちがご主人様を癒す」
「だらしなくありませんから!
ラフィはもふもふですし、柔らかくて抱き心地も最高ですから!
さぁマルスさん、確かめてください!」
ラフィと双子たちがバタバタと俺に駆け寄って来た。
そんな三人を見て、エリーは苦笑する。
「マルス、良かったら紅茶でも飲む?」
「そうだな……」
寮に戻る前に、少しだけゆっくりしていこう。
それと一応、休日にラーニアと出かけることになったことを伝えておくか。
「みんな、次の休日なんだが……」
「ラフィとデートしますか?」
「私たちとデートする?」
「ご主人様となら大歓迎」
「み、みんなでどこかに行く?」
どうやら俺が遊びの誘いをすると思われてしまったらしい。
「……あ、いやそうじゃないんだ。
実は次の休みにラーニアと外出することになった」
「ラーニア教官と?」
「まさかとは思いますがマルスさん!
年上好きだったんですか? 誘惑されたんですか!?」
「……ご主人様、大きいの好き?」
「小さいの嫌い?」
何の好き嫌いを聞かれたのかイマイチわからなかったが、みんなが誤解していることはよくわかった。
「そうじゃない。
学院長からラーニアに依頼があったんだ。
俺もそれに同行することになった」
それからエリーたちに、ラーニアから聞いた依頼内容について話をした。