三つ巴の戦い
長期間お待たせしてしまい、大変申し訳ありませんでした。
俺たちが、戦闘場に立つと。
「バルガさんが試合をするみたいだぞ?」
「え?」
「相手は……あのファルトと……マルス・ルイーナ!?」
戦闘の委員会は騒然となった。
「まさか、あんたと試合が出来るなんてな。
今が以前言っていた『機会』だってことなのか?」
自分と『戦いたい』なら機会を待て。とバルガは言っていた。
その言葉の意図は、今もわからないままなのだが……。
「……さてな。
だが、この学園の最強と名高い二人からの申し出を断るなどあっては、示しが付かぬだろ?」
それは、矜持ということだろうか?
「ははっ。
そいつは光栄だ。
戦闘の委員会の頂点――バルガ・ガルーダにそこまで言ってもらえるなんてな」
ファルトの口振りからするに、バルガも相当な実力者のようだ。
ユーピテルで最も多くの生徒が所属すると言われる戦闘の委員会。
その頂点に立つ男である以上、他の生徒と一線を画す実力があることは間違いない。
実際、確かにバルガは強いだろう。
鍛え抜かれた肉体。
その体内に内包する魔力もかなりのものだ。
こうして立っているだけでも隙はなく、常に周囲の警戒を怠ってはいない。
だが、それでもファルトほどではない。
それが俺の現状でのバルガの評価だった。
「だがバルガ。
おれはもう、最強は返上してる」
「……知っている。
闘技場の試合は俺も見ていた。
だからこそ、『機会』があるのなら『戦って』みたいと思っていたのだが……」
腕を組み力強く笑うバルガ。
隠された表情の内側から隠しきれない闘気が漏れ出していた。
「ファルト、お前がいるのもいい機会だ。
実際の実力を確かめるという意味では、『試合』も悪くないだろう」
「ははっ。
腰を抜かすなよ、バルガ。
お前もわかってると思うが、マルスはとんでもないぞ」
「底が知らないという意味では、お前も同じだがな」
軽口を交わすファルトとバルガ。
二人の関係は俺にはわからないが、付き合いの短い俺よりは、互いを理解しているのかもしれない。
「さて、それでは――そろそろ始めるか」
俺たちは互いに距離を取った。
「俺はいつでもいいぞ」
「こっちだ。
適当に始めてくれ」
俺とファルトの言葉の後、
「……審判。
開始の合図を」
「は、はい!
そ、それでは――試合……開始!」
そして、三つ巴の戦いが始まった。
相手がどう動くか。
軽く様子を窺おうかと思っていたが――。
(……早速か)
ファルトの姿は消えていた。
転移――と言っても差し支えない固有技能を、ファルトは使ったようだ。
転移先は――。
「さて……バルガ。
確かめさせてもらうぞ」
「むっ……」
バルガの背後だった。
それに、
(……確かめる?)
一体、なんのことだろうか?
ファルトはこの戦いを通して、何かを見極めようとしているのだろうか?
刹那の思考――その間にも、ファルトは獲物の太刀をバルガに振り下ろした。
開始直後の転移から、完全に意表を突かれているバルガ。
直撃を受ければ、行動不能は必須。
だが、ギンッ! ――と剣戟のような音を奏でたかと思えば、ファルトの太刀は弾かれていた。
(……なんだ?)
閃光の煌めきと共に、バルガが一閃されるだろう。
俺はそう予想していたのだが、傷を負うどころか全くの無傷だった。
しかも、身体を動かした様子すらない。
「相変わらず恐ろしく面倒な技能だ。
が、その程度の攻撃は避けるまでもない」
そしてバルガの握っていた魔石が光を放ち――長身のバルガを軽く超えるほどの巨大な武器を生成していた。
それは槍斧――ハルバードと呼ばれる武器だ。
ただの槍や斧に比べ、武器としての用途も多いが……それは使用者の資質があればの話だろう。
用途の多い便利な武器というのは、極めこそすれば強力な効果を発揮するが、一般の戦士が使うには器用貧乏になり兼ねない。
が、バルガはハルバードを構えると、左から右に勢いよく振りそのまま一回転。
ぶわっ――という強烈な風が戦闘場を舞った。
「……ふっ。
やはり厄介な力だな」
が、そのハルバートにより強打はファルトを捉えることはなかった。
転移したファルトは、少し離れた位置からバルガを見据える。
「腕は落ちちゃいない……というか、以前にも増して磨きがかかってるみたいだな」
「完全実力主義のこの学園において、日々研鑽を積むのは当然のことだろ?」
二人は互いに笑みを交わす。
互いに様子見の一手。
この試合を楽しんでいるのだろう。
(……なんだか置いていかれている感じだな)
だが、バルガの力は気になる。
「俺も混ぜてもらおうか」
俺は武器を形成すると、バルガに向かい疾駆した。