VSラーニア②
20180212 更新1回目
まずは小手調べ。
俺はその場で魔術を行使する。
使用する元素は炎――イメージするのは地獄の業火。
俺の想像は形となり、ラーニアを襲う。
学園の生徒に対しては、絶対に使用しない火炎の渦をラーニアに放った。
「……ふ~ん」
だが、ラーニアは腕組みをしたままその場から動こうとしない。
そんな彼女を業火が呑み込む。
――ブワアアアアアアアアアアアッ!!
戦闘教練室全体を覆うように炎が広がった。
だが、
「あんた……舐めてるの?」
業火の中から、呆れるような声が飛んできた。
そしてラーニアが腕を振る。
すると――バッ! と、俺の魔法が掻き消された。
「……舐めてたわけじゃないんだが……まさかノーダメージか」
「あんたは知らないと思うけど、あたしは火の魔術が得意なのよ。
火の元素を扱った魔術に関しては学園長よりもあたしが上だと言える自負があるくらいにはね」
「へぇ……学園長よりもか」
あの底の見えない爺さんよりも上だと明言出来るのだから、余程自信があるのだろう。
「だから少なくとも、火の魔術をあたしに使うの無駄。
それと、小手調べなんて甘い考えであたしと訓練するつもりなら――」
会話の途中で、ラーニアの姿が消えた。
「あんたマジでぶっ飛ばすからね」
気付けば彼女は俺の目前にいた。
ぶっ飛ばす……と口にした通り、アッパーが飛んでくる。
「おっと――」
避けたつもりだが、想像以上に速い一撃だった為、顎を掠めた。
ダメージはほとんどない。が、やはり強い。
「どう? 少しは本気を出す気になったかしら?」
「……本気は出せない。
俺が本気を出すのは、相手を殺すと決めた時だけだからな」
「余裕ね……。
なら、あたしがあんたの力をどれだけ引き出せるか……試させてもらおうじゃない」
ニヤッと好戦的な笑みを浮かべると、太腿に取り付けているレザーシースからナイフを取り出した。
全く躊躇することなく、ラーニアは人体の急所ばかりを狙ってくる。
完全に殺す気……かと思うが、殺気はない。
いや、だからこそ厄介でもある。
殺気があればそれを察知し直感で避けることも出来る。
だが――殺気のない一撃は目視するか、音で敵の攻撃を把握する必要がある為、正直苦手だ。
(……人を相手にするのは、モンスターを相手にするのは違った面倒があるな)
今更ながらそんなことを感じた。
「流石に上手く避けるわね。
なら――これはどうかしら?」
強大な魔力を感じた。
ラーニアは猛攻を続けながら魔術を行使したようだ。
しかも無詠唱――数秒にしてその魔術は完成する。
「――生まれよ!」
瞬間――背後に魔力の波動を感じた。
なんだ?
気になったがラーニアの猛攻を避けている状態では、振り向いている余裕はない。
だが俺の直感が避けろと告げる。
迷っている暇もなく、俺は直感のままにサイドステップした。
同時に、顔を動かしちらりと周囲を確認する。
「……へぇ……」
ラーニアの傍に、女性の形を模した炎の化身がいた。
その化身は女神のように神々しく美しい。
「炎の化身――イフリート。あたしの契約している大精霊よ」
「へぇ……人間の身で……大精霊と契約してるなんてな」
「言ったでしょ? 火の魔術は得意なの」
「得意なだけでは、大精霊と契約は出来ないだろ?」
大精霊と契約出来る者たちは、元素の申し子と言われると、師匠――アイネが言っていたことがあった。
「はぁ……これでも驚かないのね。
一応、あたしの切り札の一つ……なんだけど?」
「驚いてるさ。
だが、大精霊を見たのは初めてじゃないんだ」
「……は? まさかあんたも大精霊と契約してるとか言わないわよね?」
「いや、俺の師匠――アイネが契約していた。
イフリートではなかったがな」
「……前から思ってたけど、あんたの師匠って何者よ?」
「何者……そうだな。世界最強かな?」
「世界最強って……あんたが言うんだからよっぽどなんでしょうね」
今の俺とアイネが戦ったらどうなるのか。
時折考えることがある。
だが、直ぐに考えるのをやめてしまう。
死んでしまった者とは、戦うことは出来ないのだから。
「……ま、いいわ。ここからが第2ラウンド。
あんたがもしイフリートを倒せるのなら――もう一つの切り札も見せてあげる」
「お前、切り札が何個あるんだよ?」
「さぁね」
そして、ラーニアは好戦的に笑うと、呼応するように炎の女神も妖しく笑った。