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VSラーニア④ 決着

20180218 更新1回目

         ※




 あれからどのくらい時間が経過しただろう?

 俺の連撃をラーニアは受け続けた。

 だが、この教官の体力は無尽蔵なのか全く疲れを見せない。

 それどころか、時間が経てば経つほどに集中力を向上させている。

 俺の動きに慣れてきているのかもしれない。


(……トップランクの冒険者ってのは、伊達じゃないんだな)


 ラーニアはAランクの冒険者だと聞いている。

 そして、冒険者の最高ランクはSらしい。

 かなりずしもランク=戦闘力というわけではないだろう。

 だが、Sランクにはラーニア以上の冒険者もいるはずだ。

 世界は広い……だが、それでも……。


「考え事なんて余裕じゃないの!」


「……お前が予想以上に強くて感心していたんだ」


「あんたね、それ教官に対して言うセリフじゃないから!」


 ラーニアのナイフが俺の頬を掠める。


「生徒を傷付けることに、少しは戸惑いとかないのか?」


「あんたは、そんな余裕を見せられる相手じゃないないでしょ!」


 ラーニアの動きは徐々に研ぎ澄まされていく。

 確かにラーニアは強い。

 彼女の攻撃は確実に俺を捉え始めている。


「イフリート! あたしごとやりなさい!」


 ラーニアが俺を捕まえ、そのまま腕の中に捕らえる。

 火属性への耐性があるラーニアだからこそ可能な戦い方だ。


「は?」


 イフリートが地獄の火炎を吐き出した。 

 戦闘場バトルフィールドが炎に呑まれる。

 炎が波のように流れ、火の海が出来上がった。

 が――


「っ……逃げられたか」


 俺は寸でのところでラーニアの腕から逃れた。

 彼女が掴んだのは俺の残像――そして俺は今、イフリートの火炎から逃れる為に跳躍した。


「イフリート!!」


「――*******」


 ラーニアの呼び声に合わせて、炎の化身は再び火炎を吐き出した。

 羽でもない限りは空を飛ぶことはできない。

 この攻撃を避けるのは困難だ……が、なら避けなければいい。

 俺は思い切り剣を薙ぎ、


 ――ブワアアアアアアアアアアアアアアアアン


 地獄の業火を切り裂き消し飛ばした。

 その尋常ではない風圧を受け、宙を飛んでいたイフリートは地面に叩き落とされた。

 俺は着地し、ラーニアに剣を向ける。


「……ラーニア、お前は他にも切り札があるのか?」


「あるわよ。

 でも戦闘訓練で使える切り札はこれで終わり……」


「そうか」


 つまり残りのラーニアの切り札は、相手を殺す必殺の一撃のみ……という事なのだろう。


「なんでそんなことを?」


「いや――もし負けてもいいわけするなよ?」


 直後、俺は動いた。


「なっ――!?」


 ラーニアには俺の動きが見えていたのだろう。

 俺に反応する……が、遅い。


「なっ!?」


 ラーニアの目前で、俺は光球ライトを発動させた。

 ピカッ――と、強烈が発生して、ラーニアの視界を潰す。


 同時に――ボゴッ――と、鈍い音が響く。


「がはっ……」


 俺がラーニアの脇腹に拳を叩き込んだのだ。


「っ――舐めんじゃ、ないわよ!!」


 ダメージを受けた状態でも反撃に転じるラーニアだが、俺の一撃は確実に彼女の動きを鈍くしていた。

 視界を潰された状態で、俺の気配を追うラーニア。

 だが、万全の状態でなくなった彼女の攻撃を避けるのは余裕だった。


「悪いなラーニア。

 だが、卑怯な手を使ったとは思うなよ」


 思い切り剣を振り上げ、それを振り下ろした。


 ――バアアアアアアアアアン!!


 強烈な音が響く。

 俺は大剣の腹でラーニアを殴り飛ばした音だ。


「ぐっ……」


 そのまま場外に吹き飛び、ラーニアは戦闘場の壁に激突した。

 そしてラーニアはその場で膝を突いた。


「……どうする? まだ続けるか?」


 顔を上げて、ラーニアは唇から流れる血を拭う。

 戦意は一切喪失していない。

 戦闘続行は可能だろう。

 魔力も十分残っている。

 イフリートも消えたわけではない。

 だが、


「……やめとくわ」


 それでもラーニアは戦いを止めることを選んだ。


「これ以上やると、あたしもマジになっちゃいそうだし。

 力を使い過ぎて、魔族に襲い掛かれるなんて事になったら致命傷だからね……」


 髪の輝きは消え、ラーニアの紅蓮の赤髪が元に戻っていく。


「はぁ……他の生徒には見せられないわね。

 生徒に負けるなんて……」


「……実際の戦いでなら、俺を殺せる可能性だってあったんだろ?」


「この状況で何を言っても言い訳よ。

 結果は出た。勝負はあんたの勝ち」


 勝負事に関してはいさぎがいいようだ。


「あまり悔しくなさそうだな?」


「これでも十分悔しいわよ。

 でも……訓練じゃ今まで何度も負けてきてるからね。

 なれてるわ」


 どんな天才だろうと、負けたことのない奴などいない。

 負けたことがあるからこそ、強くなれる。

 そして戦いは、最低限勝たなければならない状況だけ勝てばいい。

 そうすれば生き抜くことは出来るのだから。

 そうやってラーニアは冒険者として生き抜いてきたのだろう。


「じゃあ、約束通りあんたに付き合ってあげるわ。

 休日、空けときなさい」


「了解した」


「それと……」


「うん?」


「あたしに勝ったってリフレに言うんじゃないわよ!」


 さっきまでの訓練とは比べ物にならない殺意が俺に襲い掛かって来る。

 よほどリフレ教官に知られるのがイヤなのだろう。


「わ、わかった……」


「よろしい」


 満足そうに微笑むラーニア。

 結局のところ、この訓練で勝っても、負けても、ラーニアに付き合うのは変わらない

 が……久しぶりに面白い訓練が出来たので、俺はそれだけで満足だった。

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