誘い
20180209 更新1回目
※ミストレア視点
ワタシは部屋を出た。
既に時間は遅く夜も更けている。
だが、どうしても確かめたいことがあった。
「バルガ……」
彼は今、どうしているだろうか?
ユーピテル学園の生徒の中でも、戦闘力のみで言えばファルト・ハルディオンに継ぐ生徒。
冒険者候補生の中でも、エリートと言って差し支えない実力を持った男だ。
ワタシは1年の頃からバルガを知っているが、彼のストイックに強さを求める姿勢には好感を持っていた。
いや、勝手に親近感を抱いていたのかもしれない。
「……彼は今も、変わっていないのだろうか?」
ワタシも彼も、今まで負けたことがないわけではない。
幾度となく敗北を重ねている。
だが、手痛い敗北というのはなかったように思う。
(……マルス君との戦い、バルガは完敗だったと聞いた)
そんな状況化でも、彼は前を向いて進んでいるのだろうか?
それともワタシと同じように立ち止まってしまうのだろうか?
(……もし彼が前に進んでいるのだとしたら)
その時は、ワタシも前に進めるかもしれない。
他者に切っ掛けを求める時点で、ワタシは戦士としては失格なのかもしれない。
それでも今、バルガと話をしてみたかった。
(……多分、戦闘の委員会にいるよね?)
バルガなら、今も研鑽を積んでいるのではないか?
そんな風に思う。
だからワタシはまず、戦闘の委員会に足を向けた。
※
委員会の前に到着する。
少しだけ隙間の開いた扉からは、光が漏れている。
どうやら中に誰かがいるようだ。
(……バルガかな?)
そう思い扉を開こうとした時だった。
「……マルス・ルイーナは、想像以上の化物のようです」
「そうか……。
ファルト・ハルディオンに勝利した時点で、とんでもないとは思っていたが……」
バルガの声が聞こえた。
そしてもう一人も……聞き覚えのある声。
誰と話しているのだろう?
「それで? ワタシを呼んだということは、お前はより力を望むということか?」
「勿論です。
強くなる為ならば、悪魔にも魂を売りましょう」
力を望む?
どういうことだ?
バルガは一体、何を……!?
扉が越しでは会話がはっきりと聞こえない。
そう思い、身体を寄せた時だった。
キィ……と、小さな音を立てて扉が動く。
「誰だ!?」
しまった。
気付かれた。
いや、そもそも最初から盗み聞きのような真似をしたのがいけない。
「っ……わ、ワタシだ、バルガ」
観念し、ワタシは扉の中に入った。
するとそこには、
「学園長……?」
「ふむ、ミストレアさん、だったか?」
「は、はい……申し訳ありません。
お二人の話を邪魔するつもりはなかったのですが……」
まさか学園長がいるとは。
しかし、彼がなぜバルガと?
「いやなに……ちょっとバルガくんと話をな。
わしからアドバイスがほしいと言うものでな」
「そ、そうでしたか……」
「ミストレア、話を聞いていたのか?」
「いや、声が聞こえてきたんだが……内容までは……」
嘘だ。
咄嗟に嘘を吐いてしまった。
一部、ほんの一部だけだが、聞こえていた。
「そうか、聞こえていたか」
「え?」
どうして?
なぜワタシの考えていることが?
いや、学園長先生であれば、その程度のことは造作もないのか?
「……どういたしますか?」
「うむ……そうだな。……確認だけしてみるとするか」
一体、二人は何を話しているのだろうか?
「ミストレア、キミは力が欲しくないか?」
「力……?」
「このユーピテルに通う以上、キミとて強くなるという目標を持った生徒の一人なのだろ?」
「そ、それは勿論……!」
ワタシは力が全てと考えているわけではない。
だが多くの者を守る為には力が必要なのも事実。
「ならその力を、『私』が与えてやるとしたらどうだ?」
「力を……?」
その甘い言葉まるで、悪魔の誘いのようにも思えた。
ワタシの弱さに付け入るように、学園長の言葉が心の隙間に入り込む。
「さぁ、この手を取れ」
伸ばされた手。
従わざるを得ないその誘惑。
力を、力を手にしたい。
弱い自分を変えたい。
その欲求は徐々に強くなっていき、伸ばされたその手を、私は取った。
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