槍の騎士の矜持
更新遅れており申し訳ありません。
こちらキャラクター設定です。
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走りながら、セリカが状況の説明をしてくれた。
「ミストレア先輩は学院対抗戦の代表に相応しくない。
戦闘の委員会に所属する生徒たちがそう口にしたそうです。
それが原因で争いに発展したようで……」
つまり、戦って実力を認めさせることになった。
そういうことらしい。
「でも、問題は一対一じゃないことで……」
現在、ミストレアの実力に異議を申し立てた生徒全員と、ミストレアは一人で戦っているらしい。
「それをミストレア自身が許容したのか?」
「……はい」
まだ話は途中だったが、戦闘の委員会に到着した。
扉を開くと騒々しいほどの歓声が耳を劈く。
同時に目に入ったのは、複数の生徒に囲まれながらも応戦するミストレアの姿だった。
「はああああああっ!」
円を描くように槍を振り、相手の接近を防ぐ。
接近することを許せば、槍という武器の性質上、一気に形勢が不利になることを理解しているのだろう。
「あなた達、いい加減にしなさい!」
この状況で怒声を上げたのはアリシアだった。
喧噪が消え、場にいる生徒たちの視線が森人の生徒会長に集まる。
このまま争いも鎮まるのだろうか?
そう思っていると、
「……いい加減にするとは何をだ?」
決して大声ではない。
だが、威厳のある声が虚空に響いた。
「……バルガ」
声の主はこの戦闘の委員会のトップ――バルガ・ガルーダ。
「アリシア、もう一度聞くが――いい加減にするとは何をだ?」
「何を……? 私はこの戦いをやめろと言っているのです!」
再び激昂するアリシア。
険悪な雰囲気が室内を満たす。
そんな中、バルガは表情一つ変えない。
「戦闘の委員会に来て、
戦うなというのはおかしな話だな」
それどころか、淡々とただ当然のように正論を口にする。
「多勢に無勢の争い――これは戦いではなく、ただの暴力です!
あなたはそれで、またミストレアに怪我をさせるつもりですか!」
「暴力のない戦いがこの世にあるか?
政事ですら暴力が絡むというのに。
それに――戦いを求めているからこそ、ミストレアはここに来たはずだ」
アリシアから視線を移し、バルガはミストレアを見つめる。
「……ええ、バルガ。
あなたの言う通りです」
そしてミストレアは首肯した。
戦う為にこの場にいる。
それを肯定したのだ。
「ミストレア!
あなたは先日、ここで傷を負ったばかりではないですか!」
「……ああ、その通りだ。
だがねアリシア――ワタシは許せないんだよ」
「許せない……? 何をですか?」
アリシアが聞き返すと、
「この学院の代表に相応しくない。
ワタシのことをそう思う生徒がこれほど多くいたこと、
自分の力がその程度に思われていることがさ!」
「ミストレア……」
「もしこれがマルス君やファルトなら……。
異議を唱える生徒などいなかったはずだ!
この状況を招いたのはワタシに実力がないからだ!
これは――ワタシの矜持を守るための戦いなんだ!」
ミストレアは力強い眼差しでアリシアを見つめた。
「……本人もこう言っているんだ。
問題はないだろ?」
「っ……」
「これ以上の反論は、感情論でしかないぞアリシア」
そう言われて、アリシアが射抜くような視線をバルガに向けた。
「さっきから黙って聞いているが、
……お前はどう思う、マルス・ルイーナ?」
バルガが俺に顔を向けた。
ミストレアも、アリシアも俺を見る。
俺に答えを決めろと言っているようだった。
「ミストレアと一対一で戦って勝てる。
それが証明できる生徒はいるか?」
「マルス君! ワタシはこのままやっても負けはしない!」
「……いや、このまま続けたら先輩は負けるよ」
「っ――ワタシは負けたりしない!」
ミストレアは唇を噛み、悔しそうに俺を見つめた。