ミストレア復活?
20180210 更新1回目
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早朝。俺は一人、のんびりと学園に向かっていた。
歩きながら考えているのはバルガのことだ。
決闘を終えた後、あの男は言い訳をするわけでもなく自分の負けを認めた。
しかし、敗北して闘志が薄らいだかと言えばそうではない。
何らかの野心……とでも言えばいいのだろうか?
あの男は力に対する貪欲なまでの感情を秘めている気がする。
「マ~ルスさん!」
その言葉と共に、ふわっと柔らかな感触が腕を包む。
「ラフィ、おはよう」
「おはようございます!」
白くふわふわの耳をパタパタと揺らして、ラフィは俺に微笑を向けた。
「マルス、おはよう」
「ご主人様、おはよ」
「おはよ、昨日、した?」
エリー、ルーシィ、ルーフィの三人も一緒のようだ。
だが、した? と言うのはなんのことだろう?
思い浮かぶはのは、
「ああ、戦闘の委員会でのことか?」
「ん。圧勝だった」
「ん。噂になってる」
随分と大袈裟な話として広まっているらしい。
「流れで戦闘訓練になったんだ。
面白い力を使うやつだったが……まぁ、そのくらいの印象だな」
本当に、ただそれだけだった。
アリシアから、戦闘の委員会についての噂――学院対抗戦に出場する生徒を潰すような行為……が見られると思ったが、何か仕掛けてくることもなく。
(……バルガが何か関わっている、と思っていたんだがな……)
あの男自身に、他者を潰そういう意図はないように思えた。
もし学園対抗戦出場者を潰そうと言う流れが生まれてしまうのなら、それは多分……学園の生徒全体の意識の問題なのではないだろうか?
「……マルスさん、何かお悩みですか?」
「いや……まぁ、学園対抗戦まで、みんなが無事に過ごせればいいなってな」
「ミストレア先輩の件もあって、色々と不安だよね……。
他に何かトラブルが起こるんじゃないかって、考えちゃう……」
「自分の身、自分で守れるようになる」
「そう。頑張って、強くなる」
不安そうなエリーを鼓舞するように、双子は前向きな発言をした。
「……そうだな。
偉いぞ、ルーシィ、ルーフィ」
俺は二人の頭を撫でる。
すると、耳がピクッと揺れて、二人は柔らかな笑みを浮かべた。
(……何があっても俺がお前たちのことくらいは守ってみせるよ)
世界の全てを守りたいとは思わない。
でも、エリーもラフィも、ルーシィもルーフィも、それにセイルやアリシア、ファルトにネネア――大切な友達のことくらいは守ってみせる。
たとえ――何があったとしても。
「……マルスさん、双子にナデナデしたなら、ラフィにもしてください。
モフモフなラフィは、撫で心地抜群です!」
ナデナデ。もふもふ。
確かにラフィは撫で心地抜群だった。
「……」
「エリーも、するか?」
「はっ!?」
じ~っ、と、ラフィを撫でる俺を見ていたエリー。
だが、
「ち、違うよ、私は別にその……と、とりあえず教室に行こう!」
エリーは踵を返して歩き出した。
「ふふ~ん。エリシャさんは素直ではありませんね~」
「エリシャ、恥ずかしがり」
「あれは、損をする性格」
何故か勝ち誇る三人娘であったが、唐突に歩くエリーが立ち止まった。
「エリー、どうした?」
「……ミストレア先輩?」
エリーの視線の先を追う。
すると、校舎に向かって歩いているミストレアと、
「バルガ……?」
バルガ・ガルーダの姿が見えた。
なぜ二人が一緒に?
「ミストレア先輩、ショックでずっと部屋から出てこれないって聞いていたんだけど……。立ち直る切っ掛けを掴めたのかな?」
「……それならいいんだが……」
バルガと何かあったのだろうか?
それが切っ掛けになった?
わからないが……彼女が少しでも前を向いてくれるなら、それはきっといいことなのだろう。
「……バルガ、ミストレア」
俺は二人に声を掛けた。
「マルス……か」
「マルス君、昨日はバルガとやりあったそうだね」
「ああ、ちょっとした訓練だけどな」
「ちょっとした……か。
ふふっ、流石だね、マルスくんは」
なんだろう?
少しだけ影がある……というか、まだ本調子ではないのだろうか?
「……マルス君、学院対抗戦。
やはりワタシはなんとしても出場することにするよ」
「辞退は取り消せるのか?」
「それは無理だと思う。
でも、まだ対抗戦開催までは時間があるからね。
どうにかして機会を得るつもりだ」
「そうか……」
やる気になった……ということなのだろう。
「キミたちにも心配を掛けたね。
他の生徒にも今から謝罪をするつもりだから。
それじゃあ、また」
「ああ」
ミストレアが去って行くと、バルガは何も言わずに歩き出した。
少しだけ二人の様子が気になる。
特に仲がいい……というわけでもないようだが、何故一緒にいたのだろうか?
「マルス、私たちも行こうか」
「教室でゆっくりお話をしましょう」
「「ん。ご主人様とお話する」」
ミストレアたちの事は少し気になったが、考えても答えは出ない。
そう割り切って、俺はみんなに言われるまま教室へと向かった。